■「通信のNTT」と「エビの養殖」の意外な組み合わせ
NTTと、エビの養殖――。一見、結びつかない組み合わせだ。
しかし設立3年足らずのNTTグループ会社「NTTグリーン&フード」は、バナメイエビの陸上養殖で、国内最大のシェアを確立した。年間180トンの生産能力を有し、全国チェーンの串カツ店や大手回転寿司チェーンなどが“NTTエビ”を取り扱う。
同社の陸上養殖プラントは静岡県磐田市にある。かつてスズキの子会社が部品を製造していた工場に、16基の水槽を設置する。水槽を満たすのは、地下からくみ上げた海水と淡水をブレンドし、適切な塩分濃度に調整した400トンの水だ。水槽には、それぞれ数十万尾のバナメイエビが飼育されている。
なぜ、通信インフラを担ってきたNTTが、養殖事業に乗り出したのか。
「陸上養殖は、日本の食料自給率上昇に貢献できる大きなポテンシャルを持っている」
養殖を含んだ日本の漁業生産量は、1984年の1280万トンをピークに、2024年には約363万トンにまで落ち込んでいる。陸上養殖は、日本の一産業にどんな影響をもたらすのか。
久住社長に、陸上養殖事業の狙いと可能性を聞いた。
■エビが国産化できれば日本の食を守ることができる
【久住】もともと私は、NTTが持つ技術や、研究成果を利用した新規事業を立ち上げる部署にいました。なかでも私が着目していたのが、一次産業です。2019年頃から魚類の研究を手がけるベンチャー企業と共同で陸上養殖の実験などを行っていました。
日本では、マグロやサーモン、ブリなどの魚のほかに、エビやイカの消費量が多い。せっかく事業化するのなら、日本人がよく食べる魚介類に挑戦したいと思いました。
そのなかから、バナメイエビを選んだ要因のひとつが、トライアルアンドエラーを繰り返せること。というのも、バナメイエビは孵化してから4カ月で出荷できます。
国内で消費されるエビの90%以上は、海外からの輸入です。気候変動に加え、養殖による環境破壊が続けば、エビが食べられなくなる日がくるかもしれません。食の安全保障の観点からも、国内で一定の生産量を確保すべきではないか。陸上養殖は、食料自給率向上に貢献し、ひいては日本の食文化を守ることにつながる。NTTが陸上養殖を行えば、水産業の働き方やイメージを刷新できるはずだ。インフラ企業であるNTTこそが、社会性と経済性を両立できる陸上養殖に取り組むべきだと思いました。
■陸上養殖は勘や経験に頼らず、自然の影響も受けない
【久住】水産業は、生産量が温暖化や気候変動、海の状況に左右されます。それは、これまで主流だった漁や、海上に設置した生簀や筏で魚や貝類を生産する海面養殖も同じです。
従来の水産業で頼りにされたのが、事業者の勘と経験。しかし勘と経験頼りでは、新規参入のハードルが上がってしまいます。
一方で陸上養殖では、陸上に設置した水槽のなかで飼育します。自然の影響を受けず、データに基づいて水槽内の環境を管理できる。ずいぶん前から気候変動や乱獲などの影響で漁獲高が減少していますが、陸上養殖を事業化できれば、安定して生産できるようになります。
海外の主流である広い野池でエビを飼育する粗放養殖は、台風や温暖化などの自然環境に左右されやすいだけではなく、水質のコントロールが難しい。病気やストレスによる共食いなどによってエビが死んでしまう率が高くなりがちです。熱帯雨林を伐採し、養殖場をつくる場合も少なくありません。
日本の沿岸部でもブラックタイガーなどのエビの養殖が行われていましたが、海水温の上昇や、エビのエサや排泄物によって海水が汚染されたり、病気が流行ったりして事業の継続が難しい。こうした課題を克服できるのが、水質や環境を精密に制御できる陸上養殖でした。
そうしてNTTグリーン&フードを立ち上げたのが、2023年7月。その翌年の12月から磐田プラントの操業をはじめました。
■NTTの水槽には無数のセンサーやカメラ
磐田プラントに設置された水面に浮く茶色に濁った泡は、汚れではない。
各水槽には紐状のセンサーが垂れ下がり、無数のカメラで水温や塩分濃度、酸素量などをリアルタイムで測定している。プラント内にはWi-Fiが飛んでおり、数値が正常な範囲を少しでも外れると担当者のスマホのアラームが鳴る仕組みになっている。
従来の養殖現場とは異なる光景である。
初出荷まではどのような苦労があったのか。
■通用しなかった「N倍の理論」
【久住】最初に苦労したのが、水です。
エビは、成長段階によって適切な塩分濃度が変わります。とくに稚エビ(エビの赤ちゃん)のときは、塩分濃度が薄い汽水のほうが育ちがいい。それは実験の段階でわかっていました。しかし実験室がある富山と磐田では水が異なります。水温や水質はもちろん、水に生息するバクテリアの種類も違います。富山と同じことを、磐田で再現してみても同じようにはいきませんでした。
当初は、実験用水槽での飼育方法を大きな生け簀に移しても、同じ結果になるはずだと考えていました。
通信の世界では「N倍の理論」というものがあります。まずは最小単位で実証を行い、それをN倍にすれば、結果もN倍になる。陸上養殖でも、小さな水槽で可能なら数倍の規模の水槽でも可能になると考えていました。
しかし生き物にN倍の理論は通用しなかった。
陸上養殖で重要なのは、水流です。水をコントロールして、エビの排泄物やエサの残渣を一カ所に留まらせずに循環させる。ただし、流れの速さや角度を上手にコントロールしないと汚れが一カ所に留まり、水質が悪化してしまいます。
しかも陸上養殖用の水は濁っています。透明な水なら汚れやエサの残渣がどこに溜まっているか目視できますが、水中カメラを使っても把握できません。そこでセンサーで水質を常時チェックし、水温、アンモニア濃度、pH、溶存酸素濃度、微生物量などをチューニングしていき、最適値を見つけ出していきました。試行錯誤の末、水を制する者が陸上養殖を制するということがわかってきたのです。
■「漁業の素人たち」がエビの養殖を成功させた
水と水流を制した結果、水槽あたりの生産量は格段に上がり、NTTによるエビの陸上養殖は国内最大規模になった。
久住社長をはじめ、NTTグリーン&フードには、養殖業はもちろん、一次産業の経験者はほとんどいない。もともとNTTグループで働いていたメンバーが、陸上養殖に可能性を感じて集まった。いわば素人集団が、わずか創業3年で事業化を成功させたのだ。
【久住】NTTの素人にもできた。その事実が、経験がなくても陸上養殖という一次産業に参入できるエビデンスになると考えています。NTTには、“0から1”をつくるのは苦手な人が多い。逆に1ができると“1から2”“1から3”にするのは得意。最初に産みの苦しみを味わいましたが、これからはわれわれが得意な“標準化”が陸上養殖を広めていく鍵になります。
陸上養殖を広める“標準化”でポイントとなったのが、これまで明らかになっていなかったエビを養殖する上で、どんな環境が最適なのか、数値化したこと。
試行錯誤を経て、「この水槽の大きさなら、pHや溶存酸素濃度の値はこれ、飼育密度はこれ」「この密度なら、給餌の量や間隔はこう」というエビにとって最適な環境の再現が可能になりました。
最適な環境で、栄養価の高いエサを与えることで、味も食感も格段に向上しましました。取引先には味も食感も、高級食材のクルマエビに匹敵するという評価を受けています。実際、味の数値を分析するとクルマエビと同等の結果が出ました。
■「養殖のシステム」をパッケージ売りする
次のステップが、フランチャイズ化や、システムの販売です。いまは陸上養殖に参入したい業者にわれわれの知見や仕組みを提供する事業に取り組んでいます。NTTだけで日本の食料自給率に貢献しようと思っても限界がありますから。既にエビを使った商品を作るメーカーさんから「自分でエビを作りたい」といった問い合わせや、地方自治体さんから「廃校になった校舎を活用できないか」と相談をいただいています。
国内最大シェアと言っても磐田プラントとNTTグリーン&フード直営のプラント合わせて年間の生産量が最大180トン。対して、エビの輸入量は約20万トン。全体の数字から見れば、微々たる生産量です。しかしシステム事業が軌道に乗れば、10年後には消費量の数割を陸上養殖のエビが担えます。それは、決して不可能な未来ではありません。陸上養殖は、日本の食と未来を守る事業になり得るのです。
(後編へ続く)
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山川 徹(やまかわ・とおる)
ノンフィクションライター
1977年、山形県生まれ。東北学院大学法学部法律学科卒業後、國學院大学二部文学部史学科に編入。大学在学中からフリーライターとして活動。『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)で第30回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。著書に『カルピスをつくった男 三島海雲』(小学館)、『最期の声 ドキュメント災害関連死』(KADOKAWA)などがある。最新刊に商業捕鯨再起への軌跡を辿った『鯨鯢の鰓にかく 商業捕鯨再起への航跡』(小学館)。
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(ノンフィクションライター 山川 徹 取材・構成=ノンフィクションライター・山川徹)

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