東京・お台場に3月、“世界最大級”の噴水が登場した。パレットタウンやヴィーナスフォート、イマーシブ・フォート東京など名所の閉鎖が相次ぎ、「衰退した街」というイメージが付きまとうが、実際はどうなのか。
ジャーナリストの末並俊司さんがリポートする――。
■バブルの夢が残る街「お台場」
お台場、と聞いてまず何を思い浮かべるだろう。埋め立て地、レインボーブリッジ、タワマン、フジテレビ、などのイメージか。遊びに行く街として捉えるなら、どれも今はなくなってしまったが、「パレットタウン」「大江戸温泉物語」「ヴィーナスフォート」などの名があがるかもしれない。
私は、お台場といえばまずフジテレビの本社社屋を思い浮かべる。真ん中に球体を抱えた、はしゃいだデザインのあのビルだ。バブルの時代に「楽しくなければテレビじゃない」といっていたフジテレビのイメージと相まって、それがお台場全体の、私の印象となっている。
もう少し噛み砕くと、私の中のお台場は、“バブルを引きずった、はしゃいだ人たちが集まる場所”といった印象だ。しかし実際に街を歩いてみると、これまでのイメージとはかなり違う姿が見えてきた。
お台場は、1960年代から70年代にかけて東京港の「13号埋立地」として造成された東京臨海副都心エリアにある。ここは、東京都の江東区、港区、品川区の区境が接する、そういう意味ではかなり複雑な地域だ。
港区台場には、1丁目と2丁目がある。
住所でいうと、「台場」はこの範囲にとどまる。ここに、14棟のマンションが建っている。そのほとんどが賃貸で、分譲マンションは台場2丁目の「ザ・タワーズ台場」だけだ。
■住所で紐解く台場の正体
詳細は後述するが、かつてあった「パレットタウン」や「大江戸温泉物語」は港区台場ではなく、江東区の施設だ。ただし、お台場といえば、これらをひっくるめた地域を指すと言っていいだろう。
台場1丁目にある賃貸マンションに住む安田功さん(65)に話を聞いた。安田さんは、現在台場地区に9つある自治会のひとつ「お台場合同自治会」の会長だ。
「お台場は、1997年にフジテレビが新宿区河田町から移ってきました。同じ時期にこのあたり一帯にマンションが整備されはじめた。私はその第1期の入居です。だから、ほぼ30年にわたってこの地域を見てきたことになりますね」(安田さん)
繰り返すが、お台場にあるマンションのほとんどが賃貸だ。運営は、都住宅供給公社(JKK)、UR、そして都営住宅の3系統が混在している。

「この三つは価格帯もルールも違います。ざっくり言うと都営住宅は低所得者や高齢者向けの色合いが強く、年収の上限制限も厳しい。年収の高い人は入れないということです。こちらは、極端にいえば月額数万円で入居できる部屋もあります」(安田さん)
これまで勝手に、「台場はバブリー」と思い込んでいたが、そうではないらしい。安田さんいわく、「JKKは都営住宅ほどではないが、一定の収入階層向けの賃貸で、その上にURがある」とのこと。
■賃貸住宅なのになぜ自治会が存在するのか
「私が住んでいるのはJKK系列です。ここの家賃設定は年収層によって5段階に分かれていました。入居時の私はたぶん真ん中くらいのランクだったと思います。広さは約85平方メートルで、入居時の家賃は13万円くらいでしたね。
JKKは、毎年少しずつ家賃が上がっていき、最終的に上限に達する仕組みです。私はもう30年住んでいるので、上限に達しています。その金額はここでは言えないけど、港区で、この広さで、新橋まで15分程度ということを考えると、かなり安い家賃ですね」(安田さん)
先に書いたとおり、安田さんはお台場合同自治会の会長だ。
2013年に設立された組織だが、作るにあたってはお台場ならではの苦労があったという。
「そもそも賃貸住宅には自治会がないことが普通です。ただし都営住宅は、その限りではない。管理人も管理事務所も置かず、日常の掃除や電球の取り替えのような細かいことは住民でやるのが前提です。だから、都営の棟は最初から自治会への加入が入居ルールに組み込まれています」(安田さん)
一方、JKKやURはその母体が管理する体制だから、自治会はなくてもよい。むしろなくて当然、という空気が強かった。
■かつてお台場を彩った名所たち
「そもそも賃貸だから、自分の持ち物ではないわけです。だから、地域運営に関わろうという意識は、どちらかというと生まれにくい。ただし、そうは言っても2011年の震災により自然災害に対する地域住民全体の危機意識が芽生えたことをきっかけに、自治会が作られるようになりました。でも、棟によっては自治会を持たないところもあった。そうした棟の住民をまとめる形で作ったのが『お台場合同自治会』です」
ただし、立ち上げ作業はかなり難航した。
「実際、賃貸マンションに入ってくる人の中には、近所づきあいやコミュニティがわずらわしいからこそ賃貸を選んでいる人も多いんですよ。
自治会を立ち上げるにあたって、一軒一軒ドアをノックしてその必要性をお話ししたんですけど、“そういうのが嫌だから賃貸を選んでいるんだ”と追い返されることも、かなりありました」(安田さん)
こうした話を聞いている最中に、会話がふとパレットタウンやヴィーナスフォート、大江戸温泉物語の方向に流れた。
お台場にはかつて、「パレットタウン」という複合商業施設があった。夜になれば、様々なイルミネーションで照らしだされる大観覧車が、ランドマークになっていた。
ここには、トヨタ自動車の巨大ショールーム「MEGA WEB」、天井に夜空や夕暮れが映し出される全天候型のショッピングモール「ヴィーナスフォート」、ライブハウスの「Zepp Tokyo」などがあったが、2022年8月までに順次閉館した。
その後、同地で没入体験テーマパークの「イマーシブ・フォート東京」が開業したが、ここも、2026年2月に閉業した。
■まるで「東京の実験場」のような街
時代の移り変わりによるニーズの変化や、コロナ禍以降の営業不振が、閉鎖の理由だと思われがちだが、実際はそれだけではない事情がある。安田さんは次のように説明する。
「お台場の土地の多くは現在も東京都の持ち物です。陸の孤島のようなこの場所の有効利用を東京都はずっと考えてきたんですね。それが、パレットタウンなどの商業施設の誘致です。ただ、地面の持ち主は東京都のまま、多くの商業施設は定期借地権で土地を借り、商売をしているわけです」(安田さん)
「定期借地権」なので、期間はあらかじめ設定されている。パレットタウンに関しては、当初10年の期間限定だったようだが、想定以上に人気を博したため、契約の延長が続いていた。

「様々な理由はあるのでしょうが、とにかく今回は更新はなく、2026年に借地権の期限が切れ、今後はまた別のコンセプトでまちづくりが進められることになった。お台場という土地は、住んでいる人も商業施設も、賃貸なんです。街全体がそうしたイメージなんですよね」(安田さん)
賃貸だから出入りが激しく、常に街の様子が変わっている。今後も変わり続けるだろうと、安田さんは言う。どんな変化が正解なのか、誰にもわからない。「だから、お台場って、ずっと“東京の実験場”のようなイメージなんですよね」。安田さんのこの言葉が妙に心に残った。
■総工費3500億円で生まれる新たな施設
「東京の実験場ねぇ、そう言われると頷かざるをえないかもしれませんね」と語るのは「シーリアお台場三番街自治会」の会長で、元フジテレビ局員の森正行さん(77)だ。
森さんはフジテレビの退職社員会「旧友会」の幹事を務めている。フジテレビ社屋内の18階にある旧友会の事務局にて話を聞いた。
「お台場は新陳代謝の盛んな街であることはその通りです。今後もここで、新しいものが生まれていくでしょう。
今私が注目しているのは、SBIホールディングス(HD)がすすめる日本版『Sphere(スフィア)』の建設計画です」(森さん)
スフィアは米ラスベガスで人気のアミューズメント施設だ。半円・ドーム状の巨大建造物で、内壁外壁の全面がLEDで覆われており、これが映し出す投入映像体験が特徴だ。総工費は3500億円程度になると見込まれている。
■政治家たちが残した熱い「レガシー」
「お台場はまだ土地が余っているんですよ。都市部も近いし、こうした施設の建設にはとても適しています。ただ、まだ計画段階で、正式な決定は未定です。仮にこれが完成すると、人が大勢集まるだろうから、住民としては大歓迎とは言えませんけどね(笑)」(森さん)
また、森さんは「お台場は政治家のレガシー作りの場」になっているとも語る。
お台場を舞台にした政治家のレガシー作りで、まず思い浮かぶのが、2人の元東京都知事、鈴木俊一氏(79~95年在任)と青島幸男氏(95~99年在任)だ。
「お台場を含むこの地域には、1996年に世界都市博覧会(都市博)を誘致する計画がありました。誘致に積極的だったのが当時の都知事・鈴木さんで、逆に都市博反対を公約に都知事の座を射止めたのが青島幸男さんでした」(森さん)
つまり、鈴木氏は都市博を開催することでレガシーを残そうとし、逆に青島氏はこれを阻止したことでレガシーを作った。
また、青島氏に続く石原慎太郎元都知事(99~2012年在任)は、実現はしなかったものの、お台場にカジノを誘致しようと奮闘した。
■お台場は「失敗」ではなく「未完」の街
「そして、現在のレガシーがあれですよ」と、森さんはフジテレビの18階から、お台場海浜公園を見下ろした。小池百合子現都知事がゴリ押ししたといわれる「東京アクアシンフォニー」が、高々と水を吹き上げていた。横幅約250メートルの噴水施設で、世界最大級とされる。
今年3月28日の土曜日から運用が始まった。噴水は午前11時~21時まで計10回。最大150メートルまで水を吹き、日が暮れてからの噴水は様々な色にライトアップされる。
「総工費はなんと26億円以上ですよ」と、森さんは苦笑した。
今後、この噴水施設がどれだけ経済効果を生むのか定かではないが、お台場が政治家たちのレガシー作りの場になっている、という森さんの言葉は、つくづく達見だと感じた。
最後に森さんは外からは見えにくいお台場の暮らしについてこう語った。
「台場に暮らしてみて感じるのは、ここが“住めば都”という言葉の典型だということです。まず、街に電柱が一本もないので空が広く、海風が抜けるすっきりした景観が保たれている。可燃ごみは24時間いつでも管路に投入できるので、生活のストレスが驚くほど少ない。車道と歩道がきちんと分離されているから、子どもたちの通学も安心して見ていられます」
消えていった施設だけを見れば、お台場は移ろいやすい街に映る。だが、その変わり続ける落ち着かなさこそが、この街の本質なのかもしれない。お台場とは、完成を目指す街ではなく、未完成のまま更新され続ける東京そのものなのかもしれない。

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末並 俊司(すえなみ・しゅんじ)

ジャーナリスト

1968年福岡県生まれ。日本大学芸術学部卒。テレビ番組制作会社勤務を経てライターに。両親の在宅介護を機に、2017年に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を取得。「週刊ポスト」などで、介護・福祉分野を軸に取材・執筆を続ける。『マイホーム山谷』で第28回小学館ノンフィクション大賞を受賞。

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(ジャーナリスト 末並 俊司)
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