野球? ドライブ?
いやいや、やっぱり、女子のカラダの曲線のことですよね。
この曲線をテーマにした漫画が、2011年にデビューした新鋭作家ウラモトユウコの描いた「彼女のカーブ」です。
表紙には、ほぼほぼネイキッドな女の子が、たくさん描かれています。
常盤響の写真の女の子みたいな、明るく健やかな色っぽさで、ジャケ買いしちゃいました。
表紙をめくった扉のイラストもかわいい。
中身は、デコルテ、ほくろ、薬指、まつげ、二の腕、耳たぶ、つめ、脚・・・と女の子のカラダが作り出す独特なラインに注視した10本+番外編1本の短編集で、単行本のどこをめくっても心がときめきます。
第1話のテーマは「デコルテ」。
胸の大きな子と小さな子の、どっちがいいの? という女性にとっても男性にとっても永遠の命題を描いた作品ですが、ストレートにそこを描かず、胸の上部のデコルテ(首と胸の間)に言及したところに、作者の身体パーツウォッチャーとしての大きな可能性を感じます。
デコルテとは、ここを鍛えることで胸の形も美しくなるとされている、女子の間では重要視される部位。
デコルテの発達した、全体的にむっちり肉付きの良い女の子と、首から胸まで、すとんとたいらで薄いカラダの女の子。ふたりともそれぞれコンプレックスをもっていますが、はたから見たら、どちらの女の子もかわいいのです。
なんといっても、身体の描線の素直さが、目に気持ちいい。
ウラモトユウコが、女の子の曲線を引くときの、うきうきした気分が、見ていて伝わってくるようです。
絵に描きやすいバストそのものでなく、絵としては地味になってしまいそうなデコルテ部分にあえて挑んだところに、果てしないカラダへの愛情を感じます。
第2話のテーマ「ほくろ」も、絵に描くとただの黒い点ですが、ほくろが気になる人間のサガを、漫画で描くために趣向がこらしてあります。
そのほか、匂い立つ襟足、未成熟な女子のおなか、骨がとんがっているくるぶし、のびやかな上腕、風呂桶に乗ったまるい臀部、アンダーバストの下のあばらのでっぱりなどなど、ページをめくるたび、いろいろなカーブが目に飛び込んできて、垂涎もの。
シャギーの入ったショートカットの、格段の髪の重なりなんかも巧い。動くたびにふぁさふぁさと髪が揺れる様が想像できちゃうくらい、作家の思い入れを感じる一方で、背景に描かれる人工物は、かなり大雑把。
その分、人体の自然なカーブがいっそう際立つってものですと、前向きにとらえたいと思います。
いま、あげた、カラダのカーブは、私が気になった部分であって、ウラモトユウコの描いた女子のカラダから、読んだヒトがそれぞれ好きなラインに視線をロックオンすればいいのです。
人によって好みが違うように、カラダの曲線もヒトによって微妙に違います。機能は同じなのに、さまざまな形状がある。人体って不思議ですね。
胸の大小しかり、例えば、私の友人は、エラのはった女の子が好きで、光浦靖子のことを「美しい」と言っていました。たぶん、湖川友謙の描く女性のことも好きでしょう。
身体に対する嗜好は、とても繊細なもの。
「彼女のパーツ」は、ヒトのナイーブな感情を、身体への特殊な萌えを通して、
描いているのです。
それもバラエティーに富んだストーリーで。
女の子の日常の物語(デコルテの話)もあれば、キュンとするラブストーリーもあり、SFショートショートみたいな不思議な話(ほくろの話)や、喪失感を描いたしんみりした話もあります。
10話まで読み終わってから、周囲を見回すと、今まで気づかなかったささやかなカーブに目が釘付けになったり、自分のカラダにも敏感になったりしちゃうかもしれません。
(木俣冬)