馬トク報知で過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】。今回はイングランディーレが勝った2004年の天皇賞・春を取り上げる。

横山典騎手による変幻自在の大逃げで衝撃V。強烈なインパクトを残した。

 あまりにも見事な逃亡劇だった。最後の直線に向いても、イングランディーレはまだ10馬身ほどのリードを保っている。スタンドのどよめきが驚きの声に変わる。最後の最後に後ろからゼンノロブロイが迫ってきたが遅すぎる。後続の馬に影さえも踏ませず、7馬身差をつけてゴールに飛び込んだ。

 横山典は満足そうに振り返る。「セイウンスカイに乗っているみたいに、気持ち良く勝てました」。左手を力強く握って、ゴール板を駆け抜けると、表彰式では「デットーリジャンプ」で喜びを爆発させた。

 巧みにレースを「支配」した。スタートから手綱を押し、予告通りに先手を奪取。

淡々と流れる中、横山典は「馬と話をしたり、歌を歌いながら、気楽に行った」と振り返る。後続がけん制し合う中、徐々に差を広げ、2周目の向こう正面では約20馬身も離していた。「直線に向いても余裕があったけど、フワフワするところがあるから、物見をしないようにしっかり追った」。圧巻の一人旅にも、最後まで気を緩めることはなかった。

 激走へ導いたのは、思わぬきっかけだった。約1か月前の4月5日。池添の結婚式の席で吉田千津オーナーの夫である吉田照哉社台ファーム代表から騎乗依頼を受けた。キャリア28戦目での初コンビでつかんだ大金星。馬連、馬単、3連複ともに春秋の天皇賞史上最高配当を運んだ勝利は、関東騎手のG1連敗記録も30でストップさせた。「勝てると思ってなかったので、勝っちゃったという気分だけど、久々にG1を勝ててうれしい。意地を見せられて良かった」と喜びをかみしめた。

 前年のこのレースは9着。

ダイヤモンドS、日経賞と連勝して臨んだが、すでにピークを過ぎていた。疲れがたまりやすいタイプであることを考慮し、この中間は宮城・山元トレセンで入念に血液をチェック。数値を把握して、体調の善し悪しを見極めた。「今年は上向きだった」清水美調教師は昨年の失敗を肥やしにしていた。

 この後、芝4000メートルで行われる英G1のゴールドCにチャレンジしたが9着。それからも勝ち星はなく、06年9月末に競走馬登録を抹消された。交流重賞などを含む幅広い活躍で重賞5勝。その後は韓国で種牡馬入りしていたが、2020年12月12日に現地で老衰のため死んだ。

 ただ、春の淀をどよめかせた衝撃の大逃げは、今も競馬ファンの脳裏に刻み込まれている。

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