イラン戦争の膠着化で、トランプ大統領はかなり追い詰められているようだ。ここまで、同氏は強気の発言を繰り返してイランサイドを脅してきたものの、イランとしてもホルムズ海峡の事実上の封鎖によって対抗している。
専門家の間では、「むしろトランプサイドのほうが切り札がなくなっている」との指摘もある。また、米国の有力紙は、「トランプ氏はイランにカモにされている」との記事まで出ている。イラン戦争は、トランプ氏の支持率にマイナスに寄与していることは間違いない。
ホルムズ海峡の航行が阻害されていることで、世界経済に与える影響は深刻だ。それに伴い、世界的に物価の上昇が鮮明化しつつある。自動車大国の米国では、全国平均のガソリン小売価格が、1ガロンあたり4ドルを上回った。
■トランプ氏の任期はまだ2年以上ある
影響は、ガソリンだけではない。ペルシャ湾岸周辺の石油化学関連プラントの被害により、広い範囲のモノやサービスの価格は上昇しはじめている。
トランプ大統領の先行き不透明な政策が、わが国の経済や企業業績に与えるリスクも大きい。トランプ氏は何を言うか、何をするか、全く予測ができない。
世界最大の経済大国のリーダーの政策が読めないことは、世界の政治・経済・安全保障などさまざまな分野の重大リスクになる。この状況が、トランプ氏の任期が終わる2029年1月まであと2年以上続くと思うと、それだけで気が滅入ってしまう。
■「米軍の圧倒的な勝利」発言の裏側
現在、トランプ大統領は、自分で自分の首を絞めているように見える。イラン戦争は膠着状況になり、交渉も進展しているようには見えない。こうした状況が続くと、戦争は長期化することが懸念される。
ここへ来て、トランプ大統領の支持率が下がっている。その背景には、物価の上昇が鮮明化していることがある。特に、米国では、米国のガソリン価格上昇の影響は大きい。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が始まると、当然、エネルギー資源の供給が懸念される。原油や液化天然ガス、さらにはプラスチック製品の主な原料であるナフサの価格は上昇した。4月2日のトランプ氏の演説は、投資家にかなりの懸念を植え付けた。トランプ氏は「米軍が圧倒的な勝利を収めた」と強弁を貫いたが、戦争全面終結に関する情報は出さなかった。
投資家は、トランプ氏の強弁は、事態が厳しいことの裏返し、と理解した。
■ホルムズ「逆封鎖」でも優位に立てず
想定外の事態に直面したトランプ氏は、米軍によるホルムズ海峡封鎖(逆封鎖)を行った。これは、イランが一部船舶から通航料を徴収し、戦費を獲得することを阻止しようとしたのだろう。それに加えて、イランや、イランの支援する武装勢力を兵糧攻めにする狙いもあったと考えられる。ホルムズ海峡は、中東地域への食料供給の要衝でもあるからだ。
それでも、米国とイランの交渉は難航した。一部には、ヘグセス国防長官が米軍の高官を相次いで更迭し、作戦計画の指揮系統が混乱したとの指摘もある。4月22日、トランプ政権は、イランとの停戦期限を、明確な期限を設けずに延長する考えを示した。イランとの交渉を優位に進めることは難しくなったことの裏返しとの見方は多い。
トランプ氏は、イランを攻撃した結果、革命防衛隊によるホルムズ海峡封鎖を招き、米国は海峡を封鎖し返した。世界の海運会社は、イランによる拿捕・攻撃と、イランへの通航料支払いなどを要因とする米軍からの拿捕、という二重のリスクに直面したことになる。
しかも、いずれも船舶関連の保険で100%カバーされるとは限らないようだ。世界全体で、原材料やリスクの抑制(ヘッジ)をはじめ企業のコストは増えている。
■ナフサ危機が日本のメーカーを直撃
原油、LNG、ナフサ、アルミ、肥料原料の尿素、半導体やデータセンター建設に不可欠なヘリウムの価格は上昇した。わが国では、ナフサ不足でユニットバスの供給が困難になるなど、実体経済への影響は深刻だ。
米国では、ガソリン価格上昇が鮮明だ。3月、米国の消費者物価指数は前年同月比3.3%上昇だった。前月の同2.4%上昇から跳ね上がった。ガソリン価格は同18.9%、前月比では21.2%上昇した。4月23日時点の全米小売り平均価格は、1ガロン当たり4.031ドルだ。
米国のガソリン小売価格と、インフレ予想には高い相関関係がある。米国の物価上昇懸念は高まり、予想外に連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ再開に動くことも想定される。米金利の上昇はそうした予想を反映している。
■「アメリカvsイラン」は本当に終わるのか
中東で戦闘が続き、米金利が上昇すると、グローバルな資金は米ドルに向かう(有事のドル買い)。新興国や日本などでは、自国通貨の減価と、モノやサービスの価格上昇の掛け算で、輸入物価は上昇しつつある。一部の国では、かなり深刻になりつつある。
4月23日、フィリピン中銀の利上げは象徴的だった。約2年半ぶりの利上げ幅は、一部投資家の予想を上回った。フィリピン中銀は、追加の利上げの必要性にも言及した。物価上昇への危機感はかなり強い。
背景にあるのは、当面、世界の供給体制は不安定化するとの見方だろう。リビアの教訓から、イランが本当に核開発を放棄するとは考えづらい。地下施設を作って開発を続けるなど、監視を逃れるすべも考えられる。
今後、トランプ政権が、イランと本当に休戦できるかは予断を許さない。イスラエルがイラン、レバノンなどへの攻撃を一方的に仕掛ける恐れもある。
■日本株も株価調整の影響を受ける
現在、世界情勢にとって最も重要なリスクは、トランプ大統領の政策の不透明感だろう。昨年4月の相互関税ショックなどで明らかになったように、トランプ大統領は、何をするか分からない。前回の1期目の政権と異なり、主要閣僚には豊富な経験と専門知識を兼ね備えた実務家が少ないことも懸念だ。
トランプ政策のリスクは、日本企業の事業運営、業績に重大な阻害要因となりうる。米国の要請に基づいて対米投資を積み増したとしても、計画がトランプ氏の思い付きで変更され、結果的に思ったような収益が上がらないリスクは高いと考えられる。
世界的に株価がかなり割高である影響も、頭に入れておくべきファクターの一つだ。今後、世界的に株価が調整するようなことがあると、日本企業にはかなりの打撃があるだろう。株価下落による米国経済の減速は、企業収益の悪化に直結する。
■「日経平均6万円」に浮かれていられない
さらに、経済環境の悪化から事業計画通りの収益が獲得できなくなり、減損を計上する企業が増えることもありそうだ。もし、今年11月の中間選挙で共和党が敗北した場合、これまで以上に米国の政治は混沌とした状況に向かう恐れもある。
その際のシナリオは多岐にわたる。
中国経済が成長の限界を迎えた中、日本企業にとって、米国は最重要市場に位置付けられる。米国の政治的な安定は、ASEANなどの新興国地域の経済成長と政情安定に必要だ。米国の政策不透明感が高まると、日本をはじめ、企業が中長期の視点でリスクを取り、効率的に需要を創出することは難しくなるだろう。
実際、原油価格の上昇や中東情勢の影響を受けやすい、わが国の自動車、航空、物流などの業況は厳しさを増しつつある。イラン戦争を引き起こしたトランプ政策のリスクは、当面、日本経済を強く下押しするだろう。
日経平均株価が一時的に6万円を超えたが、それはIT関連の値嵩株が主導した上昇であり、株式市場全体が勢い良く上昇しているとはいいがたい。トランプ政策のリスク要因を考えると、日本経済の先行きは楽観できない。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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