世界情勢の不透明感が増すなか、どうやって資産を守ればいいのか。ファイナンシャルプランナーの高橋成壽さんは「日銀の利上げとイラン情勢の緊迫という『利下げ・平和』の前提が崩れた今、本当の意味での資産分散を実現するために見直しをするべきだ」という――。

■2026年、プロ投資家は何を買う?
2026年2月28日、アメリカとイスラエルがイランを攻撃したことを境に、世界情勢は混乱しています。日本国内では日本銀行による金利引き上げが見込まれ、資産運用は難しい局面となっています。このような状況下で、新NISAにおける投資対象や投資配分を変更すべきでしょうか。一般論からプロ投資家の動きを含めて解説します。
読者の皆さまがもっとも気にしているのは、イラン情勢ではないでしょうか。イラン情勢は2つの不確実性をはらんでいます。1つは戦争であること。もう1つはエネルギー資源の枯渇を懸念させることです。
1つめの不確実性は戦争です。戦争が起こりそうな状態や、実際に戦争がはじまるとプロの投資家は株式のような価格変動の大きなリスク資産を売却します。売却した資金は現金では保有しないため、別の金融商品を購入します。
投資先は安全性の高い資産である、金(ゴールド)や国債などに資金が流れます。
このような資金の移動を「リスクオフ」といいます。結果として、株価が下がり逃避先である金などの資産価格が上昇します。
■イラン情勢でガソリン代と株価が動く理由
もう1つの不確実性がエネルギー資源の枯渇です。イラン情勢によって脅かされたのがエネルギー源である原油の確保です。日本の原油の調達先は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦といった中東諸国が中心で、実はイランは主要な取引先ではありません。そのため、イランが戦争状態となっても日本のエネルギー事情には影響はないように思えます。
イラン産の原油でなくても原油を運ぶ船(タンカー)はイラン近海であるペルシャ湾、ホルムズ海峡を通ります。その量は世界の原油取引の2割を占めています。イランがホルムズ海峡を事実上封鎖してしまえば世界の原油取引量は8割に減少します。
モノの価格は需要と供給によって決まりますので、原油が入って来ないとわかれば、売り手は高い値段でも売れるだろうと考えるため、値段を引上げます。実際には市場で価格が決まりますが、このような判断のため、原油価格が上昇します。
1:原油が枯渇するかもしれない

2:枯渇を見越して原油価格が上昇していく

このような状況が長引けば、企業においては光熱費や輸送費が増加し、収益を圧迫します。
株式価格は個々の企業が生み出す利益や成長性に基づいて算出されますから、原油価格が高くなると経費がかさみ、企業収益を圧迫し利益が減少することで適正な株価が下落します。
イラン情勢は株価にマイナスの影響を与えることがわかります。
■懸念される物価高と利上げのダブルパンチ
日本国内ではどうでしょうか。現在、日本銀行による金利引き上げが検討されています。住宅ローンを変動金利で借りている人や、奨学金を借りている人からすれば、物価が上がって生活が苦しい中でなぜ金利を引き上げるのか? と感じる人もいるでしょう。金利が上昇すれば、住宅ローンの返済額も奨学金の返済額も増えます。
ただ、ここは逆転の発想と言いますか、経済学の定説として「物価上昇を抑えるには金利を引き上げる必要がある」となっています。金利を上げると、企業は借入を前提とした設備投資を抑制します。個人は住宅購入を控えます。
このような買い控えによりモノやサービスが売れなくなると、その財やサービスの提供者は売るために価格を下げます。大まかに説明すると、このような順番でやがて物価の上昇が抑えられると考えます。
ただし、このような考えが成立するには、モノやサービスの価格が需要と供給で決まることが前提です。
金利を上げてから、物価上昇が緩やかになるまでは時間差が生じるでしょうから、一時的は物価上昇と金利上昇による支払額の上昇のダブルパンチを食らうことになります。
また、物価上昇の原因が賃上げなどによる別のコスト増加である場合は、金利引き上げの影響は物価上昇の抑制に対して限定的になる可能性があり、金利を引き上げても物価上昇が確実に止まるとは言えないところが、実体経済の複雑なところです。
■利上げが企業を追い詰める
さて、株価への影響はどうなるでしょう。企業活動の一環で資金調達として銀行などから運転資金や設備投資資金を借り入れている場合、金利上昇は支払利息の増加につながります。つまり、利益が減少することになります。利益が減れば株価の適正価格が下がります。利益が減少すると資金繰りも悪化し、成長性も低下することが懸念されます。
他にも、金利が上昇すると、借入の返済額も増えるため、借り手の支払いが滞る可能性が出てきます。これを信用リスクと言います。「貸したお金が返ってこない。借りたお金を返せない」そんな状況です。
特に資金繰りの悪い(信用状態が悪い)会社ほど金利が高いため、金利上昇は経営状態の悪い会社にとって追い打ちをかけることになります。
信用リスクが高まることは倒産可能性が高まることと同義のため、株価の下げ要因となります。
つまり、日本銀行が金利を上げようとすると、経営状態を問わず借り入れをしている場合、企業業績にマイナスの影響を与えます。
海外の金融メディアのニュースによると、イラン情勢の早期解決が見込めないことから一部ファンドが世界株式の取引を解消しているという趣旨の記事を公開しています。
実際に、MSCI ACWI(エムエスシーアイ・アクイ)(いわゆる全世界株式指数)は2026年3月に-7.13%、S&P500は-5.09%の下落となりました。
■投資信託の落とし穴と資産分散の重要性
景気動向と関連性の高い景気敏感株は売られ、景気に左右されにくく業績が安定している食料品や電気・ガスなどのディフェンシブ銘柄が買われているようです。
「新NISAだし、積立投資だし、一時的な下落は気にしない」という人もいるでしょう。ただ、10~20年後に資金がまとまった金額になった場合にも、同じような気持ちでいられるでしょうか。
人は得られる喜びよりも、失う痛みを避けたい傾向にあると言われます。行動経済学における損失回避性と呼ばれる現象です。
新NISAで毎月2万円積み立てて、2024年1月から30カ月弱。投資額は60万円で、時価評価は100万円に満たないです。100万円の資産がひと月で5万~7万円減るのは許容できても、1000万円の資産が50万~70万円評価が下がったらどんな気持ちになるでしょうか。

長期投資とはいえ、投資資金を使いたい時期に価格が下がっていたら、あなたならどうしますか、気にせずに売却しますか?
このような極端な選択を迫られないようにするにはどうすればいいのでしょう。それが資産分散という考え方です。
資産分散という言葉は聞き馴染みのない人もいるでしょう。投資信託に投資しているから資産は分散されているはず、と考えている人もいるかもしれません。実は、投資信託は銘柄分散であり、資産分散ができない投資信託がほとんどです。
■全世界株でも防げない暴落の正体
例えば全世界株式指数に連動するインデックス投資信託の場合、2000以上の株式に投資することになります。2000を超える投資対象に分散投資できているわけです。ただ、これは投資資産の種類はすべて株式となり、2000以上の会社に銘柄を分散して投資しているだけです。
銘柄分散は特定の会社の業績が悪化したり、倒産したとしてもその他2000を超える企業は存続するかもしれません。ただ、今般のイラン情勢のように株式市場から資金が流出する局面では、多くの株式で値段が下がるでしょう。そのため、投資信託を買うだけでは本当の意味でのリスク回避はできておらず、株式市場の下落リスクが残ります。これを「システマティックリスク」と言います。

対して、本当の意味での資産分散は考え方が異なります。株式とは値動きの原因や理由が異なる資産を同時に保有します。すると、リスクオフの際に、株価が下がっても、債券に資金が集まったり不動産や金(ゴールド)に資金が集まってくるかもしれません。
株式とは値動きの傾向の異なる資産(ここでは債券や金)などに投資することで、投資資金全体の価格変動を抑えることができます。このような状態を期待するための投資の考え方が資産分散です。
■オルカン一本が危ないと言われる理由
はじめから資産分散ができている商品もあります。一般にバランス型投資信託と呼ばれる種類です。日本株式、外国株式、日本債券、外国債券、新興国株式や債券、不動産など、色々な資産に初めから分散されている商品です。
巷で「オルカン一本は危険! S&P500だけでいいの?」といったネガティブキャンペーンのような記事やSNSでの投稿を目にすることもあるでしょう。
その理由は前述した資産分散ができていないからに他なりません。積立投資で時間分散と銘柄分散はできても、肝心の資産分散ができていなければ、株式という価格変動リスクの大きな金融商品に資金を投じていては、本当の意味でのリスクを下げたことにはならないのです。
資産分散って難しそうだと感じた人もいるでしょう。でも安心してください。資産の分類はそれほど多くありません。大きくは「株式、債券、その他(オルタナティブ)」の3つ。オルタナティブには、金(ゴールド)、銀、プラチナなどの希少金属。原油や穀物などの商品(コモディティ)、不動産などがあります。
■金、REITで「次の金融危機」に備える
このうち、有事に強い金(ゴールド)、家賃収入を狙った不動産(REIT)が伝統的なオルタナティブ資産です。金(ゴールド)は株式などから資金が逃避した場合の避難先です。不動産は価格上昇を期待するのではなく、家賃収入を安定的に得ることができます。
新NISAではこれらを組み込むだけで、2025年のトランプショックや今回のイランショックのような、株式市場の下落から保有資産価格の下落を防いでくれるでしょう。その代わり、値上がりの可能性を株式投資信託に集中する場合と比べて、一部諦める必要があります。
資産分散にはなりませんが、経済安全保障や日本国としての重点投資分野は今後の成長期待が大きいため、個別株式や日本の代表的な株式指数である、日経平均株価やTOPIXなどに連動する株式投資信託に投資するのもいいでしょう。
既にある程度まとまった資金を有している人は、資産分散の考え方を取り入れてみてください。

----------

高橋 成壽(たかはし・なるひさ)

ファイナンシャルプランナー

ファイナンシャルプラットフォーム株式会社 代表取締役。慶應SFCを卒業後、金融系のキャリアを経てFPとして独立。資産運用に強みがありFIRE達成後もIFA業務を継続中。IFAとして40~70代の資産形成と資産運用のアドバイスに従事している。著者に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。日本FP協会認定CFP、日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(証券アナリスト)。

----------

(ファイナンシャルプランナー 高橋 成壽)
編集部おすすめ