中谷に強烈な一撃を見舞う井上(C)Lemino/SECOND CAREER/NAOKI FUKUDA

 去る5月2日、井上尚弥(大橋)と中谷潤人(M.T)が、5万5000人の超満員となった東京ドームで実現させたメガマッチは、世界のボクサーたちの心を刺激した。日本人選手同士の攻防が生んだ熱狂が大きな余波を生んだ。

【動画】先読みし合いの異次元攻防 井上尚弥と中谷潤人が繰り広げた至高のパンチ合戦

「超ハードな戦いだ」

 そう語るのは、元世界スーパーライト級王者であり、現在は米スポーツ専門局『ESPN』などで解説者を務めるクリス・アルジェリ氏だ。今回の一戦を「端的に言えば、世界最高の戦いだ」と評したレジェンドは、東洋の島国で繰り広げられた攻防を、ただただ褒めちぎった。

 実際、ゴールデンウイークの列島を沸かせた“東京ドーム決戦”は、至高のバトルだった。最終的に3-0の判定で井上が防衛を果たしたものの、その王者が「気持ちも強い選手でしたし、高度な技術も備えていた」と認めた中谷のパフォーマンスレベルも見事だった。

 リング上で幾度となく紙一重のパンチの応酬が展開され、スリリングな戦いが続いた。その緊迫の差し合いの最中で、両雄の命運を分けたのは、序盤4ラウンドの駆け引きだった。

 小気味いいジャブとステップインからのフックなどで積極果敢に打ちに出ようとした井上に対して、中谷は中間距離を取りながら左カウンターを狙う形に終始。この極端な二人の戦いぶりを見て、1ラウンドから4ラウンドまで3人のジャッジが井上にポイントを与えていた。

 試合後に中谷陣営のルディ・ヘルナンデストレーナーが「もう少し早く攻めていれば、結果は違っていたかもしれないとは思う」と認めたように、序盤の入り方は、その後の展開を左右するポイントの一つとなった。ゆえにSNSなどでは「なぜ中谷は攻めなかったんだ」と疑問を呈する意見も噴出した。

 ただ、百戦錬磨の井上には、わずかな綻びから決定的な一打を繰り出す力もある。その規格外の技量を考慮すれば、中谷本人、そして陣営は慎重な選択をせざるを得なかったとも言える。

 実際、国外メディアでは中谷サイドに理解を示す声が圧倒的だ。ボクシング大国であるフィリピンの日刊紙『Daily Tribune』のニック・ジョンコ記者は、「これほどのスーパーファイトは、時に盛り上がりに欠け、結果が一方的なものになることもある」と指摘。その上で「ナカタニはカウンターを食らわせることだけを望んでいるようだったが、責めることはできない。彼は“モンスター”を前に、無謀な行動に走るのを絶対に避けようとしただけだ」と強調した。

 また、ジョンコ記者は、クレバーな戦いを続けた井上の“格”を評した。

「イノウエは、ナカタニが身長とリーチで明らかに優位に立っていることを認識し、無鉄砲に攻め込むと逆効果になると分かっていた。結局、彼はボクシング界が見慣れているような怪物的なパフォーマンスではなく、熟練したファイターのような姿を見せた。私に言わせれば、あの選択は失敗ではなかった。イノウエは、自らが依然としてパウンド・フォー・パウンド最強のパンチャーの一人であると証明しただけだった」

 数ある名勝負が生まれてきたボクシング史。そのヒストリーにあって、世界中でさまざまに論じられ続けている井上と中谷の攻防は、間違いなくベストバウトとして記憶されていくに違いない。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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