※ノダカズキ『自然はすごい いつもの道が美しく見える5つの視点』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■人類の歴史はうんことともに
「人類の歴史はうんことともにあった」。これは、大げさな比喩ではありません。なぜなら、人間は生きている限り、必ずうんこをするからです。食べたら出す。赤ん坊でも出す。偉人も芸術家も大統領も、みんな平等に出す。うんこを通してこそ、私たちは最も根源的な「生きている」という事実に触れているのです。
それなのに、どうでしょう。うんこはトイレの中で完結することになっていて、流したあとのことは謎のベールに包まれたままです。どこに行くのか、どう処理されるのか、ほとんどの人は知らず、いや、知ろうとすらしません。「そんなもん知りたくない」という気持ちもわかります。
でも、それってちょっともったいない。だって、うんこには地球のこと、都市のこと、そして人間のことを知るエッセンスが詰まっているからです。
そもそも、ここ200~300年で、うんこの量は爆発的に増加しています。理由は単純。人と家畜がめちゃくちゃ増えたからです。西暦1800年の世界人口は10億人ほどでしたが、2023年には80億人を突破。つまり、地球上のうんこ量は、ざっくり計算しても200年前の8倍に跳ね上がっているのです。
この膨大なうんこが、今どこへ向かい、どのように処理されているのか。その行方を追うことは、私たちの文明のかたちを知ることでもあります。そして「うんこを通して世界を見る」ことが、あなたの暮らしをちょっぴり豊かに、そしてクスッと笑えるものに変えてくれるかもしれません。
■人が生涯に排出するうんこは7トン以上
さて、人は一日にどれくらい「うんこ」をするのか。誰しもが毎日していることなのに、意外と知られていません。
ちなみに、ベジタリアンは肉食の人より排便量が多い傾向があるそうです。理由は、消化できない繊維をたっぷり摂っているから。特に豆類や海藻、キノコなどは“うんこ力”が高め。そう考えると、豆腐とひじきとわかめが並ぶ食卓は、排便の未来を担うゴールデンメニュー。仏教国には、意外とうんこが多いのかもしれません。
では、これを年間ベースで見てみましょう。たとえば1日に200グラムのうんこをすると仮定すると、1年間では、200グラム×365日=約73キログラム。
人ひとりが1年でスイカ10個分くらいのうんこをしていることになります。そしてもし、人間が100歳まで生きたとすれば、単純計算で合計は7.3トン。なんと、2トントラックで言えば4台分。
■うんこの日本史
次に、人類がどのように「うんこ」と向き合ってきたのか、その長い歴史をたどってみます。一般的に、うんこといえば「汚いもの」という印象を持たれがちです。しかし、実のところ、うんこほど時代によって評価が変わり、愛されたり嫌われたりを繰り返してきた存在もそうありません。
それでは、ざっくり見ていきましょう。まずは弥生時代。日本最古のトイレは紀元前4世紀~3世紀ごろの川辺にあったとされる「厠(かわや)」です。これは文字通り、川のそばで尻を出して用を足すスタイル。橋の先端に座って水面に向かって放つという、なんとも風通しのいいシステムでした。このときのうんこはただの排泄物ではなく、魚たちのご馳走でもありました。実際、魚はうんこを普通に食べますし、こうした生態を見ていると、自然の循環ってよくできてるなと思わされます。
奈良時代や飛鳥時代には、さらに進化したトイレ文化が登場します。たとえば藤原京には、碁盤の目状に整備された道路と、それに沿って敷設された側溝がありました。
この側溝が雨水を流すだけでなく、トイレとしても活用されていたのです。合理的ですが、下流の人にはちょっと不親切かもしれません。平城京では一日10~20トン、平安京ではなんと24~26トンのうんこが流れていたと推定されています。
罪人が掃除をさせられていたという記録もあり、当時のトイレ管理には人海戦術も使われていたようです。
こうした古代のトイレ跡からは、植物の種や魚の骨、寄生虫の卵などが見つかっています。うんこはタイムカプセルのようなもので、何を食べ、どう暮らしていたかを如実に語ってくれるのです。しかも、仏教で肉食が忌避されていたはずの奈良時代にも、うんこからは牛肉や豚肉の痕跡が……。いやはや、食の履歴は正直です。
■経済を回したり、窓から降ってきたり
そして話は江戸時代へ。うんこは本格的に商取引の対象となります。
なぜそんなに価値があったかといえば、言うまでもなく肥料になるからです。人糞は栄養たっぷりの天然資源。まさに地に返せば富になる、そんなリサイクルの理想形だったのです。町民はうんこを集めて売り、農民はそれを買って畑に撒く。言ってしまえば「うんこ経済」が成立していました。
一方、同時期のヨーロッパはというと、まさに「うんこ暗黒時代」。排泄はバケツ(おまる)で済ませ、その中身は窓から通りへ投げ捨てていました。朝の通勤中に「上から何かが降ってくる」なんて日常茶飯事です。そういう意味では、日本は世界的に見てもかなり先進的なうんこ文化を築いていたと言えます。
実際、江戸時代に日本を訪れた外国人たちは、日本人がうんこを肥料として活用していることに驚きました。シーボルトやツュンベリーといった医者や学者たちはその実用性を高く評価しています。一方、オランダ人のフィッセルは「旅行者にとってこの匂いは耐えがたい」と、ちょっと眉をひそめていました。まあ、慣れの問題です。
■お金を払って処理する時代へ
しかし、そんな栄光あるうんこも、時代とともにその価値を失っていきます。うんこは「売るもの」だったのに、大正時代前後から徐々に「捨てるもの」になっていったのです。東京市では1921年、屎尿の公営処理が始まり、市民はバケツ二つ分の処理に10銭を支払うようになりました。商品だったものが、ゴミへと変わってしまったのです。
その背景には、二つの大きな要因があります。まずは、急激な人口増加。江戸の人口が100万人だったのに対し、大正時代には300万人を突破。うんこの量が農地の需要を超え、処理困難になったのです。そしてもう一つが、化学肥料の登場。ドイツ人の科学者たちによって窒素肥料が開発され、人糞を使わなくても作物が育つ時代がやってきました。
結果、うんこは肥料としての役目を終え、都市では大量のうんこが海へと流されるようになりました。こうして、かつては資源だったうんこが、ただの「邪魔者」として扱われるようになったのです。
■レバーを引けば下水道の旅が始まる
私たちは毎日、何気なくトイレのレバーを引いています。音もなく、水とともに消えていくブツ。それを見送ることもなく、振り返ることもなく、次の瞬間には別のことを考えています。これが文明の力というやつでしょう。考えずに済むこと、それ自体が進歩の証だとも言えます。でも、ちょっと待ってください。あのブツは、一体どこへ行くのでしょうか。
『うんちの行方』(神舘和典・西川清史 著、新潮新書)というおもしろい本があります。詳しくはぜひそちらを読んでいただきたいのですが、その本によればうんこは壮大な旅をしているようです。簡単に紹介しましょう。
水洗トイレのレバーをひねると、うんこは「排水管」というトンネルに吸い込まれます。そしてキッチンの流しやお風呂の排水と一緒になって、「汚水」となり、家庭から旅立っていきます。集合住宅やビルでは、あらゆる階層のうんこたちが配管の中で合流し、マンホールの下の「下水道管」へと向かいます。
下水道管の中は、重力を利用してなだらかな傾斜がついており、汚水たちはスムーズに下流へと向かいます。ただし、あまりに傾けすぎるとどんどん深くなってしまうので、途中には「ポンプ場」というエレベーターのような施設があり、地上近くまで持ち上げられ、また落とされます。なんだかうんこも人生のようです。うんこは上がって、下がって、最終的にたどり着くのは「下水処理場」です。
全国の地下に張り巡らされた下水管の総延長は、約48万キロメートル。地球12周できる距離です。これだけのインフラを保守管理するのは並大抵のことではありません。特に、空気に触れないことで硫化水素が発生し、管を腐らせる「デンジャーゾーン」が全国に約4300キロあるといいます。中に入って作業する人たちには頭が下がります。
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ノダカズキ
ネイチャーガイド/自然観察家/株式会社白老ネイチャーオフィス 代表取締役
佐賀県出身・1997年生まれ。幼少期より自然の美しさに魅せられる。愛媛大学農学部に入学するも、森林だけではなく多角的な自然の観点を学ぶため1年で中退。そのあとは自然をテーマに国内外を飛び回る。2020年には北海道白老町に移住。現在は自然の美しさとおもしろさを伝えることを軸に、ネイチャーガイドや自然教育、ワークショップなど提供。音声で聞く自然ガイドをコンセプトにPODCAST番組「ノダカズキの野良歩き」「ミモリラジオ」を制作。ミモリラジオは自然部門で1位。全体ランキングで6位を獲得。
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(ネイチャーガイド/自然観察家/株式会社白老ネイチャーオフィス 代表取締役 ノダカズキ)

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