蘇る名馬の真髄
連載第45回:ミスターシービー

かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。

ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第45回は、日本競馬史上3頭目の三冠馬となったミスターシービーを取り上げる。

『ウマ娘』でも描かれるカリスマ性 常識を覆す型破りな走りで史...の画像はこちら >>
 ひと言で言えば、自由奔放。これまでの常識をあっさりと覆し、カリスマ的なレースを見せる『ウマ娘』。それが、ミスターシービーだ。単なる自由人というのではなく、自らのこだわりを簡単には曲げたくない、そんな頑固な性格の持ち主でもある。

 このウマ娘のモチーフになったのは、競走馬のミスターシービー。1983年、日本で3頭目となる"牡馬クラシック三冠"を達成した馬である。

 追い込みの戦法を身上とし、三冠最終戦となる菊花賞(京都・芝3000m)では、当時"タブー"とされていた後方からのマクリで勝利。ウマ娘の性格にもあるように、まさしく「これまでの常識を覆す」走りを見せて三冠馬になったのである。

 デビューから順調に勝ち星を重ねてきたミスターシービーは1983年の春、4歳(現3歳。

※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)になると堂々とクラシック戦線に挑んだ。

 一冠目は、4月の皐月賞(中山・芝2000m)。共同通信杯4歳S(1着。東京・芝1800m)、弥生賞(1着。中山・芝1800m)と主要な前哨戦でも強さを見せて、1番人気に推された。ただ、当日は雨に見舞われ、不良馬場のコンディション。追い込みのミスターシービーにとっては、不利な状況だった。

 しかし、ミスターシービーはそうした悪条件も苦にしなかった。出走20頭がスタートを切ると、ミスターシービーは後方のポジションで運んでいたが、3コーナー手前あたりから早くも進出。4コーナーでは先頭集団に取りついていった。

 直線、泥だらけの馬体で早めに先頭に立ったミスターシービー。

そうそう見られないロングスパートでライバルたちの追撃も振りきって、まずは一冠目を手にした。

 続く日本ダービー(東京・芝2400m)でも断然の1番人気に支持されたミスターシービー。レースでは再び後方からレースを進めた。

 当時のダービーでは出走馬が20頭を超えることも珍しくなく、さまざまなロスを避けるためにも、最初のコーナーで10番手以内の「ダービーポジション」を取らないと勝てないと言われていた。そして、この年も21頭が出走。勝つためには「ダービーポジション」確保が必須だった。

 ところが、ミスターシービーにはそんな格言も関係なかった。

 それまでのレース同様、ゲートを出るとほぼ最後方の位置で追走。皐月賞のときと同じく3コーナーあたりからロングスパートを開始して、4コーナーでは5~6番手までポジションを上げた。

 直線に入ってからは他馬と接触する場面もあったが、難なく先頭へ。そのままさらに脚を伸ばして、トップでゴール板を通過。二冠を達成した。

 こうして、三冠に王手をかけたミスターシービーだったが、夏の休養を挟んで迎えた秋初戦、京都新聞杯(京都・芝2000m)ではまさかの4着に敗れた。それでも、続く菊花賞では堂々の1番人気。1964年のシンザン以来、19年ぶりとなる三冠馬誕生へ多くのファンが期待を膨らませた。

 その注目の一戦で、ミスターシービーはこれまで以上に型破りな走りを見せた。

 菊花賞の舞台となる京都競馬場は、3コーナー手前から上り坂となり、その後、下り坂へと転じていく。この坂については、ゆっくり上って下ることが京都の長距離戦での"セオリー"となっていた。

 しかし、ミスターシービーはそのセオリーさえ覆す競馬を披露。いつもどおり、ほぼ最後方からレースを進め、ちょうど上り坂にかかったあたりから一気に大外をまくっていったのである。同レースでも21頭が出走していたが、坂を下りきったときにはそれらライバルすべてをかわして先頭へ躍り出た。

 期待と不安が渦巻く最後の直線。馬場の真ん中を疾走したミスターシービーの脚色はまったく衰えず、テレビ実況の杉本清アナウンサーによる「史上に残る三冠の脚、史上に残るこれが三冠の脚だ」という名フレーズの後押しを受けながら、栄光のゴールを駆け抜けた。

 セントライト(1941年)、シンザンに次ぐ、史上3頭目の三冠馬となったミスターシービー。

その後、1年ほど休養したが、復帰2戦目でGⅠ天皇賞・秋(東京・芝2000m)を勝って新たな勲章をつかんだ。

 だが、以降は1歳下で同じく三冠馬となったシンボリルドルフが台頭。大舞台で勝利を得ることはできなかった。それでも、この馬が見せた型破りな走りは何年経っても色褪せることはない。

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