朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第3週「1942-1943」
第14回〈11月18日(木)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

※本文にネタバレを含みます
※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第15回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせしています
「幸せになれ。幸せになれ。幸せに……なれ」
「稔は出征することになりました」というナレーション(城田優)の後に、もんぺを履いた安子(上白石萌音)がいつもの神社でお参り。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜14回掲載中)
展開が早いなと思ったら、畳み掛けるように「杵太郎は腰痛が悪化したうえに肺を患っていました」と再びナレーション。今日は土曜日の週の振り返りだったかと一瞬考えてしまった。が、その後はじっくりと描かれる。
寝込んだ杵太郎(大和田伸也)。看病する安子。「美味しゅうなれ。美味しゅうなれ。美味しゅうなれ」と小豆を炊く夢を見ていたと安子に話す杵太郎。甘い香りが安子からすると言い、「幸せになれ。幸せになれ。
そしてこの時の照明が印象的だ。布団に暖色系のピンスポが当たり、そこだけぼうっと浮き上がって見える。それはまるで杵太郎の命の灯火のようにも見え、寄り添う安子にもその灯が染み込んでいくようで。ふたりの体がマッチのようにあたたかい光に包まれ、童話の世界みたい。なんて汚れのない人達だろうか。
小さな行李を取り出して、中から杵太郎の愛用していた足袋を取り出すひさ(鷲尾真知子)。真っ白い足袋を取り出して、杵太郎の傍らに顔を埋めた。人が亡くなるシーンは悲しい。けれど、杵太郎とのお別れはたくさんの思い出とあたたかい愛情が感じられて、寂しいけれどそれだけではないものになっていた。
その後、金太(甲本雅裕)が千吉(段田安則)に会った時、「どうか悔いのないように、息子さん(稔)を送り出されてください」と言う。「悔いのないように」という言葉に主題歌「アルデバラン」の歌詞<きっといつか儚く枯れる花 今私のできるすべてを>を重ねてしまう。杵太郎は「たちばな」の仕事を息子に託し、安子には「幸せになれ」と命の炎を託していったのだ。
足袋とお汁粉が原点
稔が12月に出征するというのに千吉は銀行の頭取との縁談を進めようと躍起になっていた。ラジオからは多くの学生たちが出征していく様子が流れている(1943年10月21日、明治神宮外苑の出陣学徒走行会の模様であろうか)。見かねた勇は千吉に自分が頭取の娘と結婚すると言う。なんて健気な勇。野球もできなくなって自棄になっているところもありそうだ。それにしても勇はばんからなとこもあるし、浅はかなところもある反面、妙に達観したところもあって、多層的で魅力がある。
千吉もなんだかんだ言いながら自分のしていることに引っかかりを覚えているように見える。ふと、好物の「たちばな」のおはぎが食べたくなって店を訪れるが、この時世、おはぎは置いてなかった。
安子はおはぎの代わりにお汁粉を店の奥から持ってくる。「早ようお元気になってくださいね」。千吉が気落ちしていると感じた安子が杵太郎の初七日にひさが作ったお汁粉を差し出したのだ。「ぬくもりますな」と食べているときの千吉はいつものきりっと神経質そうな顔が緩んでいる。
第13回のレビューで制作統括の堀之内礼二郎プロデューサーが語った「第14回で、安子の千吉(段田安則)に対するある行為」とはこのお汁粉エピソードのことだった。「ともすればあざとく見える可能性もあるのではないかと思っていたら、上白石さんが演じる安子にはまったくそれが見えませんでした。距離の取り方や目線の配り方ひとつひとつのお芝居で、安子の素朴さや純粋さを表現されているので、自然にみんな彼女のことが好きになってしまいますよね」と言うように、安子の控えめな笑顔や語り口に思いやりあるあたたかい人柄が感じられた。

金太と千吉が店で並んで座り、お汁粉と足袋、それぞれの家の原点について語らう。家の規模は違うが、それぞれ、長男を戦争に出す痛みは同じである。そして商いを懸命にやってきたことも同じである。そんなふたりが向き合ってお互いどんな気持ちになったのか。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami