『おちょやん』第12週「たった一人の弟なんや」
第59回〈2月25日 (木) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

ヨシヲの放火を止めたのは……
やっと会えた弟のヨシヲ(倉悠貴)が放火事件にかかわっていたと知った千代(杉咲花)は動揺し、なんとか悪い仲間から足抜けさせようとするが、ヨシヲは頑として聞かない。朝からめちゃくちゃハードボイルドな展開になってるよー、画面も登場人物の表情も暗いよーとハラハラしていたら、千之助(星田英利)が救ってくれた。【前話レビュー】千代の生き別れた弟・ヨシヲはヤクザ者になっていた……この展開は攻めてる
開始から14分、夜、ヨシヲがつけようとした火を老婆が吹き消す(そしてその動きを強調するように2度リフレイン)。
得意の老婆の演技を事件解決にからませてくるとは、千之助のキャラがどんどん立って来て、楽しませてくれる。老婆の豹変に目を剥くヨシヲの表情も良かった。
企業戦争ものに
「私利私欲ばっかり考えてる時代遅れの連中に、この国の娯楽文化の発展を潰させてたまるかい!」カーン!
大山社長(中村雁治郎)の煙管を叩く音が強く響く。活況な道頓堀を奪おうと、ヤクザ者を使っての放火や脅迫など手段を厭わない神戸のライバル興行会社と、そうはさせじと睨みをきかせる大山社長。いまは平和な道頓堀も20年ほど前、大山がその才覚で一手にまとめあげたものだった。
道端ではダークスーツの男たちが悪巧み。そこにヨシヲも参加している。昼間ながら、祠(ほこら)のろうそくのあかりで、深い陰影が演出される。かつてここまでハードなテイストの朝ドラがあったであろうか。
「なんぼでも出したる」
ヨシヲを悪い道から救いたいと、千代はお金を「なんぼでも出したる」「ぜいたくさせたる」と言う。千代、やばい。愛する人のために、お金を貢ごうとしてしまうタイプ。世の中には、道理をわきまえて、清く正しく生きられる人ばかりではない。
でもいまのヨシヲは千代よりお金をもっていた。彼をお金で救うことはできない。それでもすがる千代を一平(成田凌)は止める。「あれがヨシヲや」と。一平はどこまでも冷静で、ヨシヲの説得を試みる。
ヨシヲの泊まっている宿に、忘れ物をしたと戻ってきて、話をする一平。いったん、部屋を出て、戻ってくるのが得意な一平。第58話の水ぶっかけエピソードもそうで、彼の言動はいつもどこか芝居がかっている。さすが、演劇人である。
なぜ、この展開なのか
「きみのためなら死ねる」はレジェンド漫画『愛と誠』の名セリフだが、千代もこんな感じの熱い情動で生きている。弟のことを思うと、涙が止まらない千代。そんなシーンもあるが、目下、男たちの骨太な企業戦争の世界が展開し、可憐なヒロイン千代の出る幕がいまひとつ少ない。これでは、高視聴率・人気ドラマ『半沢直樹』で物議を醸した、なぜ女性が活躍しないのか問題と同じことになってしまう。
視聴率さえとれれば女性が活躍しなくてもいいと思って、『半沢直樹』の脚本家に、男だらけ(しかもイケメンではなく渋いおじさんたち)の物語を描かせたものの、極度に枠のイメージとかけ離れてしまい、現状は、いつもの視聴者を戸惑わせるばかりといった印象である。やるなら、岡安と福富のご寮人さん対決を広げていったほうが朝ドラらしいと思うのだが……。

ジェンダー問題で、男性の立つ瀬がなくなっているいま、あえて男の世界を描くという考えもあっていいけれど、朝ドラでやる必要はなくないだろうか。話題性のために勝負に出たのか。なんだか『おちょやん』本編よりも朝ドラづくりの葛藤のドラマのほうが気にかかってしまう。
「この国の娯楽文化の発展を潰させてたまるかい!」
「私利私欲ばっかり考えてる時代遅れの連中に、この国の娯楽文化の発展を潰させてたまるかい!」大山社長のセリフは、今、娯楽文化に携わる人たちの想いの代弁に聞こえた。コロナ禍で公演が今までどおりやりにくくなり、苦労している娯楽文化。このままでは衰退していく心配がある。潰れないようにするにはどうしたらいいのか。『おちょやん』を見て、考えて、立ち上がる人たちが増えますように。
【関連記事】『おちょやん』57回 初めての接吻と生き別れた弟との再会に激しく心揺れる千代
【関連記事】『おちょやん』56回 博打・暴力・破廉恥ダメ。ゼッタイ。検閲下、人間の衝動を芝居でどう表現するか
【関連記事】『おちょやん』55回 いがみあっていた福富と岡安が子供同士の結婚により雪解け
■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■曽我廼家寛太郎(小山田正憲役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■倉悠貴(竹井ヨシヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■ドヰタイジ(桐島役)プロフィール・出演作品・ニュース
■千田訓子(泉屋の女将役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村鴈治郎(大山鶴蔵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
※次回60回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね
番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami