米倉涼子主演のドラマ/『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』。が絶好調だ。
先週放送された第2話の視聴率は18.1%にジャンプアップ。10月クールドラマ最高の記録だ。

第1話ではちょっとおっさん目線が過ぎるのでは? と思ったのだが、それが逆におっさん視聴者たちのハートをしっかり掴んだのだろう。一方、ツイッターでは若い女性を中心に林遣都祭りが続行中。両面作戦が功を奏した模様だ。
「リーガルV」パワハラだらけの秋ドラマ、被害者のほうが悪人説、六角姓の役者は卑屈な役が抜群に上手い説
イラスト/Morimori no moRi

「パワハラだと騒ぐ連中は困ったものですよ」


第2話は大企業で起こったパワハラ疑惑に京極法律事務所の面々が挑むというストーリー。

グローバル企業「太陽製紙」で女性初の役員となった永島美鈴(斉藤由貴)が弁護の依頼にやってきた。
3人の部下にパワハラを受けたと告発されて解任された美鈴は、不当解任を主張して民事訴訟を起こすも口頭弁論直前に担当弁護士が辞任。優秀な若手弁護士・青島(林遣都)がいるという噂を聞きつけて京極法律事務所にやってきたのだ。

楚々とした美女の美鈴を見て、にわかにざわめく京極法律事務所の男たち。パワハラで告発されて一様に驚くが、美鈴が身に覚えがないと言っているのを聞くと、京極(高橋英樹)は「それを聞いて納得しました」と安堵する。……って、ちょっと見た目に左右されすぎてない? ヤメ検・大鷹(勝村政信)の「近頃はちょっと注意しただけでパワハラだって騒ぐ連中がいるから困ったもんですよ」という言葉は、美鈴に寄り添っているようで、世の中の人々(主にパワハラをする上司=おっさんの側)の本音でもあるような気がする。

その様子を冷ややかに見ていた翔子(米倉涼子)は「ああいう女に限って、裏じゃ鬼みたいに豹変すんのよ」と美鈴に聞こえるように言い捨てるが、賠償請求金額が3億2000万円と聞いていきなり豹変する。
筆者が依頼人だったら帰ってるな……。

「太陽製紙」を弁護する大手法律事務所「Felix & Temma法律事務所」の白鳥美奈子(菜々緒)は、京極と青島にパワハラの証拠となる音声テープを渡す。そこには美鈴が「だったら今すぐ飛び降りろよ!」と叫んでいる決定的な証拠が録音されていた。

展開が『SUITS/スーツ』ともろ被り!


調査を進めるとパワハラを訴えた3人の告発は同じ週に行われており、さらに3人とも昇進が予定されていることが判明する。そのうちの1人は、法廷でパワハラによるPTSDのため「毎日憂鬱で仕方ない」と証言したはずなのに、「パーッとやろう」と出世を喜んでいた(青島の見ているところで)。つまりPTSDなんて真っ赤な嘘だった。

パワハラをめぐって法廷でPTSDによる抑うつ状態を訴えたのに、実はまったくの嘘だったって展開、どこかで見たことがあるな……と思ったら、織田裕二主演『SUITS/スーツ』第1話の冒頭部分とまったく同じ! 『SUITS/スーツ』では、パワハラの被害を訴えた女性(泉里香)が実は産業スパイで、弁護士・織田裕二のデートの誘いにホイホイ乗って嘘が露見するという話だった。


パワハラは今クールの唐沢寿明主演『ハラスメントゲーム』第1話でもメインテーマとして扱われていた。3作同時に扱われるということは、いかにパワハラが今日的なテーマだということの証明だろう。殺人事件や医療の問題や不倫の問題よりも、パワハラのほうが多くの人たちにとってリアルで切実な問題なのだ。

興味深いのは3作とも「パワハラを訴えた側が実は悪者」というストーリーだったことだ。『SUITS/スーツ』は海外テレビドラマが原作だが、パワハラのくだりは日本オリジナルである。『ハラスメントゲーム』ではハラスメントで訴えると脅す「ハラスメントハラスメント」が取り上げられていた。


美鈴のパワハラは、美鈴を推した社長と対立する専務の大垣(菅原大吉)一派の陰謀だった。証拠の録音テープは、パワハラを訴えた一人・松尾(六角慎司)が執拗に美鈴を挑発し、美鈴が激昂した部分だけを切り取ったものだったのだ。六角慎司といい、六角精児といい、六角姓の役者はこういう卑屈な役が抜群に上手い。

理不尽なパワハラを繰り返す不届きな上司を成敗する……という展開ではヒネリがなさすぎるので、こういう展開になってしまうのだと思うが、「パワハラを訴える側が実は悪者」という展開が、実は視聴者のニーズにマッチしているのかもしれない。第1話で扱われた痴漢冤罪と同じだ。なんだかイヤな風潮である。


ミステリアスな斉藤由貴


第2話のポイントになったのは、斉藤由貴というキャスティングだろう。斎藤といえば、同じテレビ朝日の木曜日に放送されていた内藤剛志主演『警視庁・捜査一課長』で長きにわたって主人公の右腕となる女性刑事を演じていた。ところが斉藤自身の不倫騒動が影響してか、今年4月からのシーズン3より降板(後釜のような形で出演したのが安達祐実)。そういえば斎藤は『西郷どん』も出演辞退していた(代役は『スケバン刑事』仲間の南野陽子)。

その後、出演した『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』では見た目は穏やかながら冷酷非情な連続殺人事件を引き起こすマッドな心理学者を怪演。『ミス・シャーロック』はウェブでの配信ドラマだったのでそれほど多くの人は見ていないかもしれないが、「この人なら絶対悪人ではない」という安心感を視聴者に与えないのが現在の斉藤由貴という俳優である。

『リーガルV』でも、翔子が仕掛けたレストランの失礼すぎる対応にも穏やかに振る舞うなど、まったくパワハラを起こすような人間ではないように見せていたが、実は美鈴が長年一緒に働いていた城野(平山浩行)の婚約者で、社内では立場の弱い女性社員の中山茜(原田佳奈)に対して執拗なパワハラを行い、退職にまで追い込んでいたことが判明する。
一筋縄ではいかないヤバさをはらんでいる斉藤由貴ならではの役どころだった。

今週の「おっさん目線」


第1話で痴漢冤罪をテーマしたり、痴漢の再現シーンを執拗に見せたりしていた本作のことを「おっさん目線」と書いたが、第2話にもそういう部分はあちこちにあった。

相手側証人の松尾に事実を白状させるために翔子が仕掛けるのは、水商売(?)の女性を使ったハニートラップだった。一緒にホテルに行くところを写真に撮って松尾を脅すのだが、描かれてないけど翔子は女性に松尾とセックスするよう依頼したのだろうか? 対価を払っていればOK? 

ハニートラップとは女性が色仕掛けで男性に迫る諜報活動のことを指すが、近年では男性(主におっさん)が被害者意識を募らせるときに出てくる単語になっている。最近では財務省の次官のセクハラ問題がハニートラップではないかという(主に男性側からの)指摘があった。ドラマ『コンフィデンスマンJP』では、長澤まさみ演じるダー子のハニートラップが致命的に下手くそという設定を使って周到に避けられていた。

ついでに言うと、松尾は女性と一緒にホテルの入口にいる写真で脅されて、事実をあらいざらい法廷で話すのだが、(言い方は悪いが)これぐらいの写真で自分の地位をあやうくするような証言をしてしまうだろうか? なんだか雑だなぁ、と思ってしまう。

先に書いたドラマのオチの部分、美鈴が中島茜に執拗なパワハラをしていたことについては、松尾が「やっぱり怖いですね。女のジェラシーは」と発言するシーンがある。これは卑屈な男・松尾が卑屈な目線で上司の美鈴を見たときの発言ではなく、冷静に評した言葉だ。役員に上り詰めるぐらいの優秀な女性でも「女のジェラシー」は捨てきれないのだ、という描き方に作り手側のおっさん目線を感じてしまう。美鈴が城野と恋人だったという描写はないので、美鈴のパワハラはバリバリの私怨で逆恨みであり、それがより「女のジェラシー」の理不尽さを際立たせている。

「私、謝らない。お金で解決させてもらうわ」

という美鈴のセリフも、「女の意地」というより「女のジェラシーの理不尽さ」を強調しているように見えるのは穿ちすぎだろうか?

ドラマのラストは「小鳥遊翔子に関する調査報告書」を仕上げてきた秘書の敦美(宮本茉由)に、天馬(小日向文世)が「調査はもっと丁寧にやってもらわないと困りますね」と頭から赤ワインをぶちまけるシーンだった。天馬の冷酷非情さと頭がおかしい部分を強調するシーンという意図はわかるのだが……。第1話、第2話と続けて見ると、主人公は女性なれど、「女性が意味不明にひどい目に遭い続けるドラマ」という印象が強い。でも、視聴率は絶好調なんだから、これが正解なんだろうなぁ。

本日放送の第3話は「女の敵」であるクズ男の弁護を京極法律事務所が引き受ける。今夜9時から。
(大山くまお)

『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』
木曜21:00~21:54 テレビ朝日系
キャスト:米倉涼子、向井理、林遣都、菜々緒、荒川良々、内藤理沙、宮本茉由、安達祐実、三浦翔平、勝村政信、小日向文世、高橋英樹
脚本:橋本裕志
演出:田村直己(テレビ朝日)、松田秀知
音楽:菅野祐悟
プロデューサー:大江達樹(テレビ朝日)、峰島あゆみ(テレビ朝日)、霜田一寿(ザ・ワークス)、池田禎子(ザ・ワークス)、大垣一穂(ザ・ワークス)
制作著作:テレビ朝日