「人生100年時代」は、もはや理想論ではなく現実になりつつあります。『東大名誉教授が教える 死なない生き方』(北村俊雄/日本経済新聞出版)では、細胞生物学や免疫学の研究に携わり、iPS細胞研究にも関わった東大名誉教授が、最新の生命科学やアンチエイジング研究をもとに、「健康寿命100歳」を目指すための生活習慣を解説。
運動や睡眠、食事、ストレス対策まで、長く元気に生きるための実践法を紹介しています。

今回は「コレステロールの数値」について。
○コレステロールは単なる悪者ではない

「血中のコレステロール値が高いと動脈硬化が進み、血管が詰まって、心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなる」。これは長年言われつづけてきたことであり、間違いではない。

特に欧米では心筋梗塞や脳梗塞で亡くなる人が多く、コレステロールには神経質になっていた。私が米国留学した1990年代は、スーパーで売っている肉は赤身の肉ばかりで、日本で重宝される霜降り肉などはほとんど見なかった。さらに驚かされたのは、コレステロールフリーの卵である。卵を割って液体にしてから卵焼きを作るのが通常だが、その液状の卵からコレステロールを抜く処理をして、牛乳と同じような紙パックに入れて売っていた。試しに買って卵焼きにして食べてみたが、本当に味気がなかった。購入したのは1回だけだった。

その後、コレステロールを低くしすぎると、かえって循環器疾患が増えるという報告が有名な学術誌に掲載されてからは、コレステロールに関する極端な対応はなくなった。

コレステロールは、人を太らせるためや動脈硬化を作るために存在するのではなく、細胞膜やホルモンやビタミンDの原料となり、細胞分裂や細胞内のシグナル伝達に必須の、きわめて大事な物質である。
誤解されることが多いが、コレステロールはエネルギー源とはならない。エネルギー源になるのは、中性脂肪と糖である。

血中脂質の中には、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪が含まれる。LDLコレステロールは悪玉、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれていて、LDLが動脈硬化を作り、HDLが動脈硬化を防ぐ方向に働く。実際、LDLコレステロールがほとんどないマウスでは、動脈硬化は起こらない。

全般的には、食事に気をつけてLDLコレステロールを下げることは良いだろう。しかしながらLDLコレステロールは、肝臓から全身にコレステロールを送るという重要な働きをしているので、下げすぎるのは良くない。
○コレステロール:適正な血中濃度

コレステロールはどの程度なら健康に一番良いのか? 総コレステロール値の正常値は、検査会社にもよるが140~210mg/dLくらいが標準だ。

しかし、1万人近い日本人を17年以上追跡し、年齢、性別、高血圧、糖尿病、喫煙歴、アルコール摂取量などで補正したデータを比較した結果は意外なものだった。

このデータでは、死亡率が一番低いのは総コレステロール値が200~260あるいは220~260mg/dLくらいの人であることを示している。一方、総コレステロール値が260mg/dL以上になると急に死亡率が高くなる。

一見、予想外の結果だが、知り合いの生命保険会社の人が、「総コレステロールの値が220~270くらいの人が一番長生きする」と教えてくれたことと合致している。
この予想外のデータは意外に信憑性がありそうだ。生命保険会社ではきっと総コレステロール値(あるいはLDLコレステロール値)と平均寿命、あるいは死亡率の相関は調べているだろう。
○LDLコレステロールとHDLコレステロール

これらのデータから言えることは、コレステロールが少々高くても、あまり気にすることはないということと、コレステロール値が250を超えたらコレステロールを下げる薬(スタチン)を服用すべきということだ。

ただ、最近は総コレステロール値を治療の目安にする医師は少数派となった。動脈硬化を改善する善玉のHDLが多くて、悪玉LDLが少ない人もいるからだ。

現代では、総コレステロールからHDLコレステロールを引いたnon-HDLコレステロールの値を一番重視するという医師も多くなってきた。日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドラインに掲載されている。

LDL値は120mg/dLまでが正常値で140mg/dLまでは食事療法、140以上は治療が必要になる。LDLコレステロールが高いと死亡率が高くなることは男性では確認されているが、女性では有意差が認められないという報告もある。

ただ、LDLコレステロールが以前より高くなると、冠動脈疾患の発症とそれによる死亡リスクが高まることは、男性でも女性でも確認されている。

一方、LDLコレステロールが高い方が脳出血性の疾患のリスクは低いというデータもあり、単純ではない。コレステロール値が高い場合、治療方針などについては、専門医に相談することが必要だ。


○『東大名誉教授が教える 死なない生き方』(北村俊雄/日本経済新聞出版)

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