『おちょやん』第22週「うちの大切な家族だす」

第107回〈5月4日(火)放送 作:八津弘幸、演出:佐原裕貴〉

朝ドラ『おちょやん』人気者になった千代と仕事の岐路に立たされる一平 明暗分かれた元夫婦
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代、ラジオドラマで大人気

昭和26年、4月4日、ラジオドラマ『お父さんはお人好し』がはじまった。第1話では千代(杉咲花)が失敗してしまうが、当郎(塚地武雅)の機転でことなきを得て、無事終了。千代はたちまち近所の人に注目される。


【前話レビュー】『おちょやん』朝ドラあるある「違うドラマがはじまったかと思った」新展開に心が晴れやかに

道頓堀の人気劇団の俳優兼座長の妻であった竹井千代は、ラジオによって全国区にその名が知られるようになる。半年もすると当郎と共に新聞にも載って、街行く人からは「お母ちゃん」と親しみをこめて声をかけられるようになる。

人生上向きな千代に比べ、一平(成田凌)は冴えない。仕事の岐路に立たされていた。明暗分かれた元夫婦。一平のしたことを考えると、千代の好調、一平の不調にはちょっと胸がすく思いがする。

第1話を演じる千代と、聞く人たち

『お父さんはお人好し』第1話は、生放送のスタジオの様子と、固唾を呑んで見守る(ラジオを聞く)千代の知人たちの様子を交互に見せながら進む。

次男の結婚式に出かける藤森アタ五郎(当郎)と妻・チヨ子(千代)と子どもたち。そのドタバタ模様。スタジオには、当郎と千代と12人の子ども役の俳優たち。そのほか効果音のスタッフ、生演奏のスタッフなどぎっしり。外には演出家や作家・長澤(生瀬勝久)やプロデューサーややけにイケメンの編成スタッフや音響スタッフたちがいる。たくさんの人達によって作られる制作現場の雰囲気に、千代はなつかしさを覚える。


だが、つい子役の世話をしてしまい、出番がおろそかに。おまけに転んでセリフが飛んでしまう。どうリカバリーするかスタッフが考えを巡らせていると、当郎が機転を利かせ、千代もそれに応えて、元に戻った。当郎もさすがだが、千代の肝の座り方もなかなかのものである。

張り詰める空気のなか、才能あふれるスタッフや俳優たちの一致団結によって第1話は無事終了。ラジオドラマのお話のほのぼのした内容と、ラジオドラマの制作の様子がわかる楽しい場面となった。この手の楽屋裏ものは三谷幸喜監督作『ラヂオの時間』をはじめとして、エンタメとして人気ジャンル。朝ドラでは『なつぞら』第89回でアニメーションのアフレコの様子が臨場感を伴って描かれていた。実際の音響スタッフが参加して当時の効果音作業のリアリティーを再現した力作回であった。

【関連記事】『なつぞら』89話 山寺宏一、高木渉ら本物の声優の前で、アテレコシーンを演じる俳優たち

千代が転んで慌てふためいたとき、淡々と口に指をあてしーっとやっているナレーションのNHK林田伸太郎アナウンサー(野田晋市)や、芝居をうんうんとうなづきながら聞いている演奏スタッフの表情が印象的だった。

朝ドラ『おちょやん』人気者になった千代と仕事の岐路に立たされる一平 明暗分かれた元夫婦
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』人気者になった千代と仕事の岐路に立たされる一平 明暗分かれた元夫婦
写真提供/NHK

制作現場のドタバタに気づくことなく、鶴亀新喜劇劇団員、岡福の人たち、栗子(宮澤エマ)春子(毎田暖乃)が各々ラジオに集まって熱心に聞いている。劇団員たちは当郎のネタをいっしょにやって喜んでいるところがさすが俳優。
宗助(名倉潤)第106回に続き、喜びをオーバーに表現する。

かつて、いつも影に隠れて、おとなしくしていた宗助が戦後、商売替えしてからは折につけ存在をアピールするようになったところが微笑ましい。シズ(篠原涼子)なんて頬杖突いて少女に戻ってしまっている。それにしてもなぜ画面が出ないにもかかわらず、ラジオに近づいてラジオを見ながら聞いてしまうのだろう。

周囲の人たちが俄然変わる

朝ドラに出ると、視聴者から役名で呼ばれるようになると俳優が言う話をよく聞く。ドラマと現実が混ざってしまう人も中にはいて、貧しい役宛にお米が届いたり、意地悪姑に抗議の手紙が届いたり、それだけ全国放送、しかもNHKは注目されている。

『おちょやん』の千代も街で「お母ちゃん」と呼ばれるようになる。「今日はお父ちゃんは一緒ちゃうねんな」と聞かれるところがまさに、ドラマと現実をごっちゃにしている現れ。千代と当郎のモデル、浪花千栄子と花菱アチャコも夫婦と勘違いされたことがあったとか。

栗子の近所の人たちなんて、1話の放送を聞いたら急に集まってきてちやほや。人って本当に簡単に変わるものである。でも千代が人気者になってよかった。満たされた笑顔が見ていて気持ちいい。


【関連記事】『おちょやん』105回 紫のバラの人は栗子だった カタストロフィーからカタルシスへ――見事な逆転劇
【関連記事】『おちょやん』104回 塚地武雅の明るさも大きく寄与 ドラマのムードをクリアーに変えた6つの要因
【関連記事】『おちょやん』103回 華丸大吉も拍手 当郎という狂言回しの登場で、千代が主役として輝ける環境が整う



■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮澤エマ(上田栗子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■塚地武雅(花車当郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■川添公二(富岡竜兵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■久保田悠来(四ノ宮一雄役)プロフィール・出演作品・ニュース
■国木田かっぱ(仲人・木村役)プロフィール・出演作品・ニュース
■野田晋市(林田伸一郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■藤山扇治郎(須賀廼家万歳役)プロフィール・出演作品・ニュース
■小西はる(天海灯子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■木村風太(富川一福役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大橋梓(長女・京子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■辻凪子(次女・乙子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■久保田直樹(三男・浜三役)プロフィール・出演作品・ニュース
■久保山知洋(長男・米太郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■細田龍之介(次男・清二役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大石昭弘 プロフィール・出演作品・ニュース
■生瀬勝久(長澤誠役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース

■桂吉弥(黒衣役)ニュース


※次回108回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね

番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ