『おかえりモネ』第15週「百音と未知」

第72回〈8月24日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第72回「大丈夫です。週末会いますから」(ドヤ)絶好調菅波、亮も動き出しそう
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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百音(清原果耶)は中継キャスターデビューに成功。一方、優秀そうで野心満々の莉子(今田美桜)はキャスターデビューで失敗し落ち込むが、翌日はがんばって挽回。成功も失敗も引きずらず、からっと晴天の扱いで気分が良かった。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第72回掲載中)

「ちょっと嫉妬しただけ」

「おはようございます」「おはようございます」と百音の澄んだ高くも低くもない明るい声が心地よい。やっぱり耕治(内野聖陽)亜哉子(鈴木京香)の子だなと痛感するまじりっけない明るさである。これからは毎朝、百音に「おはようございます」を言ってほしい。

百音はあとで幼馴染たちに「本番は落ち着いてやれたかな」と言っていて、本番に強い「くそ度胸」(by 菅波)ある人物として堂々としている。反対に、強気に見える莉子は慣れないハイヒールがつっかかったことをきっかけにテンポを崩してしまう。

番組終了後、高村(高岡早紀)に「続けさせてください」と平謝り。一回でいきなり外すようなことがあるくらいなら最初から大抜擢はしないだろうが。そこで内田(清水尋也)がネットでトレンド1位になっていると報告する。ネットでは「かわいい」「でも早すぎる」という記事までさっそく出ていた。

これで莉子の失敗も大きな問題にならなくて済んだ。莉子は百音に「案外、神経図太いんだね」とつい毒舌を言ってしまうが、すぐに「ちょっと嫉妬しただけ」と素直に言って空気を変える。莉子は除湿機のような人物である。まったくじめじめしていない。


からっとしているのは野坂(森田望智)も同じ。他に仕事があるのに朝岡(西島秀俊)が抜けた代わりに気象班のサポートもしていることに対して軽く不満も感じているようながら前向きに対応している。

彼らを影からそっと見守っている朝岡もなんだか急に自分のやりたいことのためにキャスターをやめてしまったことを誰も深刻に責めたりしない。朝岡はむしろ若い世代に仕事を任せた良い人みたいな感じになっている。

「気象予報はチーム戦です」と力を合わせようとする百音、莉子、内田、野坂の4人。こんなよくできた人たちばかりだったら職場もさぞ働きやすいことであろう。

リアルに考えたら、百音だってネットニュースになると思うけれど、それを描かないのはやさしい世界である。

『おかえりモネ』第72回「大丈夫です。週末会いますから」(ドヤ)絶好調菅波、亮も動き出しそう
写真提供/NHK

莉子たちの #KuToo

莉子がキャスターになるとハイヒールを履くようになったことに、2019年に広がった#KuToo運動を筆者は思い浮かべた。女性がハイヒールを履くことが当たり前のようになっていることに問題提議を投げかけた出来事である。ヒールの高い靴は身体に負担が大きいにもかかわらず、勝手な女性らしさのようなものを強要されるべきではないという声が女性たちから多数あがって盛り上がった。

『モネ』の時代設定は今、2016年11月なので#KuToo以前である。高村はキャスターを辞めて裏方に回っている今でもハイヒールを履いて男性社会のテレビ局で踏ん張っている。それは「100%中身で勝負できるほど世の中甘くない」とわかっているからだ。


莉子のハイヒールも、人気キャスター朝岡の後を引き継ぐ重さをハイヒールに込めているように感じる。でも、これまでかかとが低く歩きやすいサンダルみたいなものを履いていたのでヒールで動くことに慣れず、失敗してしまう。ヒールを責任の重さと見立てると同時に、そのヒールが果たして本当に自分らしさなのかまだわからずにいる高村と莉子の不安定さも感じられる。

対して、ヒールを履かない百音はマイペースで軽やかに初本番を乗り切る。まるで、男性が期待する「かわいさ」「美しさ」「女性らしさ」を背負わないほうがうまくできることがあるように。



『おかえりモネ』第72回「大丈夫です。週末会いますから」(ドヤ)絶好調菅波、亮も動き出しそう
写真提供/NHK

テレビの仕事にはかわいさも大事であり、きれいごとばかりでは番組が作れないと考えている報道部所属でややセクハラ気味な佐渡(玉置玲央)の考え方(第71回)がスタンダードであった時代。「失敗」がネットニュースで「かわいい」ともてはやされる悔しさに触れることは、ドラマでありがちな女性同士のマウントの取り合いよりも重大なことである。『モネ』は、これまで世の中が描いてきた女性同士の足の引っぱり合いは男性の勝手な女性らしさへの期待が引き起こしているのではないかとも感じさせる。

女性同士が連帯して各々のやりたいことを叶えていく、良い天気で外干ししてふんわり乾いた洗濯物のように清々しい世界を描いている『モネ』だが、唯一、妹・未知(蒔田彩珠)だけが異彩を放つ。彼女だけは姉・百音の行動になぜか長雨で洗濯物の芯がなかなか乾かないような湿った感情を抱いている。

「大丈夫です。
週末会いますから」

百音がテレビデビューして、亀島も登米も大騒ぎ。登米では菅波(坂口健太郎)が百音に電話をするが、亀島の家族や幼馴染との電話に忙しい百音は菅波の電話に気づかない。

森林組合の人たちに、このままでは誰かにとられてしまうかもしれないとからかわれると、「大丈夫です、今週会いますから」と強がる。外堀を埋められることがいやだと言いながら、自ら状況の進展をややドヤ顔で明かす菅波の面倒くささ。今日も「#俺たちの菅波」は絶好調であった。だがそろそろ「#俺たちの亮ちん(永瀬廉)」も動き出しそうだ。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪










番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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