トヨタが扱う軽自動車はダイハツからのOEM

いまだに「トヨタは軽自動車規格を潰したいと考えている」と主張する人もいる。あれだけ大きな組織だけに、軽自動車というカテゴリーを不要と考えている人は存在しているだろうが、トヨタ自身も「ピクシス」というブランドで数々の軽自動車を販売している。



実際、2020年度でのピクシス・ブランドの販売台数は2万539台(全軽自協調べ)となっている。

業界シェアは1.5%ほどなので、トヨタで扱っていることを考えればたしかに微々たるものではあるが、少なくとも国内販売においてトヨタは軽自動車を扱っているし、その必要性は認めているといえる。ピクシス・ブランド以外でもGRブランドでコペンのスポーツコンバージョンを作り上げ、トヨタ、ダイハツ両方の販売網で扱っているのも知られていることだろう。



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とはいえ、ご存じのようにトヨタの扱う軽自動車は子会社であるダイハツからのOEMだ。グループ内リソーセスの最適化を考えると、軽自動車の開発・製造についてはダイハツが専念しておくのが吉というのは当たり前の判断だ。



では、もしトヨタが軽自動車を開発するとどのようなことになるのだろうか。



たとえば日産三菱自動車の関係でいえば、両社が共同出資したNMKVで軽自動車の開発を行ない、製造は三菱の水島製作所(岡山県)で行なっている。

そして現行デイズやルークスについてはNMKVで主導権を持ったのは日産だった。そのためエンジンも完全に新しくなり、プロパイロットと呼ばれる先進運転支援技術も搭載できた。



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同様にトヨタが主導となって軽自動車の開発をすると、ぐっとレベルアップしそうな気もしないではないが……。なぜトヨタは軽自動車開発には携わらないのだろうか。



結論をいえば、いまさらトヨタ主導で軽自動車の開発をするインセンティブがないということになる。



トヨタもダイハツも企業理念として「良品廉価」を掲げている。

いいものを作るだけでなく、安く届けるということが重要というわけだ。たしかにレクサスの開発で得た知見を軽自動車に投入すれば「いいもの」は作れるかもしれないが、廉価に提供できないことは自明。



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軽自動車の開発においては、とくにかくコストを下げることが重要で、そのために開発から製造までシンプル・スリム・コンパクトにすること、ダイハツがいうところのSSC化を進めることが重要だ。



では、売れに売れているトヨタのコンパクトカーのノウハウは軽自動車に活かすことはできないのか。



リッターカーの開発もダイハツ主導で行なっている

通称名別でいえば日本一売れているヤリスはトヨタの開発によるもので、そこで得た知見は軽自動車にも応用できそうな気もするが、そもそもヤリス以外のリッタークラスのコンパクトカーはダイハツ主導で開発している。



スライドドアの「ルーミー」しかり、コンパクトSUVの「ライズ」しかり。

リッターカーの「パッソ」もダイハツによって生産されているのは知られているだろう。トヨタ・グループにおいては、軽自動車だけでなく、コンパクトカーの分野においてもダイハツ主導で行なう方針となっている。



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実際、ダイハツのアーキテクチャであるDNGAは軽自動車からリッターカーまでをカバーするものであり、トヨタ・グループのなかでそうしたカテゴリーをダイハツが担当するということが決まっているからこそ、アーキテクチャの開発費をかけることができたという面もある。いまさらトヨタが出張ってきたとすると、そうした開発費は無駄になってしまう。



というわけで、トヨタが登録車開発で得た多くのノウハウを軽自動車に注ぎ込んだときに素晴らしいモデルが生まれる可能性は否定しないが、多くの人が手の届き、満足できる商品であるという「良品廉価」のコンセプトが重要であると考えれば、軽自動車の開発経験がほとんどないトヨタが開発をするメリットもなければ、意味もないというのが現実だ。



ちなみに、トヨタがオリジナルの軽自動車を販売した実績はある。

1990年代の後半、2人乗りの電気自動車「e-com」を開発している。コミューターとして生まれたe-comを使ったシェアリングサービス「Crayon(クレヨン)」の実証実験なども行なわれ、実際に黄色ナンバーをつけて走る姿を見ることができた。



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また、ナンバーはついてない状態だったが、お台場にあるメガウェブでは館内のコースを自動運転機能付きのe-comに乗るというアトラクションも存在していたので、車両を見た記憶があるという人も多いかもしれない。



その意味では、今後登場が予測されているコミューター的な電気自動車においてはトヨタが開発した軽自動車が生まれてくる可能性は否定できないのも、また事実だ。