神聖かまってちゃんが映画になる! 
そのニュースを聞いた時は本当に驚いた。しかも音楽ドキュメンタリーではなく、オリジナル脚本のもとに製作された劇映画だ。
さらにメンバーやマネージャーが本人役で物語の中心人物として出演。監督は「SR サイタマノラッパー」がロングランヒットとなり、2010年の日本映画協会新人賞も受賞した入江悠。この組み合わせならどうしたって見逃せない話題作であり、僕もワクワクしながら映画館に向かった。

よく知らない人のために一応説明しておくと、神聖かまってちゃんとは4人組のバンドである。
メンバー自身がニコニコ動画などにアップしていた音源がじわじわ話題となり知名度をあげ、2009年には一般公募の中から選ばれてサマーソニックに出演、2010年に「みんな死ね」「つまんね」という2枚のアルバムでメジャーデビューを果たした。過去には2ちゃんねるに自作自演投稿をしたり、ニコニコ生放送で中継しながら路上ライブをしたら警察に連行されたり、ステージにカミソリを持ち込んで流血しながらライブをしたりと、数々の伝説的な事件をおこしている。


ただ彼らは演奏がうまいわけではない。というより、プロのミュージシャンとしては下手なほうだと思う。それでも「ネット世代のカリスマ」とか「鬱屈した時代の象徴」みたいな呼ばれ方をし、実際に熱狂的ファンが多くいる。不況続きでCDが売れない現状からの打開策を見つけられずにいる音楽業界の中で、新鮮な話題を提供し続けているバンドなのだ。

映画に話を戻すと、物語は3つの話が平行して進む。
1つ目は、かまってちゃんファンの幼稚園生・涼太とその母親・かおり。
涼太はパソコンの前にかじりついてばかりで幼稚園で問題を起こし、女手ひとつで息子を育てるために一日中働くかおりも、ダンサーとして勤めるショーパブから引退をほのめかされる。
2つ目は、プロ棋士を目指す女子高生・美知子。アマチュア将棋大会決勝戦を控えているが、「彼女が将棋のプロってなんか恥ずかしいな」なんて恋人に言われてしまう。進学を勧める家族との亀裂も深まるばかり。
3つ目が、かまってちゃんのマネージャー・ツルギ。今よりも売れセンに方向転換しようとレコード会社に提案されて、彼は思い悩む。


みんなそれぞれに厄介な事情を抱え、思い通りにならない毎日に苦悩している。そんな彼らが一週間後にかまってちゃんのライブを迎えるまでが描かれるのだが、この辺りの展開はかなり淡々としている。あのド派手でエキセントリックなかまってちゃんの映画であることを忘れるような、「あれ、こんな地味でいいの?」と思うような中盤だった。

でも、映画終盤のライブがすごかった!

まずはギターのちばぎん、ドラムのみさこ、キーボードのmonoがゆっくりとステージに現れて定位置へ。その後ボーカル・の子が手に持ったパソコンを覗き込んだまま、女の子みたいなワンピースを着て登場。ついに現れた! その瞬間、ニコニコ生中継の視聴者が打ち込んだコメントがステージ上のスクリーンに映し出される。


「888888888888888888」
「キタァァァァァァァァァァ」

会場のボルテージが一気にあがる。
すると、それぞれの立場でライブを前にしていた登場人物たちに、ちょっとだけ変化が生まれる。かまってちゃんの音楽が、八方ふさがりだった日々を打破するきっかけになっていくのだ。

ラストでついに「ロックンロールは鳴り止まないっ」が演奏される。この曲がこんなに感動的に響く日が来るとは。最後に彼らのライブに行ったのは1年以上前だし、普段はyoutubeでたまに聴く程度の僕ですら「超泣ける!」「今度絶対ライブに行こう!」と思ったのだから、熱心なファンは相当感じるものがあったと思う。


傑作かと聞かれればちょっと違う気がするし、かまってちゃんを知らなくても楽しめるけど万人に勧められる映画でもない。ただ、得体の知れない熱量と感動が押し寄せる、非常に不思議な映画だったことは確かだ。

他にこの映画でオススメしたいのは、女子高生・美知子を演じる二階堂ふみ。アマチュア将棋大会の決勝戦と彼氏に誘われたかまってちゃんのライブが重なってしまい思い悩む彼女が、とにかく可愛い。清純さと思春期っぽい影が同居していて、若き頃の宮崎あおいみたいだった。彼女のwikipediaによると好きなバンドはセックスピストルズ、2010年に観た映画で印象に残っているのは1989年のソ連映画「動くな、死ね、蘇れ!」ということで、このセレクトを見ても大物になりそうな予感がする。
彼女を観るだけでも、映画館に行く価値はあると思う。

なお今後渋谷シネクイントでは、21:20の回終了後に入江監督とゲストによるトークショーが行われるとのこと。
16日(土)は神聖かまってちゃんメンバー・青木優(音楽ライター)、21日(木)に大根仁(演出家)・森山未來(俳優)・劔樹人(神聖かまってちゃんマネージャー)、25日(月)は宇多丸(Rhymester)・森下くるみ(女優)と、ゲストもとても豪華なので、足を運んでみてはどうでしょう。(田島太陽)


*88888は拍手をあらわすネット生配信でよく使われるコメント