『おかえりモネ』第9週「雨のち旅立ち」
第42回〈7月13日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

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百音(清原果耶)は3度目の気象予報士試験で合格。勉強に付き合ってくれていた菅波(坂口健太郎)とは喜びを分かち合ったものの、サヤカ(夏木マリ)にはなぜか受かったと言えなくなってしまう。
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やがて、サヤカの300年のヒバを伐る日がやって来た。
サヤカ、ジリ貧だった
合格通知を手にした瞬間は、すぐサヤカに伝えたくて「サヤカさん」「サヤカさん」と探し回ったのに、いざ、顔を見たら「茶碗蒸しを作っていた」と誤魔化してしまう百音。その茶碗蒸しだってささやかなお祝いのつもりだったのだろう。複雑な心境の百音。東京の気象予報士の会社に心惹かれるが、サヤカを残していくことが気がかりで、「落ちた」とすぐにバレるような浅はかな嘘をつく。その浅はかな痛さは若さの証しであろう。こういう無防備でむき出しな人間を描いているところが『おかえりモネ』の良さのひとつである。
300年のヒバを伐ってもすぐに使えるわけではなく、乾燥に50年かかる。その間、保管する場所が必要なのだが、場所がない。言い出しっぺのサヤカが“新田サヤカ財団”でも作って保管できればいいが、診療所とカフェ付きの森林組合を建ててすっからかんになったと明かし、みんなびっくり。「姫」という渾名で派手に振る舞っているし、山も持っているというので、相当な資産家と思われていたが、意外にも……。
地方の山や土地は案外安いこともある。

翔洋(浜野謙太)も、自宅の木藏(きっつ)でヒバを保管する案に対して、「子供たちに悪い」「息子たちにそれは押し付けられない」と消極的だった。自分はいいけど(彼が登米の木材を大事にしている気持ちはスマホケースまで木材であることからも伝わってくる)、それを後の世代に任せるのは気が引ける。
この話はヒバをはじめとした林業に限った話ではないだろう。日本の経済の構造自体が働き盛りの者が高齢者を支える仕組みになっていて、でも若者の人数が少ないので負担が大きい。高齢者=ヒバ 百音=日本の若者、と考えるとわかりやすいだろう。第40回での亮(永瀬廉)のセリフ「過去に縛られたまんまでなんになるよ。こっから先の未来まで壊されてたまるかっつうの! 俺らは俺らの好き勝手やって生きていく」にもつながっている。
でも子どもに寄生する大人たちばかりではない。

一方、伐られる巨木の音は、叫び声のようにも聞こえる。演出が渋い。相変わらず上等過ぎる一木演出。百音が挙動不審で茶碗蒸しを作っているとき、後ろで「ん〜」って顔したサヤカと、そのあとのアップのサヤカの顔がきれいに連動している丁寧な画選びとかもいい。手触り柔らかだが質実剛健という印象なので、第41回のアヴァンで試験に不合格の説明だけポップにしていたのが珍しかった。
サヤカはきっと気づいている
百音の様子がおかしいことをサヤカは気づいていて、菅波に真相を聞きに行くも「守秘義務がありますんで」とまじめな菅波。でもその頑なな様子からサヤカはピンと来ている様子。自分がいなくなったら森林を守る者がいなくなる。木は役立つものだから、50年後、100年後のための準備も必要で。若者が今、この瞬間を大事にしたい気持ちも尊重すべきだけれど、長い目で見ての準備も必要で。それは高齢者の後を継げ、介護しろという話ではなく、若者たちひいては自分たちの子どもたちの未来のためでもある。
サヤカの後を継いで土地を守るべきか、気象予報士を目指すべきか……悩む百音。でも未知(蒔田彩珠)には試験に受かって何するの?とツッコまれる始末。百音、やっぱり無防備。無防備を言い換えるなら、悪く言えば「無策」、よくいえば「無垢」であろうか。
菅波も無垢で、サヤカに「(百音)に何もしてませんよ」と言うと、「何もしてないほうが問題ですよ。あんだけ仲良くて」とツッコまれる。試験に受かったときも簡単にハイタッチできずギクシャクしていた。百音と菅波、どっちも無垢なボケタイプ。似たもの同士で相性がいいってことだろうか。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami