ついに本日19日に公示された衆院選。岸田文雄首相はこの選挙を「未来選択選挙」などと呼んでいるが、これはとんだまやかし。
その安倍晋三・元首相はきょうYouTubeに「あべ晋三チャンネル」を開設するなど、完全に調子に乗っているが、こうした動きは裏ではもっと露骨だ。この衆院選で、自身の子飼いである「問題候補」をゴリ押ししているのである。
そのひとりが、これまで数々の差別発言・歴史修正発言を繰り返してきた杉田水脈氏だ。安倍元首相はなんと弟を使って、あんな差別議員を衆院選で優遇するよう圧力をかけていたらしい。
杉田氏は前回2017年の衆院選で比例代表中国ブロックから立候補し、自民党の比例名簿登載順位は、小選挙区との重複立候補者を除いて1位という厚遇を受けて当選を果たした。
だが、ご存知のとおり杉田氏は「新潮45」(新潮社/2018年8月号、その後休刊)での性的マイノリティについて「生産性がない」などとする差別論文問題を引き起こしただけでなく、昨年9月にも自民党の内閣第一部会などの合同会議で性暴力被害の相談事業について語るなかで「女性はいくらでも嘘をつけますから」と発言。さらに、昨年1月には衆院本会議の代表質問で国民民主党の玉木雄一郎代表が夫婦別姓を選べず悩んでいる人のケースを紹介し選択的夫婦別姓について尋ねようとした際、「だったら結婚しなくていい」というヤジが飛ばされたが、このヤジの主も杉田氏だったとみられている。
どこからどう見ても議員失格の差別発言を何度も繰り返してきた杉田氏。「生産性がない」発言の際には、杉田氏に対する批判のみならず、比例単独1位で議員にした安倍自民党に対する批判および責任を問う声も起こったが、なんと岸田自民党は今回の衆院選でも杉田氏を候補者として公認したのだ。
公認したこと自体、岸田首相が杉田氏の発言を黙認している証拠であり、到底看過できないが、自民党内ではさらに信じられないことが起こっていた。
前述したように、安倍元首相の実弟である岸信夫防衛相が、自民党本部の遠藤利明・選挙対策委員長に対して「今回の衆院選で杉田氏の比例名簿の順位を上げろ」と圧力をかけていた、というのだ。
そのことを報じたのは、18日に「NEWSポストセブン」で配信された元NHK記者であるジャーナリスト・相澤冬樹氏によるレポート。相澤氏は、岸防衛相が自民党山口県連会長として遠藤選対委員長に宛てた「第49回衆議院議員総選挙に係る比例代表第二次公認候補者について」という文書を入手。山口県といえば、林芳正・元文科相が参議院から鞍替えして山口3区からの立候補を決め、同区の現職である河村建夫・元官房長官との対立が起こっていたが、長男・健一氏の比例区からの出馬を引き換え条件にして河村元官房長官は出馬を断念。自民党本部は健一氏を比例代表中国ブロックで追加公認していたのだが、この文書で岸防衛相は健一氏の同ブロックでの公認に抗議。その上で、このような要求をおこなっていた。
〈当県連といたしましては、比例代表中国ブロックでは、既に、現職の杉田水脈氏を第一次公認候補としてご決定いただいており、本候補の名簿上位掲載にご配慮をいただきますよう、強くお願い申し上げます。〉
差別を助長する発言を連発してきた杉田氏がこれまで何ら処分も受けずに国会議員をつづけてきたこと自体が異常事態だというのに、その上、「比例名簿の順位を上位に上げろ」と要求するとは……。絶句するほかないだろう。
無論、岸防衛相が「杉田氏の名簿順位を上げろ」と要求したのは、実兄である安倍元首相の意向であることは疑いようもない。
そもそも、杉田氏は極右政党・次世代の党の所属議員だった2014年10月に国会で「男女平等は、絶対に実現しえない反道徳の妄想です」と暴言を吐き、「週刊プレイボーイ」(集英社)でのインタビューでは、日本に男女差別は「ない」と断言。「あるとすれば、それは日本の伝統のなかで培われた男性としての役割、女性としての役割の違いでしょう」「(基本的人権が守られている上に)そこにさらに女性の権利、子供の権利を言い募ると、それは特権と化してしまう」との驚くべき前近代的主張を展開したことで大きな非難を浴びたことがある。
だが、こうした杉田氏のアジテーションに注目したのが、安倍元首相だった。
「安倍さんがやっぱりね、『杉田さんは素晴らしい!』って言うので、萩生田(光一・自民党幹事長代行)さんが一生懸命になってお誘いして、もうちゃんと話をして、(杉田氏は)『自民党、このしっかりした政党から出たい』と」
つまり、極右思想はもちろんのこと、女性や性的少数者に対する差別発言を繰り出すことを看板にする杉田氏を、当時首相だった安倍氏は「素晴らしい!」と称賛して、比例単独候補としては最上位という厚遇で自民党に引き入れた、その張本人なのだ。
当然、杉田氏の言動に対して批判が殺到しても、安倍首相にとっては「問題議員」という認識はまったくなく、むしろ総理という立場では口にできない“本音”を広めてくれる役割を立派に果たしてくれる議員という認識だったはずだ。
実際、くだんの「生産性」問題の際も、安倍首相行きつけの中国料理店「赤坂飯店」でおこなわれた自民党山口県連青年部・青年局の会合で仲良く同席。このとき杉田氏は「すみませーん、お騒がせしています」と笑顔で登場したといい、安倍首相は杉田氏の辞職を求める自民党本部前でおこなわれたデモに対して「なんでみんな騒いでいるんだろうね」などと口にしていたという(「週刊文春」2018年8月16・23日合併号/文藝春秋)。さらに、テレビ出演した際に杉田氏の問題を問われたときも、安倍首相は「『もう辞めろ』と言うのではなく、まだ若いですから、注意をしながら仕事をしてもらいたい」と擁護した。
また、杉田氏は、先の自民党総裁選では安倍元首相が支持した高市早苗の最側近として活動。テレビ出演時には慣例上同行者は1人だけと決められており、他の候補者は副大臣経験者を連れていた一方、高市氏は要職に就いたことのない杉田氏を同行させていた。
ようするに、安倍元首相は杉田氏の言動を何ひとつ問題視せず、それどころか野党議員やフェミニスト、研究者らに対する不当な攻撃を繰り出してネトウヨから拍手喝采を浴びてきた杉田氏を評価。今回、実弟を使って「比例名簿の順位を上位に上げろ」と党本部に圧力をかけた、というわけだ。
そして、この圧力が功を奏したのか、比例中国ブロックからの立候補を予定されていた河村健一氏は公示直前になって比例北関東ブロック32位に変更に移動。昨日公表された自民党の比例代表名簿によると、杉田氏の順位は中国ブロックで比例単独候補としては3位となっている。
安倍元首相の意向により、差別扇動候補者がまたも厚遇を受ける──。岸田首相は「刷新」を謳ってきたが、その実態はまさしく「安倍自民党」のままだと言うほかないだろう。
しかし、安倍元首相の息がかかった問題ある候補者は、杉田氏だけではなく、もうひとりいる。それは、長崎1区から自民党公認で初出馬する初村滝一郎。この名前に見覚えのある人も多いだろうが、初村氏は安倍元首相の事務所で政策秘書を務めてきた人物だ。
初村氏といえば、過去には首相の秘書でありながらFacebookで「保守速報」の記事を紹介したことでも物議を醸したが、じつは初村氏の父・謙一郎氏は安倍元首相が加計学園の加計孝太郎理事長と親交を深めた南カルフォルニア大学留学時代からの親友。ジャーナリスト・森功氏の『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(文藝春秋)によると、父・謙一郎氏との縁から初村氏は安倍事務所の秘書となり、「金庫番として事務所の顔」に。安倍夫妻が仲人を務めた初村氏の結婚披露宴には加計理事長やNHKの岩田明子記者が出席していたことがわかっているが、そればかりか「滝一郎君は安倍首相の懐刀であり、安倍首相本人が目に入れても痛くないほど大切にしてきた。昭恵夫人もずい分、気に入っていて一時は養子にするのではないか、とも囁かれていた」という。
だが、このように「安倍首相の懐刀」と呼ばれてきた初村氏は、当然ながら安倍元首相の数々の疑惑でもその名前が浮上。たとえば、国会で森友学園の国有地売却問題が取り上げられ、昭恵夫人が名誉校長を辞任した際には、籠池泰典氏が「ハツムラさん」から「コワモテの声で」電話があったと証言。
さらに、「桜を見る会」前夜祭問題では、安倍事務所側は会場となったホテルニューオータニの広報部長ら2人を議員会館にある安倍事務所に呼び出し、「会費は5000円」だと口裏合わせを要求。その後、初村氏が官邸に出向いて安倍首相にその報告をおこなったと「週刊文春」が報道している。
つまり、初村氏は安倍夫妻から寵愛を受けてきただけではなく、森友問題や、安倍氏が検察審査会から「不起訴不当」と議決された「桜前夜祭」問題の真相を知る立場にある「疑惑のキーパーソン」なのだ。
そして、当然ながらこの初村氏の衆院選出馬にも、安倍元首相は一枚噛んでいる。西日本新聞の報道によると、自民党の長崎県連が衆院長崎1区の候補者の公募を始めた際、地元政界関係者のもとに安倍元首相から直接、こう電話があったというのだ。
「うちの秘書が応募するので、しっかりと公正に選考してください」
長崎県連では公募前にはすでに女性県議を候補にすることで話は進んでいたというが、この安倍元首相の「鶴の一声」によって一変。さらに〈閣僚や安倍氏周辺から地元国会議員、業界団体への働き掛け〉などもあり、結果として初村氏の擁立が決まったという。
安倍氏の所属派閥である細田派のなかでは「安倍さんは初村さんが余計なことを言わないよう、口止めのために選挙にねじこんだのではないか」という声も出ているというが(「週刊現代」8月7・14日号/講談社)、疑惑の渦中にある人物が、安倍元首相の力によって衆院選の自民党公認候補になっているのである。
このように、差別扇動や不正疑惑の当事者を安倍元首相がねじ込んでいる衆院選。当然ながら、これら正真正銘の「安倍チルドレン」は落選させるしかない。
しかも、その目は十分にある。
さらに杉田氏の場合、前回2017年の衆院選では、杉田氏の名簿順位は比例単独候補としては1位だったが、実際の順位は17位で1~16位までは小選挙区との重複候補だった。そして結果は、自民党は比例中国ブロックで5議席を獲得し、広島6区で落選した小島敏文が比例復活、杉田氏は2番目で当選となった。
一方、今回の衆院選における比例中国ブロックの比例名簿順位は、1位が比例単独で新人の石橋林太郎・元広島県議、2位から17位が小選挙区との重複候補、18位が参議院から鞍替えした比例単独の髙階恵美子・元厚労副大臣、19位が杉田氏となっている。今回の選挙では野党の選挙協力による候補者一本化が進んだことにより激戦が予想される小選挙区が続出しているが、中国ブロックの自民比例獲得議席数が前回と変わらず5議席になったとしても、小選挙区で自民党の重複候補が3人落選し比例復活となれば、杉田氏を落選させることができる。
小選挙区でも比例でも、自民党にNOを叩きつける。それこそが「民主主義の危機」を打開し、「安倍政治と決別」するための唯一の方法なのだ。