5月末、シンガポールで開催された「アジア安全保障会議」で、中国は日本の防衛政策を「新型軍国主義」と批判した。だが、小泉進次郎防衛大臣は真っ向から反論し、米国防総省関係者は「日本外交の圧勝」と絶賛したという。
ジャーナリストの須田慎一郎さんは「弱腰とも言われてきた日本外交の歴史的転換点だ。実はこの裏側には日米の綿密な連携があった」と指摘する――。
※本稿は、須田慎一郎氏のYouTubeチャンネル「ただいま取材中!」の一部を再編集したものです。
■アジア安全保障会議で注目された小泉発言
5月29日から31日にかけてシンガポールのシャングリラホテルで「アジア安全保障会議(通称:シャングリラ・ダイアローグ)」が開催された。
すでに一部報道でも取り上げられているが、同会議における小泉進次郎防衛大臣の発言が非常に素晴らしかったとして、高い評価を得ている。詳細は後述するが、中国が日本を「新型軍国主義」と批判したことに真っ向から反論したのだ。これまで日本の政治家は中国に対して遠慮した物言いが基本だった。そういった意味で歴史的な転換点ともいえる出来事だった。この背景について本稿では説明したい。
シャングリラ・ダイアローグとは、アジア太平洋地域および欧米を中心とした世界各国の国防相や軍幹部などが参加するフォーラム(会議体)である。
同様の会議体としては、「ダボス会議の安全保障版」とも呼ばれるミュンヘン安全保障会議が有名である。しかし、ミュンヘン安全保障会議が主にヨーロッパ地域の安全保障問題について議論する場であるのに対し、そのアジア版として設置されたのが、このシャングリラ・ダイアローグである。

シンガポールで開催され、イギリスの非常に有名なシンクタンクである国際戦略研究所(IISS)が主催している。政府や政府機関ではなく民間機関が主導して開催することで、自由で開かれた議論の場とすることを目指している。このため、民間団体である同研究所が主催する形式をとっている。
主な参加国は、日本、アメリカ、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド。これらに加え、東南アジア各国(インドネシア、カンボジア、タイ、東ティモール、フィリピン、ブルネイ、ベトナムなど)や、アジアの大国であるインドも参加している。
主として各国の国防相や安全保障担当相が参加し、さまざまな議論を交わす。多国間(マルチ)での議論にとどまらず、二国間(バイ)や三国間での対話が同時並行で行われる点も、シャングリラ・ダイアローグの非常に大きな特徴である。
■2年連続で欠席した中国国防相
今回の会議において、中国側は非常に興味深い動きを示した。当然、国防相を派遣してくると思われていたが、そうではなかったのである。
中国の董軍(とう・ぐん)国防相は2年連続で欠席した。それに代わり、国防大学の孟祥青(もう・しょうせい)教授が団長として訪問団を率いる形をとった。
孟教授は、肩書の上では人民解放軍少将である。
しかし、軍の現場で陣頭指揮を執っているわけではなく、どちらかといえば研究という学者の立場に軸足を置いている人物である。
とはいえ、この孟教授は中国国内ではかなり有名な人物である。たびたび中国のメディアに登場し、いわゆる「戦狼外交(せんろうがいこう)」(編集部注:中国共産党に批判的な他国に対する攻撃的、報復的な外交姿勢のこと。中国のヒット映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』にちなんで名づけられた)を体現するかのように、敵対国に対して非常に激しく厳しい論調で非難を浴びせている。CCTV(中国中央電視台)などにもよく出演しており、中国では比較的知名度が高いと言える。
■日本を「新型軍国主義」と批判
孟教授はスピーチのなかで日本の近年の防衛政策に対して批判を展開した。日本が防衛費を増額し、防衛装備の拡充を進めていることなどを挙げ、「戦後の平和主義からの危険な逸脱である」と糾弾したのである。
日本のこうした一連の動きを「新型軍国主義」という強い言葉を用いてレッテル貼りし、国際社会に対して日本への警戒を呼びかけたのである。
この中国側の主張を受け、毅然とした態度でマイクを握ったのが小泉進次郎防衛大臣であった。
小泉進次郎防衛大臣は、次のような発言をした。
「核兵器と戦略爆撃機を大量に保有する国が、そのいずれも持たない日本を、『新型軍国主義』と呼んでいるとしたら、おかしいと思いませんか?」
参加者の誰もが、この言葉が中国に向けられたものであると一目で分かるはずである。中国に対して猛烈な批判を加えた小泉防衛大臣のこの発言は、日本国内でも一部紹介され、大きな称賛を集めている。

■日米間で事前に綿密なすり合わせがあった
シャングリラ・ダイアローグに参加している各国や軍関係者の間では、この発言は客観的にどのように受け止められたのだろうか。
今回、アメリカのヘグセス国防長官に同行して会議に出席した国防総省の人物と接触し、話を聞くことができた。その人物によると、「小泉防衛大臣のあの発言は、日米間で事前に綿密なすり合わせを行った上でなされたものだ」というのである。
そもそもこのシャングリラ・ダイアローグという会議体は、これまで日本ではなく、米中間の対立や衝突の「最前線」と位置づけられており、双方による激しい非難の応酬が行われる場であった。
しかし今回に関しては、先に行われたトランプ大統領と習近平国家主席の米中首脳会談の影響もあり、中国側はアメリカに対する批判のトーンを抑えてくると予想されていた。アメリカ側としても、中国側が抑制的である以上、あえて激しい注文をつけることは回避する構えであった。
■中国の「肩透かし戦略」
そうした状況下で、中国側は董軍(とう・ぐん)国防相を派遣しなかった。アメリカ側はこれを、中国側の「肩透かし戦略」であると即座に見抜いていたのである。
あえて格下の人物を送り込むことで、「シャングリラ・ダイアローグはそれほど重要視すべき対話の場ではない」というメッセージを発信する。そして、その上で日本に対する批判を展開する――これが中国側の狙いであった。
この思惑を事前に察知していたからこそ、中国の動きに対して、小泉防衛大臣が東南アジアやオーストラリア、ニュージーランドなどの参加国に向けて、明確な反論と情報発信を行うべきだという方針が固まったのである。
日米の綿密な連携の下に行われたあの毅然とした発言は、結果として、多くの参加国から日本に対する完全な共感を引き出すこととなったのである。

■米国「今回は日本の圧勝」
アメリカ側の参加スタッフの見解によれば、中国が主張する「新型軍国主義」という言葉に共感した国は、見渡す限りどこにもいなかったという。日本に対する共感こそ広がったものの、中国側を支持するような声は一切聞こえてこなかったのである。
アメリカ側は、「今回は日本の圧勝ではないか。今後も日本はこのようにきちんと情報発信をしていくべきである。国際会議の場での情報発信こそが、中国の『認知戦』に対応する戦略として最も正しい」と、手放しで絶賛している状況であった。
すなわち、アメリカ側の見解によれば「今回は日本の圧勝であり、中国側は戦略的な失敗を犯した」というのが、第三国から見た客観的な評価であった。もちろん、日米同盟という関係上、日本側に寄り添い、軸足を置いたコメントであることを差し引いたとしても、今回日本が取った行動は大きな評価と称賛に値するだろう。
そして最後に、小泉進次郎防衛大臣は記者団に対して、次のように述べている。
「せっかくのこうした場であるからこそ、董軍(とう・ぐん)国防相ときちんとした対話を行いたかった。ぜひ出席していただきたかった」
このコメントは中国側にも伝わっており、中国の一部メディアでも報じられているという。
董軍国防相にぜひ参加してもらいたかったという、大人の余裕を見せた対応。この最後の一言こそが、結果として中国に対する強烈な意趣返しになったのではないだろうか。


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須田 慎一郎(すだ・しんいちろう)

ジャーナリスト

1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、TV「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」など、YouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」「真相深入り! 虎ノ門ニュース」など、多方面に活躍。『ブラックマネー 「20兆円闇経済」が日本を蝕む』(新潮文庫)、『内需衰退 百貨店、総合スーパー、ファミレスが日本から消え去る日』(扶桑社)、『サラ金殲滅』(宝島社)など著書多数。

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(ジャーナリスト 須田 慎一郎)
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