昨年まで西武の監督としてチームを率い、2018年、19年にはパ・リーグ連覇を果たした辻発彦氏。2006年には、王貞治監督率いる日本代表のコーチとしても第1回WBCに参戦し、チームを世界一へと導いた。

そんな辻氏が選ぶWBC侍ジャパンのスタメンとは? また、WBCに臨む心構えについても聞いた。

元西武監督・辻発彦が提案する侍ジャパンのスタメン。「1番・大...の画像はこちら >>

投打

【WBCの戦いは「1点を大事に」】

── 2017年から6年間、パ・リーグの監督同士として当時日本ハムの栗山英樹監督と戦いました。栗山監督の采配にどんな印象がありますか。

 とくに守備の戦術に関して、メジャー式に守備隊形を変えたり、リリーフ陣を先発させる"オープナー"であったり、大胆な作戦をする監督だなと思います。私にはそういうことができないです。栗山監督は私より2歳下で、試合前に話すといつも穏やかな口調なのですが、試合になると熱い方だと思います。

 振り返れば2006年の第1回WBCで、私は王貞治監督のもと内野守備・走塁コーチを務めさせていただきましたが、王監督もふだんは穏やかですが、試合では熱い采配を振るっていました。

ダイエー(現ソフトバンク)時代もコーヒーの入った紙コップを思わず投げたというエピソードを聞いたことがありますが、それだけ試合に入り込んでいるのでしょうね。

── 2006年の第1回WBCの時の主力は、イチローさんをはじめ、松中信彦さん、小笠原道大さん、西岡剛さん、川﨑宗則さん、松坂大輔さんなど錚々たるメンバーでしたが、ある選手は「緊張で口から心臓が飛び出てきそうだった」と言っていました。

 やはり"日の丸"という力が非常に大きいんでしょうね。日本代表というのは平常心ではなかなかできないと思います。予選はもちろんのこと、上にいけばいくほど「勝たなきゃいけない」「負けられない」というプレッシャーがのしかかってきます。

 第1回WBCで韓国に2度負けた時は悔しかったし落ち込みましたが、運にも味方されて優勝することができました。

みんな、それまでやってきたことのない気持ちのなかでのプレーだったと思います。たとえばキューバとの決勝戦、イチロー選手のライト前ヒットで川﨑選手が捕手のブロックをかいくぐる"神の手"でホームインしました。ただその代償として、ケガでプロ野球の開幕に間に合わなかった。いろいろな意味で"日の丸"の力は大きいですよ。

── 当時、WBCという大会をどのように受け止めていましたか。

 大会自体も手探りの状態で、どういうレベルなのかも、ファンの方もそこまでわかっていなかったのかなと思います。

だから緊張感はありましたが、「絶対優勝だ!」という重圧はなかったような気がします。2009年の第2回大会も優勝しましたが、その時のほうが"連覇"の期待は大きく、プレッシャーは相当あったと思います。

── 今回、1次ラウンドは5カ国のリーグ戦、その後、準々決勝以降はトーナメントで、最大で7試合を戦うことになります。経験した人にしかわからない、国際大会、短期決戦の戦い方、心構えを教えてください。

 やはり「1点を大事に」ですよ。第1回は"失点率"が大きく影響しました。

失点率とは失点を守ったイニング数で割ったもので、得失点差とはまったく違う。あの時、日本とアメリカとメキシコが1勝2敗で並んで、わずかな失点率の差で準決勝に進出できたという状況でした。

 それに投手は"球数制限"があるから、"第1先発""第2先発"といういつもとは違う起用を強いられました。ちょっとしたことで、戦況は大きく変わってきます。だからミーティングで「1点の大事さ」「1球の大切さ」を確認しておくことでしょうね。

【多士済々の豪華投手陣】

── 今回のWBCについてお聞きしたいのですが、辻さんなら先発投手は誰を選びますか。

 その前に、抑えを誰にするかですよね。

候補は松井裕樹投手(楽天)、栗林良吏投手(広島)、大勢投手(巨人)あたりでしょうけど、みんないい投手で、三振をとれる球を持っています。あえて固定せず、相手打者との兼ね合い、戦況を見ながら起用してもいいと思います。

 先発は当然、ダルビッシュ有投手(パドレス)、山本由伸投手(オリックス)、佐々木朗希投手(ロッテ)、それに昨年11月の強化試合のオーストラリア戦で好投した今永昇太投手(DeNA)あたりでしょうか。大谷翔平選手(エンゼルス)は所属チームとの契約もあるだろうし、投手をやるかはクエスチョン。去年の疲れもあるかもしれないですし、DHぐらいがいいのかもしれないですね。

── 中継ぎ投手はいかがですか。

 宮城大弥投手(オリックス)は勢いがあって、先発でもリリーフでも「ちょっといってくれ」と言ったら、どこでもいけそうな感じがします。湯浅京己投手(阪神)はセ・リーグの最優秀中継ぎのタイトルを獲得しましたし、力を発揮してくれそうです。高橋奎二投手(ヤクルト)も力があってイニングを投げられるので面白い存在ですね。それに昨年、自身初の2ケタとなる12勝を挙げた戸郷翔征投手(巨人)は腕の振りが変則的で、とくに右打者に有効なんじゃないでしょうか。さらに日本シリーズで一躍注目を集めた宇田川優希投手(オリックス)ら、豊富な顔ぶれです。

── 捕手は3人です。

 甲斐拓也選手(ソフトバンク)は東京五輪など、国際大会の経験もあり、実績十分です。中村悠平選手(ヤクルト)も経験豊富で、リードに長(た)けています。彼らのバックアップとして、大城卓三選手(巨人)が控えているという感じですね。

── 内野手は7人選出されましたが、スタメンは誰でしょうか。

 ショートは源田壮亮(西武)でしょうね。源田は、守備に関しては問題ない。いいリーダーになれるでしょう。中野拓夢選手(阪神)がその控えですかね。一塁は、山川穂高(西武)に岡本和真選手(巨人)がいますが、本職が二塁の牧秀悟選手(DeNA)も対応できるでしょうし、三塁から村上宗隆選手(ヤクルト)が回るかもしれない。二塁は牧選手のほかに、国際大会で結果を出している山田哲人選手(ヤクルト)がいます。

 いろいろなオプションはあると思いますが、一塁は山川、二塁は牧か山田、三塁は村上、遊撃が源田ですかね。本番前の壮行試合、強化試合、本戦でも最初の1、2試合を見てスタメンを固めていくことになるでしょう。

── 外野手はどうでしょうか。5人が選ばれています。

 周東佑京選手(ソフトバンク)はユーティリティ・プレーヤーだから、内外野できますね。守備固め、代走の切り札として、スタメンではなく残しておかなければならない貴重な存在です。

 そうなると、鈴木誠也選手(カブス)がライトで、吉田正尚選手(レッドソックス)がレフトじゃないでしょうか。そしてラーズ・ヌートバー選手(カージナルス)がセンター。ただ近藤健介選手(ソフトバンク)も捨てがたい。日本では未知数のヌートバー選手の調子次第で、近藤選手がスタメンに入ってくるかもしれません。

【1番・大谷から始まる強力布陣】

── では、打順もお願いします。

 打順も(笑)。では、私が選ぶ侍ジャパンの打順はこうなります。

1.大谷翔平(指)
2.ヌートバー(中)
3.吉田正尚(左)
4.村上宗隆(三)
5.鈴木誠也(右)
6.山川穂高(一)
7.牧秀悟(二)
8.甲斐拓也(捕)
9.源田壮亮(遊)

 4番ですが、昨年あれだけの数字を残した村上選手でいくべきだと思います。村上選手を4番にすれば、吉田選手が3番、鈴木選手が5番ですかね。DHの大谷選手は......2番、いや1番のほうがいい。2番にはヌートバー選手を置く。6番、7番に山川、牧選手を並べれば、下位でもしっかり得点できる。

 あくまで現時点のスタメンであって、いろんな組み合わせができると思います。短期決戦ですから、ペナントレースのように我慢して、復調するまで待っていられない状況です。そこの見極めがすごく大事になる。監督、コーチは大変だと思います。

 思い出すのが、2006年WBCの福留孝介選手(当時・中日)です。当初は3番スタメンで出場していたのですが、なかなか結果が出ず、準決勝の韓国戦ではスタメンを外れました。しかしその試合、0対0の7回表に代打で登場し、金炳賢(キム・ビョンヒョン)投手から先制の2ランを放ちました。それまで日本は韓国に2敗しており、まさに値千金の一発でした。王監督の決断も、それに応えた福留の一打も、鳥肌ものでした。

── 最後に侍ジャパンへのエールをお願いします。

 栗山監督をはじめ、メンバーみんなが「世界一になる!」と合言葉のように言っています。その目標に向かって頑張ってほしいですね。応援しています。

辻発彦(つじ・はつひこ)/1958年10月24日生まれ、佐賀県出身。佐賀東高を卒業後、日本通運を経て83年ドラフト2位で西武に入団。球界を代表する名二塁手として西武黄金時代を支えた。96年にヤクルトに移籍し、99年に現役引退。2000年からはヤクルト、02年から横浜(現・DeNA)、07年から11年と14年から16年は中日でそれぞれコーチ・二軍監督を経験し、17年より22年まで6年間、西武の監督を務め18年、19年と2年連続でパ・リーグ優勝に導いた