【MLB】村上宗隆以外の若手も躍動するホワイトソックスの空気...の画像はこちら >>

後編:村上宗隆とホワイトソックスの躍進

MLBの本塁打王争いに絡み続ける村上宗隆を中心に、ア・リーグ中地区の首位争いを演じているシカゴ・ホワイトソックス。過去20シーズンで13度の負け越しを記録したチームは、若手を中心にした布陣で将来への最適解を模索している。


5月下旬にはもうひとりの日本人、西田陸浮がマイナーから昇格し、主力の布陣に割って入ろうとしている。

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【若手が自分らしくプレーできる環境】

 そもそもホワイトソックスの再建は、投手陣の整備が先行し、野手陣の強化が課題だった。ゲッツGMは以前、こう説明していた。

「投手陣は打撃陣よりも先に整備が進んでいます。ノア・シュルツ、ヘイゲン・スミス、ドルー・ソープといった選手たちがいて、将来的な先発ローテーションには自信を持っています。一方で、打撃面はまだ目指すレベルには達していません。ギャレット・クロシェットのトレードで獲得したカイル・ティール、チェース・マイドロスといった有望株に加え、コルソン・モンゴメリー、ミゲル・バルガスらも成長を続けています」

 筆者は今回、4月24日から5月20日までロサンゼルス・ドジャースを取材し、その前後の4月21日から23日、そして5月22日から24日にシカゴ・ホワイトソックスを取材した。両チームを見てあらためて感じたのは、クラブハウスの空気がまったく異なることだ。

 ドジャースは大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンらを擁するスター軍団であり、経験豊富なベテランも多い。クラブハウスには完成された強豪チームらしい、プロフェッショナルな雰囲気が漂っている。

 一方、ホワイトソックスの中心にいるのは、26歳の村上宗隆、同じく26歳のミゲル・バルガス三塁手、24歳のコルソン・モンゴメリー遊撃手、24歳のチェース・マイドロス二塁手ら若い選手たちだ。彼らはすれ違いざまにちょっかいを出し合い、時にはじゃれ合う。まるで高校や大学の仲のよい野球部を見ているような雰囲気がある。

 そこで思い出したのが、2年前にドジャースに所属していた頃のバルガスの姿だ。当時のバルガスは開幕をマイナーで迎え、5月18日にメジャー昇格した。主な守備位置は左翼。出場機会は決して安定しておらず、30試合で80打席、打率.239、3本塁打という成績だった。スター軍団のなかで、自分の居場所を必死に探しているようにも見えた。その後、7月末のトレード期限でホワイトソックスへ移籍した。

 今のバルガスは、本当に伸び伸びとプレーしているように見える。12本塁打、OPS.831という数字だけではない。四球率は15.3%に達し、チェイス率(振らなければボールと判定されるであろう球をスイングする確率)は17.1%。本来の持ち味である優れた選球眼も存分に発揮されている。

 もちろん、もし村上がドジャースに入団していたらどうなっていたかを論じても意味はない。ただ、若い選手が失敗を恐れず、自分らしくプレーできる環境という意味では、ホワイトソックスでメジャーキャリアをスタートできたことは、村上にとっても幸運だったのではないか。

そう感じさせる空気が、このチームにはある。

【寿司セレブレーションと将来への最適解】

 遊撃手のモンゴメリーは長身の左打者で、昨季は71試合で21本塁打を放ち、今季も55試合で13本塁打を記録している。彼に、村上が打線やクラブハウスにもたらしているものを尋ねると、真っ先に返ってきたのは「存在感ですね」という言葉だった。

「長打力があって、打点を稼いで、ホームランを打てる。でも、僕がすごく感心しているのは選球眼です。彼は本当に四球を選べる。それに守備もすごく良いです。クラブハウスでは自然体でいて、面白いキャラクターでもあるので、みんなを和ませてくれています」

 SNSで話題になった本塁打後の"寿司セレブレーション"も、村上の発案だったという。

「サンディエゴで僕がホームランを打った時でした。彼が急にこっちに来たので、普通にハイタッチをするのかと思ったら、『ヘイ!』って感じでハンドシェイクを始めて、そのまま寿司を口に入れ合うポーズをやり始めたんです。あれは僕じゃなくて、彼のアイデアでした」

 モンゴメリーは笑いながらそう振り返った。さらに、「村上は将来的にどんなメジャーリーガーになれると思うか」と尋ねると、こう答えた。

「彼は"唯一無二の村上"になれると思います。

自分自身でいることで、最高レベルの選手になれる。もちろん、アーロン・ジャッジや大谷翔平みたいな偉大なパワーヒッターはいます。でも彼も、そのレベルに並べるだけの力を持っている選手です。将来的には、自分自身の名前を確立できる存在になると思います」

 一方、二塁手のマイドロスは守備力に定評がある反面、自らの課題として打撃を挙げる。そのマイドロスも、村上を総合力の高い選手として評価していた。

「守備でも一塁でいいプレーをしていますし、すごく野球IQの高い選手です。僕は、パワーは彼の長所のなかでは最後に挙げるものだと思っています。まず純粋にすばらしい野球選手で、そのうえでパワーは"おまけ"みたいなものですね」

 さらに村上の将来像について尋ねると、こう話した。

「彼は彼自身の最高の姿になっていくと思います。できれば長い間、隣で一緒にプレーしていたいですね」

 もっとも、この若い選手たちが今後もそのままレギュラーに定着する保証はない。ホワイトソックスは今年のドラフトで全体1位指名権を持っており、UCLAの遊撃手ロック・チョロウスキーを指名する可能性が高いとみられている。メルキン記者はこう話す。

「フロントはテキサス州の高校生遊撃手グレイディ・エマーソンも高く評価しているようです。ただ、私が予想するならチョロウスキーですね。もしそうなれば、すでに多くの内野有望株を抱えているところに、さらにトップクラスの選手が加わることになる。どう整理していくのか、どんなチームを作っていくのかは非常に興味深いですね」

 実際、ホワイトソックスはすでに将来を見据えた起用を試みている。モンゴメリーを三塁、バルガスを一塁、村上をDHで起用するラインナップを組むこともある。若い選手たちを固定するのではなく、さまざまな可能性を探りながら、将来の最適解を模索しているのである。

【マイナーから昇格した西田陸浮という男】

 さて、そんなチームに5月25日、西田陸浮がメジャー昇格を果たした。西田は2023年ドラフト11巡目指名。メジャーデビューまでにマイナーリーグで立った打席数は1389しかない。これほど少ない打席数でメジャーに到達する打者は、およそ3人にひとりしかおらず、その多くはドラフト上位5巡目までに指名された有望株たちだ。では、なぜ西田はこれほど早く昇格できたのか。答えはシンプルだ。

結果を出し続けてきたからである。

 西田はマイナー通算で出塁率.410を記録。今年初挑戦となった3Aでも33試合で驚異的な出塁率.454を残した。さらにマイナー通算110盗塁。長打力こそないものの、出塁し、走り、守るという自らの持ち味を武器に、着実に評価を高めてきた。

 実は筆者は5月23日、ホワイトソックスの育成部長ポール・ジャニッシュに話を聞く機会があった。身長168センチの西田について尋ねると、ジャニッシュは即座に高い評価を口にした。

「陸浮は、うちの組織で一番と言っていいほどすばらしい人間性を持っています。おっしゃるとおり、フェンスを越える打球を量産するような、いわゆるフィジカルなパワーを持つ選手ではありません。ただ、今年の3A初戦でホームランを打っていますから、まったくパワーがないわけではありません」

 そして、こう続けた。

「私が彼を表現するなら、『この球団で最も優れた野球選手のひとり』です。彼には周囲へ伝染するような力があります」

 評価は技術面にも及んだ。

「陸浮は自分のスキルを誰よりもよく理解しています。そして、その持ち味を試合の中で実行する能力が非常に高い。守備面でも外野3ポジションすべてを守れますし、二塁も高いレベルで守ることができる。そして何より、出塁能力が非常に高い。今の野球では、それが大きな価値になるのです」

 もっとも、西田は当初から昇格が約束されていた選手ではなかった。メルキン記者も昇格前、こう話していた。

「昇格のタイミングは予想が難しいです。彼はいい選手ですが、トップ30プロスペクトではありません。ただ、誰かがケガをしたり、病気になったり、不振になったりすれば、呼ばれる可能性はあります」

 そして、その機会が訪れた。オフにFAで獲得したベテラン外野手オースティン・ヘイズが負傷し、さらにエバーソン・ペレイラも戦列を離れていたのだ。西田は昇格後4試合に出場し、9打数2安打。今後どれだけメジャーに定着できるかは、ヘイズやペレイラの復帰時期にも左右されるだろう。それでも、仮に今回再びマイナーへ戻ることになったとしても、長期的に見れば西田はすでにゲッツGMの構想の一部になりつつある。メルキン記者はこう語る。

「ホワイトソックスは再建の次の段階へ進みつつあります。今は勝率5割を超え、プレーオフ争いをしていますからね。陸浮のような選手は必要なんです。2005年の世界一チームにはスコット・ポドセドニックがいました。ポストシーズンまでホームラン0本でしたが、59盗塁を記録した選手です。もちろん、今の野球で"陸浮みたいな選手"だけを9人並べることはできません。でもひとりかふたりなら可能ですし、そういう選手がいることでチームの見え方は変わります」

 ホワイトソックスは開幕前、ア・リーグ中地区で勝てるとは誰も思っていなかった。しかし今、チームは地区2位につけ、首位のクリーブランド・ガーディアンズを追っている。

 村上がもたらした長打力と得点力。そして西田らが象徴する出塁力、機動力、多様性。ホワイトソックスは、有望株を集めるだけの再建段階から、自分たちなりの勝ち方を模索する段階へと歩み始めた。まだ完成されたチームではない。若い選手たちは成長の途中にあり、ロースターも今後大きく変わっていくだろう。それでも、球団には以前にはなかったものがある。未来への輪郭だ。

 その輪郭の中心にいるのが、村上宗隆である。

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