『おちょやん』第5週「女優になります」

第25回〈1月8日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

朝ドラ『おちょやん』ババアやし…でもあの人についていくと決めたんや(千代、反省)
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代、早くも劇団を辞める

女優になろうと、山村千鳥一座に入団した千代(杉咲花)だったが、雑用ばかりやらされて、稽古をつけてもらえない。座長・千鳥(若村麻由美)は、言いつけた用事がすべてできたら稽古を見てあげると言うが、8時間は睡眠時間が必要なので、千代の芝居を見る時間はどう考えてもない。騙された感いっぱいの千代。


【前話レビュー】『おちょやん』は瞬間瞬間の面白みを描くエンタメ

千鳥は劇団員に厳しく当たり、このままでは公演が打ち切りになるから、もっと大衆受けする芝居をやらないかと持ちかける劇団員・清子(映美くらら)のことも邪険にする。見ていられなくて千代は千鳥に助言するが、当然、聞いてもらえない。

「お世話しました〜〜!」

千代は怒り心頭で、啖呵をきって劇団を辞めてしまう。

でも――

千鳥の秘密

やっぱり後悔。せっかくの女優の道が閉ざされてしまった……。

カフェー・キネマに戻って、短気を反省すると、監督(西村和彦)は慰めてもくれず、笑っている。ボーイ(満腹満)とふたり、千代が辞めるか辞めないかで賭けをしていた。

そこへ、清子が訪ねて来て、千鳥の人柄を語る。上品そうな清子が、お酒が入ると一転、口が悪くなる。ぽんぽん、千鳥への悪態をつきまくり、千代は唖然。「ババアやし」「ババアやし」と二度も強調する清子に、さすがの千代もたしなめる。

いやなところがいっぱいあるけど、でも千鳥から離れることができなくて、10年。

「あの人についていくと決めたんや」

座長が芝居を愛する気持ちがわかるし、なによりも、これまで寄る辺のない劇団員に手を差し伸べて守ってきたからだった。


女性が芝居をやれる時代ではなかったとき、一致団結して頑張ってきたという山村千鳥一座はある種の社会的弱者の共同体なのだ。カフェー・キネマも「似たようなものやろ」と、清子は指摘する。

今月の売上一位の発表があり、花吹雪が舞い、店内はひととき夢の空間になる。ここで働く女たちもまた、行き場のない、それでも夢を持って生きている者たちばかりだ。監督も、卑俗なところはたくさんあるけれど、女たちに生きる場所を作っているのである。

監督はこういう世界ではマシなほうで、こういう店で、女性の生きる道を作っているように見せて、実際は搾取だけしている酷い場もある。それは現代でもあることだ。

朝ドラ『おちょやん』ババアやし…でもあの人についていくと決めたんや(千代、反省)
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』ババアやし…でもあの人についていくと決めたんや(千代、反省)
写真提供/NHK

千鳥は、一度結婚したが、夫に裏切られ捨てられてひとりで生きてきたと、清子は言う。女性を騙し、絶望のどん底に落とす男性もいるのだ。千代にも思いあたるふしがあるだろう。父のテルヲ(トータス松本)はそんな人だ。

千代の演劇の師匠は、『半分、青い。
の秋風のようにイケおじだったら話題になるんじゃないかと思ったが、やっぱり女性でないといけない。千代はお母さんがいない分、頑張っている女性の先輩や仲間たちと出会うことで成長していくのだ。

千代が思いきってもう一度千鳥の家に行くと――

四葉のクローバー(白詰草)

千鳥は寝る間を惜しんで稽古をしていた。部屋が散らかっていたのは、熱心に稽古をするあまり汗をかき着替えていたのだ。

千代がガラス越しに見る千鳥のすこしぼやけた姿と、千鳥視点の部屋のなかの稽古姿と、本番の白拍子の舞(たぶん、静御前であろう)が交互に映される。

千鳥の心を知った千代はもう一度、一座に戻らせてほしいと頼む。千代がこっそり茶碗の水に浮かせた四葉のクローバーを見つけた千鳥は、戻ることを許す。四葉はかつて死ぬほど苦しんでいた千鳥の心の支えだったのだ(根付を持っているカットもある)。

四葉のクローバーを見つけると幸せになれる。どんなに苦しい毎日でも、なにか寄る辺があれば生きていける。迷信でもいい。小さなお守りでもいい。仲間がいればなおいい。


『おちょやん』は、底辺に生きる者たちと、言動がすこしばかり雑だったり、舌足らずだったりする人たちを描いているが、反面、映像はやわらかにしっとりと撮っている。言葉や態度ではわからない登場人物の内面の繊細さや清らかさを画にしようと腐心しているように見てとれる。

千代が四葉を見つけようと一生懸命で気づいていない、頬につけたまま乾いた泥すらも、清々しい。なんといっても、茶碗の澄んだ水のなかの四葉が輝いていた。千代の瞳、千鳥の瞳も、露のように美しい。

時系列で、千代が四葉を見つけてから、それを持って千鳥を尋ねる流れを描かず、先に千鳥に頼むところを描き、あとから四葉を発見した場面を描くテレコの構造は、ドラマのクライマックスを盛り上げるためには効果的。八津弘幸はまとめ上手。終わりよければすべてよし。来週もがんばれ千代。

【関連記事】『おちょやん』23回 朝ドラヒロインなのに昼過ぎまで寝てるって! だがそんな日もある、悪くないだろう
【関連記事】『おちょやん』22回 千代のモデル・浪花千栄子をいま一度復習
【関連記事】『おちょやん』21話 散々な18年を生きてきた千代が次にたどり着いたのは京都のキャッキャウフフなキャバレー

■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


※次回26回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね

番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ