ドイツの公共トイレは大抵が有料 でも使用料はどう使われている?

「日本のトイレは何と素晴らしいのだろう……」としみじみ思うことがある。あれほど清潔で多機能なトイレが街のいたるところにあり、しかも無料だ。
一方、ドイツでは大抵の公共トイレに使用料を払わなければならない。例えば、駅のトイレは前払い制である。日本のトイレ事情に慣れていると、財布から小銭を出す時間も惜しいくらいに急いでいる時は、「誰だ!? こんなシステムを考えたのは!」という理不尽な怒りがこみ上げてくる。

ドイツのトイレは有料が常であるのに、その使用料については誰も多くを知らない。トイレ使用料は一体どこに行くのだろうか? ベルリン市内の駅、カフェ、デパート、大型ショッピングセンター、屋内市場のトイレで、その行方を探ってみた。
ドイツの公共トイレは大抵が有料 でも使用料はどう使われている?


明確だった駅とカフェのトイレ使用料


まずは駅構内のトイレで、清掃担当者にトイレ使用料の行方を聞いてみたところ、「知らない。私たちのところに入ってくるわけじゃないしね。上司が全部どこかに持って行くよ」という答えが返ってきた。使用料は会社が管理しており、使い道は現場の労働者が知るところではないのだ。

続いてはベルリン発祥のコーヒーチェーン店「アインシュタインカフェ」のトイレである。カフェで注文はせずトイレだけ使いたいという場合、清掃担当者に50セント(約67円)を払う必要がある。この清掃担当者はカフェの従業員であり、基本的な給料はカフェから支払われている。そのためトイレ使用料はトイレの備品の購入費用と清掃担当者のチップになるそうだ。


ここまでは私の想像していた範囲内の回答だったが、デパート、大型ショッピングセンター、屋内市場のトイレ事情はもう少し複雑だった。彼らは、それら商業施設に直接雇われているのではない。彼らの雇用主は外部の清掃会社で、トイレ利用者からは見えないところにいる。

まず不思議に思ったのは、デパートと大型ショッピングセンターでは、トイレの写真を撮らせてもらえないことだった。


不透明なデパートなどでのトイレ使用料の使い道


それぞれのトイレ前には、「トイレ使用料として50セント(約67円)をお支払いください」と書かれたポスターが貼ってある。ポスターを写真に撮ってもいいか尋ねたところ、「絶対にダメ」と言われてしまった。ポスターの文言に、何かまずい内容があるのだろうかと目を凝らして読んでみたが、問題になりそうなことは何も書いていない。
ドイツの公共トイレは大抵が有料 でも使用料はどう使われている?


写真の許可が下りなかったことで、こちらとしては「何か隠さなければいけないことでもあるのか!?」といぶかってしまったのだが、その気持ちを増幅させたのが、「使用料は何に使われるの?」という私の質問に対する、清掃担当者らの反応だった。

皆あまり答えたくなさそうなのだ。それでも聞き出してみると、トイレの使用料は彼らの給料であるらしい。だが、ドイツでそんな労働契約が許されているのだろうか? 

ドイツの2017年の最低時給は8.84ユーロ(約1174円)である。デパートや大型ショッピングセンターのトイレは、2〜3人の清掃担当者で管理しているため、仮に3人分の最低時給を稼ごうと思えば、最低でも1時間当たり54人の利用者がいなければならない。これだけの人数を毎時間確保することは、実際にこのトイレでは不可能に近い。

ドイツの公共トイレは大抵が有料 でも使用料はどう使われている?


トイレ使用料から見える独社会の景色


トイレという職場は、もしかしたら私が思っていたよりはるかに複雑なのかもしれない。というのも、トイレ清掃は、なんらかの事情で正規の労働契約を交わせない人や、支援の網の目から抜け落ちてしまった人の受け皿として機能しているように見受けられたからだ。事実、今回話を聞いた10人中8人は外国人であり、大半はドイツ語や英語が流暢というわけではない。

そうして思い返すと、「使用料は何に使われるの?」という問いに居心地の悪そうな表情を浮かべたのは、「これで丸く収まっているのだから、部外者は首を突っ込むな」ということにも受け取れる。「トイレのお金はどこに行くのか?」という能天気な疑問から始まった聞き込みであったが、人の問題に土足で踏み込むような結果になってしまった。

何の後ろ盾もなく日々を生き抜いている人が、案外すぐ近くにいる。たまに多めに使用料を払うことぐらいしかできないが、それで今回立ち入ったことを聞いてしまった罪滅ぼしに少しはなるだろうか……。いや、それぐらいで罪滅ぼしになると考えるのは図々しいか。
(田中史一)
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