次代を担う逸材たち~アマチュア野球最前線
第27回 智辯学園・杉本真滉(後編)
本来のフォームを取り戻し、2回を無失点に抑えた。U−18アジア選手権を前に行なわれた大学日本代表との壮行試合。
本大会でも、オープニングラウンドのスリランカ戦で1回を無失点。スーパーラウンドでは韓国戦に先発し、3回2/3を1失点に抑えると、中1日で迎えた決勝の韓国戦でも先発を任され、3回1失点と好投した。
同じ左腕の末吉良丞(沖縄尚学)の状態が上がりきらず、前田侑大(高岡第一)にも未知数の部分が多いなか、チーム内で杉本への評価が高まっていったのは当然の流れだったのだろう。
【国際舞台で取り戻した自信】
アジア選手権で準優勝に終わったあと、9月末に春以降3度目となるインタビューを行なった。話はU−18日本代表での経験を振り返るところから始まった。
優勝を逃した悔しさを口にしながらも、その表情はどこか晴れやかだった。最後の大舞台で自分の力を示せた安堵感が伝わってきた。
「内容的には、自分でもよかったと思います」
夏の不本意な投球のままドラフトを迎えるのと、国際舞台で復調を証明して迎えるのとでは、気持ちが違って当然だろう。夏にはヒジが下がって見えたフォームも、アジア選手権での投球を見る限り、選抜時の形に戻っていた。
「そこはジャパンに行く前にも言いましたけど、夏が終わってから考えてやっているうちに戻っていたので、心配はしてなかったんです。ジャパンが始まったときはキャッチボールがあんまりよくなくて、一瞬『アレ?』となったんですけど、それも大学との練習試合で投げていくうちに大丈夫になりました」
各地の強豪校から集まった代表メンバーと過ごした時間も、大いに刺激になったようだ。
「とくに誰というより、みんな意識が高くて、考え方も技術も、やっぱりいいものを持ってるなと。
なかでも、一段と目を輝かせたのが、決勝で日本打線をわずか1安打に封じた韓国の194センチ左腕、河弦丞(ハ・ヒョンスン)の話題になった時だった。
「ホント、えぐかったです。選抜で戦った川本(晴大/大阪桐蔭)も、2年春でこれはすごいと思いましたけど、また違いました。バッターが『当たらん』って言ってましたから。とくにスライダーが消えるって」
世界にはとんでもない投手がいる。そう感じたのではないか。
「思いました」
短い言葉に、率直な驚きがにじんでいた。
しかも、河は杉本と同じ高校3年生。この先、互いに野球を続けていけば、どこかで再び対戦する日が来るかもしれない。プロの世界に進むということは、そうした可能性が広がることでもある。
【追い求める理想のストレート】
一方、国際舞台で強豪国の打者と対戦したことで、自分自身の武器も再確認できたという。
「やっぱり自分は真っすぐの質。そこをあらためて思いました」
力のある韓国打線を相手に、これまでの自己最速149キロを1キロ更新し、ついに150キロの大台に到達した。
「自分もバッティングが好きで、バッターは手元で力のある球がイヤなのはわかるんです。でも、そういう圧だけじゃなくて、球持ちのよさとか、フォームの見にくさとか、体感の速さとか、ボールの重さとか......。いろいろ備わったボール。そういう意味での質です」
ただ速いだけではない。打者が速く感じ、差し込まれ、思うようにバットを振れないボール。それこそが杉本の追い求める理想のストレートなのだ。その考えにたどり着いた背景には、昨年夏と秋に味わった2度の敗戦があった。
「夏に負けて、秋の近畿大会もよくなくて、決勝でもリリーフで出て負けて。そのなかで、このままじゃ選抜も夏も勝てない、考え方も技術もすべて変えないと勝てないというくらいの気持ちになったんです。ストレートも、ただ速い球を投げてもダメ。もっとバッターが嫌がるボールを投げないと、と思うようになったんです」
打者が嫌がるボール──。
「キャッチャーにどう見えるか聞いたり、バッターに立ってもらって聞いたり。とにかくバッターが嫌がるボールを考えて、この1年はやってきました」
自分が投げたいボールではなく、打者が打ちにくいボールを追求する。その意識の変化が、杉本を選抜準優勝投手へと成長させ、国際舞台でも通用するストレートを生み出したのだろう。
【指揮官が感じた村上頌樹との共通点】
そもそも、杉本には打者が嫌がるボールを投げられる資質が備わっていた。智辯学園の小坂将商監督は、入学間もない頃の杉本のキャッチボールが忘れられないという。
「中学の時は、投げない時は外野を守って中軸。野手としての評価もありましたが、入ってきた時のキャッチボールを見て、絶対にピッチャーやと思ったんです。ギュルルルルルーッて加速して、落ちてこない、垂れない。村上を思い出すキャッチボールをしていましたから」
小坂監督が引き合いに出したのは、智辯学園の先輩であり、今や阪神の主力投手となった村上頌樹(しょうき)だ。
さらに指揮官は、キャッチボールの質だけでなく、「投げるのが好き」「体が強い」という2つの共通点も挙げた。
思えば、2016年の選抜大会で村上は5試合、47イニング、669球をひとりで投げ抜き、智辯学園を初優勝に導いている。
そして、杉本も先輩に負けず劣らずの「投げ好き」である。
「自分も投げます。投げてフォームをつくって、投げて覚えて、投げて体力をつける。完全に投げる派です」
今春の選抜では、村上と同じく5試合に登板し、42イニング、626球を記録した。小坂監督からは「投げ好きで体が強いといっても、今の時代ですから、普段はそこまで多く投げてないですよ」と補足が入った。
ところが、すぐさまこんな言葉が続いた。
「でも、何も言わなかったら、ブルペンで200球とか投げてますね」
そう言って、指揮官は愉快そうに笑った。
投げることが好きで、多くの球数を投げても大きくコンディションを崩さない。その強さを支える要因のひとつが、無理のない投球フォームなのかもしれない。
選抜決勝の大阪桐蔭戦を思い返しても、大会5試合目の登板とあって、ストレートの勢いはたしかに落ちていた。それでも、マウンドを降りるまで大きく制球を乱すことはなかった。
「フォームがいいから、そこまで疲れないし、大きくは乱れない。だから無理なく数も投げられるし、ヒジや肩への負担もかかりにくいのでしょう」(小坂監督)
このあたりについて本人に尋ねると、あっけらかんとした答えが返ってきた。
「高校に入ってから、ケガ人になったことはないです。骨折とか、投げられないとか、そういう『ちゃんとしたケガ』をして、ケガ人になったことがないんです」
なんともユニークな言い回しだ。だが、長いシーズンを戦い抜かなければならないプロの世界では、技術や球速だけでなく、丈夫な体も大きな武器になる。
【次は自分が憧れられる存在に】
そして今、その杉本が、幼い頃から憧れてきたプロ野球の世界に手の届くところまで来た。子どもの頃は阪神ファンの祖父に連れられ、甲子園球場に足を運んで声援を送っていたという。かつてスタンドから見上げていた世界が、いよいよ現実味を帯びてきた。
杉本自身、プロ野球をどのような世界だと捉えているのだろうか。
「毎日が戦いだと思っています。野球が仕事で、アカンかったらすぐクビを切られる世界。でも、活躍したらファンの人たちから応援してもらえたり、夢中になってもらえたり、夢のある仕事。
まずは、その関門を突破すること。プロ入り後も厳しい競争が待ち受けているだろうが、杉本なら智辯学園で過ごした3年間と同じように、がむしゃらに野球と向き合っていくに違いない。
小坂監督も、教え子の未来に大きな期待を寄せている。
「真っすぐの質は、プロの世界でも戦えるものを持っているはず。まだまだ教わらなあかんこともいっぱいですけど、練習もようします。自分の一番の持ち味を磨き続けていけば、まだまだ伸びる。あとは、責任を背負って投げるなかで、人間的な部分も成長してきましたから、この先の世界でも周りの人からかわいがられる人間になっていってほしいですね」
選抜準優勝の栄光、最後の夏に味わった挫折、そして国際舞台での復活。そのすべてが、杉本の成長につながっている。追い求めてきたのは、ただ速いだけではない「打者が嫌がるボール」。そのストレートを武器に、プロの世界でも勝負できるだけの可能性を示してきた。
岡本和真(現・ブルージェイズ)、村上頌樹ら、数々の名選手を輩出してきた智辯学園。その系譜を受け継ぐ新たな左腕が、今、プロ野球への扉を開こうとしている。
谷上史朗●文 text by Shiro Tanigami










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