「ロックをロックたらしめるもの」は何か?「ロック」の定義は今や完全に別物となってしまったのか?過剰なプロデュースが裏目に出たイマジン・ドラゴンズからズ、グレタ・ヴァン・フリート、そしてチャートを制覇したウィーザーの「アフリカ」のカヴァーまで、ロック不況にあえいだ2018年のシーンを米ローリングストーン誌の名物ライターが振り返る。

1983年に刊行された、ローリングストーン誌の『Encyclopedia of Rock & Roll』にはこう記されている。
ロックンロールは止まらない。ロックはポップカルチャーにおいて最も重要で予測不可能なものであり、そこにルールはまったく存在しない」 過去30年間でポップカルチャーの様相は一変したが(同書の刊行から数年後には、批評家たちはデペッシュ・モードの位置付けに頭を悩ませ、ヴァン・ヘイレンやZZトップがシンセサイザーを駆使した曲でヒットを飛ばす状況に疑問を呈していた)、ひとつだけ変わっていない点がある。それはロックが予測不可能だということだ。

ロックが持つ影響力は決して衰えていないものの(本誌の年間ランキングではカート・ヴァイル、ミツキ、コートニー・バーネット等の作品を取り上げた)、それはチャートには反映されていない。メインストリームとアンダーグラウンドの間には、かつてなく大きな溝が横たわっている。求心力を失いつつあるメインストリームのロックにとって、2018年はまさにどん底だった。

今年のヒット作といえば、過剰なプロデュースがあだとなったイマジン・ドラゴンズやバッド・ウルヴスの駄作、グレタ・ヴァン・フリートを筆頭とするあからさまなリバイバルアクト等だった。しかし何より不可解だったのは、2018年にもてはやされた楽曲の多くが去年発表されたものだったことだ。今年のビルボード誌の年間チャートは、怒りに任せてスケールの小さい不満を吐露したヴォーカル、貧弱なギターリフ(ギターが使われていればの話だが)、そして打ち込みのドラム等、ロックの均質化ぶりを如実に物語っていた。同誌のHot Rock Songsチャート年間トップ10には、イマジン・ドラゴンズの曲が4曲、まったく無名のバンドによるロック風のポップ、そしてウィーザーによる1982年のヒット曲の皮肉極まりないカヴァーが登場している。またAlternative Songsチャートのトップ10は、Hot Rock Songsチャートとまったく同じ内容となっており、もはやオルタナティブの意味が成立していない。それが反映しているのはアーティストたちの才能ではなく、レコード会社のマーケティングの成果に過ぎない。


ロックの定義は今や完全に別物となった。チャック・ベリー、ブルース・スプリングスティーン、ジョーン・ジェットといったギターを携えたミュージシャンたちと、ロックと呼ぶことさえ憚られる上記のアーティストたちの間には、もはやまったくと言っていいほど接点を見出せない。そういった状況下でソフトロックの人気が高まったが、新鮮でエキサイティングなアーティストは皆無だと言っていい。フー・ファイターズ、メタリカ、レディオヘッドといったロック界の巨人たちがツアーに専念したことは(作品のリリースとツアーの両方をこなしたポール・マッカートニーは例外)、若いアーティストたちがチャート上で存在感を示すためのチャンスを生んだが、耳にするのは独創性に欠ける似たような曲ばかりだった。

今年前半、筆者はNew York Times Popcast にゲストとして招かれ、トウェンティ・ワン・パイロッツやThe 1975といった、ロックとは言い難いバンドがロック系チャートを牛耳る状況について議論を交わした。その時頭に浮かんだのは、2018年におけるロックンロールとは一体何なのかという疑問だった。ギターやドラムというのも要因の一部には違いないが、もっと重要なものは別にある。ロックをロックたらしめるもの、それはアティテュードだ。N.W.Aやパブリック・エナミー、さらにはマドンナといった明らかに畑違いのアーティストたちがロックの殿堂入りを果たしていることは(ジーン・シモンズは不満の様子だが)、その最も重要な要素が世界に中指を突き立てる姿勢であることを物語っている。そう考えた場合、今日のチャートに登場しているものはロックと呼べる代物なのだろうか?

今年の年間Hot Rock Songチャートを制したのは、イマジン・ドラゴンズの「サンダー」だった。ダン・レイノルズのささくれだったヴォーカルこそ健在なものの、ギターも情熱的なコーラスもなく、フィンガースナップと打ち込みのドラムがリードする同曲からは、ロックのガッツが微塵も感じられない。

同曲の他にも、イマジン・ドラゴンズは同チャートのトップ10に3曲をランクインさせている。
ギターを一切使わず、ゴスペルっぽさとナールズ・バークレーの「クレイジー」を思わせるメロディが特徴的な「ナチュラル」は、新作において実験的精神をうかがわせる唯一の曲だろう。シンセのトーンに乗せて切ない気持ちを歌ったLovelythbandの大ヒット曲「ブロークン」は、否が応にもゴティエの「サムバディ・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ノウ ~失恋サムバディ (feat. キンブラ)」を思い出させる。他にもポルトガル・ザ・マンの昨年のヒット曲、バッド・ウルヴスによるヘヴィな割に冴えないクランベリーズの「ゾンビ」のカバー、フォスター・ザ・ピープルによるライトなR&B調トラック「シット・ネクスト・トゥー・ミー」、パニック!アット・ザ・ディスコによるオーケストラチックで洒落た「ハイ・ホープス」、そしてウィーザーによる「アフリカ」のカヴァー(一見シリアスだが、ウィアード・アルをミュージックビデオに登場させることで皮肉ぶりを強調した)などがトップ10圏内にランクインしている。よく聴いてみると、どこかで聞いたことがあるような曲ばかりだ。

何かが水増しされているように感じるのは、そういったアーティストたちがコピーバンドのコピーだからだ。1973年にアンディ・ウォーホルは毛沢東の肖像画をコピーし、そのコピーをさらにコピーするという作業を繰り返し、その過程で歪んだり引き延ばされたり傾いたりしたその写真は、最終的にほとんど原型をとどめていなかった。そのエピソードは現在のメインストリームにおけるロックの状況を思わせる。ロックというよりはポップに近いThe 1975のメンバーは全員20代だが、彼らが聴いて育ったザ・キラーズやコールドプレイU2やR.E.M.に影響され、両バンドはストーンズやビートルズに触発され、またその両バンドはハウリン・ウルフやボブ・ディランを崇めていた。グレタ・ヴァン・フリートのようなバンドは、そういった背景を自覚した確信犯だ。彼らは確かにロックバンドらしいアティテュードを備えているが、『メインストリートのならず者』を露骨なまでに意識していたブラック・クロウズのような胡散臭さを漂わせている。「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」との類似性については、今更ここで指摘する必要もないだろう(ライブバンドであるという点だけは両バンドに共通している)。現代のバンドにも先駆者たちからの影響は見られるが、その繋がりは曖昧なケースが大半だ。


ビルボードのMainstream Rock Songsチャートの焦点は伝統的なロックのはずだが、そのトップ10は同ジャンル全体を対象にしたチャート以上に均質化されてしまっている。そこに名を連ねるアーティストたちが歌う内容は、揃いも揃って退屈なものばかりだ。外界に対する憤りと憎しみを叫ぶニュー・メタル界の重鎮ゴッドスマックのナンバーワンヒット曲「Bulletproof」、自殺願望と恨み節を綴ったバッドフラワーの「ゴースト」、名前からして世界に喧嘩を売ろうとしているファイブ・フィンガー・デス・パンチ等、その枚挙にはいとまがない。言うまでもなく、そういったバンドの音楽性はどれも陳腐で月並みだ。筆者が子供の頃に親しんだコロラドのロック系ラジオ局では、現在もホワイト・ゾンビやピンク・フロイド、そしてパパ・ローチといったバンドが頻繁にエアプレイされている。

最近ではハードロック系ラジオ局で、ニルヴァーナリンキン・パークがヘビーローテーションされるという現象も起きている。カート・コバーン以降、星の数ほどのシンガーたちが自身の脆い内面を歌にしてきたが、マイク・シノダ率いるリンキン・パークは15年前に、キラキラのトーンに乗せたラップで悲しみを表現するというスタイルを確立してみせた。コピーキャットのコピーが現れるという現象は同分野でも続いているが、メインストリームのロックにおける状況はさらに深刻だ。

インターネットの普及によってあらゆる楽曲へのアクセスが容易になった現在、人々の支持を集める曲、つまりチャートの上位に登場する曲は、ロックの伝統に倣っているかどうかではなく、使い捨てのポップカルチャーのニーズを満たしているかどうかを示している。ニッチで個性的な曲がチャートの上位に食い込むことは稀であり、ロックではその傾向がヒップホップ等その他のジャンルよりも顕著となっている。その理由はロックのリスナー(特にメタルヘッズ)がシングルではなくアルバムを重視し、現在でもCD等のフィジカル版にこだわっているためだ。(今週のHot Rock Songsチャートのトップ10にクイーンの曲5曲がランクインしていることは、他のジャンルに比べてロックのリスナーが歴史を重んじることを示している。
その一方で、ザ・ストラッツやパニック!アット・ザ・ディスコ、そしてグレタ・ヴァン・フリート等がクイーンが用いたトリックを使ってヒットを飛ばしているという事実には首を傾げたくなる)

しかし興行の面では、ロックは依然として圧倒的な強さを誇っている。驚いたことに、過去数年間におけるコンサートの観客動員数でトップに立ったのはガンズ・アンド・ローゼズであり、メタリカやU2は現在でもスタジアムを満員にすることができる。しかしそれは、メインストリームのロックが圧倒的な人気を誇っていた時代に地位を確立したアーティストたちの話だ。現在脚光を浴びている若手バンドがどこまで上り詰めることができるかは見ものだが、グレタ・ヴァン・フリートも野心だけは抱えているようだ。

現在の状況が物語るのは、「ホット」で「フレッシュ」であるはずのメインストリームのロックは、もはや大衆の好みを反映するものではなくなったということだ。それはジャンルの細分化が進みすぎたことと関係している。サブジャンルを含めた広意義でのロックという観点から見れば、今年はむしろ豊作だったといえる。スリープ、デス・キャブ・フォー・キューティー、ナイン・インチ・ネイルズ、デフヘヴン、ブリーダーズ、ファンタスティック・ファーニチャー、ジューダス・プリースト、スーパーチャンク、ヘイルストーム、Lucius等、今年は数多くのバンドが優れた作品を発表した。またスネイル・メイル、ビッグ・ジョニー、ゴート・ガール等、優れた若手バンドたちがロックの未来を照らし出した。原型をとどめていない毛沢東のコピー写真のように、ロックとポップの境界線が曖昧となった現在のチャートやラジオでは、彼らの楽曲を耳にすることはできない。優れた音楽に出会うには、これまでよりも時間と手間をかけなくてはならないのだ。
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