うだるような暑さが続く今年、そうめんやそば、冷やし中華などの冷たい麺類がみなさんの食卓にのぼっていることだろう。手軽さも手伝って、我が家でも3日に一度はお昼ご飯に麺類をチョイスするようになった。
そんなある日、ふとした会話から、母が麺をゆでるとき、入れた直後ではなく再沸騰したところからゆで時間を計っていることを知り、驚いた。私は何の疑いもなく、麺を入れてすぐに計り始めていたのだが、ひょっとしたら私が間違っているの? そこで、みなさんはどこから計っているのか、また正しい計り方はどちらなのか、調べてみることにした。

まず、友人ら20人に聞くと、「(1)麺を入れてすぐに計り始める」と回答した人は12人、「(2)再沸騰してから計り始める」は8人だった。(1)は若い人が中心で、(2)は50代より上の人に多い傾向があった。

さて、どちらが正しいのか。うどん・そば・中華麺(生麺・乾麺・半生麺など種類はさまざま)を製造販売している大手メーカーや地方の中小企業など、会社計10社に聞いた。すると、全国展開する大手を含む7社が、「(1)麺を入れてすぐに計り始める」と回答。「(2)再沸騰してから計り始める」と回答したのは、地方に拠点を置く3社のみだった。『標準ゆで時間』の計り始めは会社によっても違うことが分かった。それでも主流は、麺を入れてすぐに計り始める方法なのだろうか。

麺類を扱う会社で作るいくつかの全国組織に聞いてみたところ、「全国乾麺協同組合連合会」から有力な情報を得た。この連合会に所属する企業では、『標準ゆで時間』を、麺を入れてすぐに計り始める方法、つまり(1)に統一するようにしているという。
その理由を、連合会専務理事の安藤剛久さんはこう話してくれた。

「昔は、地元の決まった製麺工場の麺を食べることが多く、よく食べる麺のゆで方は、再沸騰したときがゆで上がりとか、びっくり水(吹きあがりを抑える差し水)を加えるとか、みんな経験と勘で知っていました。それに、ストップウォッチなど、きちっと時間が計れるものもなかったんです。でも今の若い人は、そういう感覚が分からない人が多いし、いろんな製麺工場の麺を食べますよね。そのため、誰でもおいしくゆでてもらえるように、麺を入れてから何分と統一するようにしています」

なるほど、「(2)再沸騰してから計り始める」と答えたのが、年配の方や、地元に根付いて営業している地方の製麺工場が多かったのには、こういう理由があったのだ。また、最近若い人から麺のゆで方についての問い合わせを受けるという香川県の製麺所・安部製麺の担当者は、「年配の人ほど、昔からの経験で再沸騰してから時間を計るという人が多く、若い人ほど几帳面に麺を入れてすぐに計るようです。マニュアルで育っているからでしょうか」と話してくれた。

一応若い世代に入る私には耳の痛い話だが、時代は、“経験と勘”から“マニュアル”へと変化しているようだ。でも、麺をゆでることひとつとっても、こういった生活の“勘”が全くなくなってしまうのはちょっと寂しい気がする。私もその勘を身につけるべく、これからはゆで時間に少しこだわってみたいと思う。
(ミドリ)
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