ビジネスパーソンの首や肩の不快感は諦めるしかないのか。産業医の池井佑丞さんは「近年の研究で、デジタルデバイスの使用時間が長いほど、首や肩の痛みのリスクが高まることが一貫して示されている。
スマートフォン操作やPC作業の姿勢には注意したほうがいい」という――。
■働くだけで「スマホ首」になる時代
朝の通勤電車でニュースアプリをチェックし、エレベーター待ちの間にメールを処理。オンライン会議や資料作成の合間にはチャットの返信に追われ、気づけば一日中、画面を見続けている――そんな働き方が当たり前になっているのが、現代のビジネスパーソンです。忙しさの象徴のように感じる首や肩のこりを、「仕方ない」とやり過ごしている方も多いでしょう。
しかし近年、スマートフォンやPCをのぞき込む姿勢によって生じる「スマホ首」は、慢性的な痛みや頭痛、場合によっては腕の疲労感など、日常生活や仕事のパフォーマンスにも影響を及ぼす新しい健康リスクとして、医学的にも注目されています。米国の大手医療機関、メイヨークリニックも、長時間の下向き姿勢がこうした症状につながることがあると警告しています(Mayo Clinic, 2024)。特に、複数のデバイスを使いこなし長時間オンラインで仕事を進めるビジネスパーソンは、このようなリスクの中心にいると言えます。
今回は、スマホ首の正体と、仕事への影響について解説し、今日から職場や自宅で実践できる具体的な対策を紹介します。
■「首を前に出した姿勢」になりやすい
「スマホ首」という言葉は医学的な病名ではなく、スマートフォンやPCを覗き込むときのように、頭が肩より前に出た状態を指す概念です(Neupane et al., 2017)。医学的には「前方頭位」と呼ばれ、首や肩周辺の筋肉に負荷がかかった状態が持続すると、首の痛みや不調が生じやすくなると考えられています。
現代のオフィスワーカーは、日常的に複数のデバイスに囲まれています。デスクではPC、外出先ではスマートフォンやタブレット、と常に複数の画面を行き来しながら仕事を進めています。
その結果、首を前に出した姿勢が断続的に、しかも長時間にわたって積み重なってしまうのです。
さらに、長時間の座位作業やオンライン会議、移動中のメール処理や資料確認など、現代の働き方そのものが「前傾姿勢」を前提としています。必然的に、首や肩には持続的な負荷がかかり続けているのです。
スマホ首とは、まさに現代のビジネスパーソン特有の「パフォーマンスの影に潜む身体リスク」といえるでしょう。
■体重60kgなら、頭の重さは約6kg
近年の研究では、スマートフォンやPCなどデジタルデバイスの使用時間が長いほど、首や肩の痛みのリスクが高まることが一貫して示されています。実際、スマートフォンを過剰に使用する人では、首の痛みのリスクが約2.3倍に高まるとの報告もあります(Chen et al., 2025)。
なぜこうした不調が起こるのでしょうか。
人間の頭の重さは体重の約10%と言われており、体重60kgの人であれば約6kg、ボウリングの球1個分に相当します。この重さを支えるため、本来、頸椎(首の骨)はゆるやかなカーブを描き、重さを効率よく分散する構造になっています。
ですが、頭が前方に傾く姿勢が続くと、このバランスが崩れ、首・肩周辺の筋肉や関節に過剰な負担がかかります。こうした負担が持続すると、首の痛みなどの不調が生じやすくなるのです(Parul et al., 2026
ニューヨークの脊椎外科医ケネス・ハンスラージ博士の研究によると、頭部の傾斜角度が頸椎への負荷に大きく影響することがわかっています(Hansraj, 2014)。コンピュータモデルを用いた解析の結果は以下の通りです。

・直立状態(0度):首にかかる負荷 約5㎏(骨格で無理なく支えられている状態)

・15度前傾:約12kg(2リットルのペットボトル6本分)

・30度前傾:約18kg(満タンの灯油タンク1個分)

・45度前傾:約22kg(荷物を詰め込んだスーツケース1個分)

・60度前傾:約27kg(小学校低学年の児童1人分)
私たちがスマートフォンを見る際の角度は、おおよそ45~60度と言われています。つまり、日常的なスマートフォン操作で、首には思った以上の負荷がかかっている可能性があります。
日々の姿勢と使用時間の積み重ねが、首への負担として蓄積しています。そして、この蓄積された負荷は、集中力の低下や作業効率の低下など、仕事のパフォーマンスにも影響を及ぼすおそれがあるのです。
■仕事の質やパフォーマンスにも影響
スマホ首は、日々の仕事の質やパフォーマンスにも影響を及ぼします。
まず起こりやすいのは、首や肩のこりや痛みといった比較的軽い症状です(Mahmoud et al., 2019)。加えて、頭痛、背中の張り、腕や手の痛みやだるさなどが生じることもあります(Eitivipart et al., 2018)。一つひとつの症状は軽微でも、日常的に続くことで無視できない負担となっていきます。
たとえば、「午後になると頭が重くなり、集中力が続かない」「デスクワークの終盤になると判断が鈍る」といった状態は多くの人が経験しているかと思います。これは、単なる疲労だけでなく、首や肩まわりの持続的な緊張が影響している可能性があるのです。
■集中が途切れやすくなり生産性が下がる
実際、筋骨格系の首や肩の不調は、痛みや動きにくさといった身体の不調を通じて、仕事のパフォーマンスを下げる要因になることが指摘されています。オフィスワーカーを対象とした研究では、頸部痛を有する人に業務量の調整の必要や作業効率の低下がみられ、日常的な業務遂行に支障をきたす可能性が示されています(Johnston, 2016)。
本人は「大したことはない」と感じていても、首や肩の痛みや違和感が持続することで集中が途切れやすくなり、作業効率や処理スピードに影響が及ぶ可能性があるのです。
このように「出勤はしているものの、心身の不調などが原因で本来の仕事のパフォーマンスを発揮できない状態」は“プレゼンティーズム”と呼ばれます。ある研究では、首や肩に不調を抱える人のうち約26%で生産性の低下がみられ、その多くは欠勤ではなく勤務中の能率低下によるものでした(Heuvel et al., 2007)。
また、別の研究では、首の痛みに関連した生産性損失は労働時間の約12%にのぼることも報告されています(Aegerter et al., 2023)。つまり、出勤していても本来のパフォーマンスを発揮できていない状態が生じている可能性があり、スマホ首がこうした不調の一因となりうる点に注意が必要なのです。
また、こうした負担が日常的に積み重なると、長期的には脊椎の変形や胸郭の動きの制限による呼吸の浅さなどが生じる可能性も指摘されています(Parul et al., 2026)。将来的に椎間板の変形や慢性的な痛みといった疾患リスクを高める可能性もあるため、軽視しすぎず、日々の姿勢に注意することが重要です(Okada et al., 2018)。
■日常生活で首への負担を減らす
スマホ首を予防、改善するためには、日常の中で姿勢や使い方を見直すことが大切です。
まず、自分の姿勢の傾向を簡単に確認してみましょう。
壁にかかと・お尻・背中をつけて立った際に、後頭部が無理なく壁につくかを目安にします。自然につかない場合は、頭が前に出る姿勢が習慣化している可能性があります。
次に、日常生活で首への負担を減らす工夫を取り入れましょう。
日常の姿勢と環境を少し意識することで、首への負担は減らせます。
■PCの画面上端を「目線よりやや下」に
①スマートフォン操作
・目線の高さで持つようにし、長時間のうつむき操作は避ける(片手で支えず、反対の手やスタンドで補助するとよい)
②PC作業
・画面上端が目線の高さよりやや下に来るように調整する

・頭、背骨、骨盤が一直線になるように深く座る

・ノートPCスタンド、外付けキーボードなどを活用し、自然と良い姿勢になる環境を整える
③時間と行動のマネジメント
・20~30分に一度は立ち上がり、軽く体を動かすようにする

・オンライン会議の合間に肩や首を軽く動かす時間をつくる

・移動中はスマートフォンの使用を控え、首や目を休める時間にあてる
こうした習慣に加えて、デスクでも簡単にできるエクササイズを行うこともおすすめです。
ただし、痛みが強い場合は、医療機関への相談を検討してください。

※参考文献(スマホ首対策について)

・厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン

・日本成人病予防協会「ストレートネック ~今話題の健康ワード!~

・竹井仁「姿勢の評価と治療アプローチ

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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