■アメリカは戦争に負けている
エプスタイン問題で岩盤支持層の離反を招き、イラン攻撃の長期化による物価高で、「物価を下げる」という公約の実現に失敗したことで、トランプ大統領の支持率が低迷し「トランプ下ろし」の動きが活発化している。
だが同時に、民主党を見限った人がそう簡単に民主党支持に戻ってこないこともはっきりしてきている。彼らの多くは「自由貿易による中間層の困窮」や「開かれた国境による無制限な移民受け入れ」など、明確な理由があって民主党に絶望して去ったのだから、いくらトランプがハチャメチャをやっても、そう簡単に民主党支持に回帰しない。
トランプ政権が宣伝する「米国はイランに勝利している」という物語はフェイクニュースに過ぎない。著名なリベラル派のジャーナリストであるマクウィリアム・ビショップ氏は米『ローリングストーン』誌への寄稿で、「ベトナム戦争における敗北から半世紀を経て、米国はベトナムで犯した『戦闘に勝って戦争に負ける』愚を繰り返している」と看破した。
その理由は、「米国がミサイルや爆弾で標的を破壊することはできても、繊細で、洞察力が要求される政治的な問題を、持続可能な外交で解決することはできない」からだ。
国際安全保障を専門とする米シカゴ大学のロバート・ペイプ教授(政治学)も、「トランプ大統領が要求するイランの核兵器の開発放棄とホルムズ海峡の封鎖解除は、米国とイランどちらの当事者も譲歩できないため、限りなくエスカレートするのみだ」と見る。
そこでトランプ氏は、自身の面子を保つため、部分的な勝利で幕引きを図ろうとしている。ところが、イランはなお、停戦に向けた協力的な姿勢を示そうとせず、戦争の泥沼化を図っている。
■「江戸の敵を長崎で討つ」作戦
イランが戦争長期化に成功すれば、原油価格高騰やサプライチェーンの混乱によるインフレ悪化で米経済成長が阻害され、トランプ大統領に対する米国民の支持が失われると、革命防衛隊は踏んでいる。
実際に戦争が長引くことで大統領の立場が弱くなり、11月の中間選挙で米共和党が大敗北を喫する可能性があると、ペイプ教授は分析する。
そして、ここがペイプ教授の見立てのキモなのだが、「イランは(2019年と2021年の過去2回に米下院で弾劾が成立したものの米上院では不成立など)米民主党でも倒せなかったトランプ大統領を、(中間選挙で勝利した民主党による3回目の弾劾あるいはトランプ大統領の解任などで)失脚させ、歴史に名を残そうとしている」。
つまり、軍事面で米国にほぼ完敗状態のイラン革命防衛隊は、トランプ大統領にオウンゴールを重ねさせ、民主党を選挙で勝利させることで、いわば「江戸の敵を長崎で討つ」を狙っているわけだ。
トランプ失脚を望むという意味では、「米国の敵」イランは、米民主党と共闘関係にあるとも言える。イラン革命防衛隊による「トランプ降ろしによる勝利の目論見」は、半年後に迫った中間選挙において民主党が下院の過半数を奪還することが前提となる。
■アメリカの有権者は「トランプ=噓つき」
イランにとって「天祐」となっているのは、最近の米世論調査の結果がいずれもトランプ氏の不人気を示しており、中間選挙での民主党勝利を示唆する結果となっていることだ。
米ワシントン・ポスト紙とABCニュースが、米有権者2560人を対象に4月24~28日にかけて合同で実施した世論調査では、61%の回答者が「対イラン開戦は間違いであった」と答え、「イランにおける戦争は上手くいっている」としたのは19%に過ぎなかった。
経済政策の失敗も、トランプ氏にとって不利に働いている。全米の平均ガソリン価格は、開戦前の1ガロン当たり2ドル台から、5月7日には4ドル56セントへ1.5倍まで急騰し、生活者を直撃している。
英ロイター通信と世論調査イプソスが4月に実施した調査では、ガソリン価格上昇について回答者の77%が、「トランプ大統領に少なくともかなりの責任がある」と答えた。
また、米CBSニュースが5月13~15日に全米2064人の有権者を対象に実施した世論調査では、「トランプ大統領のインフレ対策を評価する」とした回答者の割合が27%と、トランプ政権発足直後の2025年3月に記録した46%から20ポイント近くも下落している。
さらに、燃料費の高騰が食品価格や生活必需品に波及するのは、時間の問題だと多くのエコノミストは考えている。
物価を下げるという公約を掲げて当選したトランプ氏だが、インフレを再燃させたことで多くの有権者から「嘘つき」と見られているわけだ。
■民主党回帰の傾向がみられるが…
トランプ大統領への不満は共和党支持者の間でも高まっている。保守系のFoxニュースが4月17~20日に1001人の有権者を対象に実施した調査では、政権の経済運営を支持する共和党支持者はわずか34%にとどまった。身内からの支持も弱まっている中、中間選挙の行方には暗雲が垂れ込めているように見える。
事実、ワシントン・ポスト紙とABCニュースの調査では、トランプ大統領の不支持率が実に62%と、2期目の任期中で最悪となった。一方、支持率はわずか37%であり、2月の調査時の39%からさらに2ポイント低下している。
英ロイター通信のリチャード・コーエン記者は、「中間選挙で弾劾や憲法修正第25条による大統領解任という言葉を使うかどうかにかかわらず、民主党の候補者はイラン戦争と物価上昇を関連づけることが勝利を引き寄せるという見方で一致している」と指摘した。米世論のトランプ離れが進む中、各種世論調査では、顕著かつ決定的な民主党回帰の傾向が見られる。
■中間選挙での共和党敗北はほぼ確実
ワシントン・ポスト紙とABCニュースの4月下旬の調査においては、「現時点で選挙が行われたら、どちらの党の候補者に投票するか」という質問に対し、与党・共和党と答えた人が44%、野党・民主党と答えた人が49%で、民主党が5ポイントもリードしていた。
加えて、4月に1000人の有権者を対象に実施されたエマーソン大学の世論調査では、民主党に投票したい回答者が共和党への投票を考える人たちを10ポイント上回った。さらに、米調査企業ビッグ・データ・ポールが同時期に実施した世論調査では、一般的な支持政党調査で、13ポイントというかつてない大差で民主党が共和党をリードしている。
世論調査では有権者が、民主党に大挙して回帰する傾向を示すだけでなく、各州において多くの民主党候補が共和党候補に対し有利、あるいは接戦という状況が示唆されている。
また、中西部ウィスコンシン州のマーケット大学が4月に実施した調査では、民主党員の47%が自身を「とても投票に熱心」と回答したのに対し、同じ回答を選んだ共和党員は28%に過ぎず、民主党支持者のモチベーションが上がっていることがわかる。
この傾向は、公共ラジオのNPRと公共テレビPBSの共同調査や、CNN、さらにワシントン・ポスト紙とABCニュースの合同調査でも示されている。
■待ち受けるのは「弾劾」だけではない
直近の世論調査の結果を見れば、中間選挙で民主党が少なくとも下院の過半数を獲得する可能性は高いだろう。
そもそも共和党は下院では、たった3議席という僅差でかろうじて優位を保っているに過ぎない。
下院は選挙のたびに支配政党が変わりやすいよう設計されている。435議席すべてが改選対象であり、野党の有利に働いている。
現在多くの州で進行中である下院選挙区割り変更のインパクトを見極める必要があるものの、民主党が11月に勝利した場合、トランプ氏の弾劾手続きが始まるのは確実だ。下院では、過半数の議決で大統領を訴追できる。トランプ大統領自身も1月に、「選挙で敗北すればまた弾劾される」と語り、大いに警戒している。トランプ氏を待ち受けるのは、弾劾だけではない。米国憲法修正第25条第4節では、職務遂行不能となった大統領を解任することができるが、米下院民主党議員の約4割に相当する85人が、トランプ氏の職務遂行能力を評価する特別委員会の設置法案に賛意を示している。
■絶望的なまでの不人気の理由
とはいえ、本当に「民主党勝利によるトランプ降ろし」が実現するかは不透明だ。
その理由は、絶望的なまでの民主党の不人気ぶりにある。
米国においてはいまもなお民主党アレルギーが強い。不人気の理由は、移民促進やグローバル化による自由貿易、地球温暖化防止のエネルギー政策や過度の多様性重視など、意識の高いエリート層が庶民にゴリ押しして拒絶反応を引き起こした一連の政策だ。
各種世論調査で「トランプ不支持」が示されてはいるが、有権者の所属政党登録データは、過去10年間ずっと、民主党からの大量離党が続いていることを示している。この有権者の所属政党登録データは実際の投票行動と非常に強い相関関係があるため、選挙結果に直結するデータとして注目される。
たとえば、最も重要な激戦州のひとつである東部のペンシルベニア州では、2020年から2024年の間に民主党を離党した有権者の数が34万2904名に上っている。一方、共和党は同時期に10万9349名の党員を獲得している。
トランプ大統領が就任後に、相互関税政策や不法移民摘発を実行し、世論調査で支持率が急落し「オウンゴール」となったが、その時期を含む2024年10月から2025年10月までの時期においても、民主党はペンシルベニア州で15万8000名もの党員を失っている。
なお、イラン戦争の期間を含む2025年11月から2026年5月までの期間には民主党で2万69名の党員数増加がある一方で、共和党員が1797名減少した。とは言え、長期的な民主党の不人気の傾向は変わっていないように見える。
実際に、ペンシルベニア州における民主党の共和党に対する党員数の優位は2008年の123万6513名、2012年の104万594名、そして2016年の91万6274名から、2020年には68万5818名、2024年に28万1091名、そして2025年に17万608名へと激減している。
■民主党員は210万人も減少
トランプ政権の失策で共和党も党員数を落としているため、直近の2026年5月にその差は18万8381名まで盛り返しているものの、同州の民主党は、①党員数、②登録済み党員数の共和党に対するリードという両方の尺度において、長期的な党勢衰退に陥っている。
この「第1次オバマ政権がスタートした2009年から第2次トランプ政権発足の2025年までの16年間にわたる決定的な退潮」は、民主党全国委員会(DNC)が5月21日に公表した、2024年の大統領選挙の敗因検証報告書でも明らかだ。この期間にライバルの共和党は13の米上院議席と41の米下院議席を獲得し、新たに5州で共和党知事を誕生させ、全国の州議会で合計832の議席を増やしたのである。
伝統的に民主党が支配している南部ノースカロライナ州の上院議員選挙戦では、民主党所属の前州知事で知名度抜群のロイ・クーパー氏が9ポイントもリードしている。だが、そんな同州でも民主党の衰退により、共和党員として登録した有権者の数が2026年に初めて民主党員を上回った。
2020年から2024年の間に同州で民主党を離党した有権者の数は8万7779名に上っている。一方、同時期に共和党員は2万8397名の純増であった。
これは、激戦州のみの傾向ではない。米ニューヨーク・タイムズ紙がデータ分析企業の米L2による分析を基に2025年8月に報じたが、有権者登録に所属政党データを取り入れている31州すべてで、2020年から2024年の間に、民主党員の減少と共和党員の増加が記録されていた。民主党員の減少は総計で210万人にも上る一方、共和党は240万人の党員を獲得している。政党別の有権者統計をとっていない中西部のミシガン州、ウィスコンシン州、オハイオ州やイリノイ州、南部バージニア州、ジョージア州やサウスカロライナ州など、残り19州においても民主党員の推計数は減少中だ。
■カリフォルニアで共和党員が増加
たとえば、民主党の牙城であるイリノイ州で、民主党有権者の割合が2020年の43%から2026年に38.51%まで落ちたと、データ分析企業のL2とIVPの分析が明らかにしている。
同じく、民主党支配が強固な西部のカリフォルニア州においては、2020年から2026年の間に、共和党員が47万376名も増えている。
なお民主党は、オフイヤーである2025年と2026年の地方選挙や補欠選挙で快勝を続けている。だが、「民主党候補が2桁の得票率の差で勝利」などという報道に関しては、そもそも圧倒的に民主党が優勢なところであったり、当該選挙の投票率が極端に低かったり、民主党お得意の「郵便投票」が勝敗を決した場合がほとんどという面もある。
加えて、物価が高く税負担の重いカリフォルニアやニューヨーク、イリノイやマサチューセッツなどの民主党州から大規模な人口流出が起こり、物価が比較的安く暮らしやすいフロリダ、テキサスやサウスカロライナ、テネシーなどの共和党州に流入が増えていることも、民主党からの離党が増加していることと表裏一体の現象かもしれない。
同様の現象は、言論空間においても見られる。ケーブルニュースの視聴率で、保守派のFoxニュースが2025年通年平均で前年比11%増の265万人に視聴されたのに対し、リベラル競合のMS NOW(旧MSNBC)は92万人で15%減、同じくリベラルのCNNは16%減の57万人にとどまった。
なお、イラン戦争が始まった後の2026年4月に、Foxニュースは286万人、MS NOWが126万人、CNNは91万人となり、リベラル系ニュースが大きく盛り返しているが、Foxニュースもむしろ増加している。
■イラン戦争はあと数週間で終わる
もちろんトランプ氏の不人気は間違いない。筆者が個人的に話した米国人から受けた印象でもその傾向は明らかである。特に物価対策とイラン戦争は大失敗だと思われている。
しかしそれが、「中間選挙での民主党圧勝」に直結するかどうかは未知数だということだ。
11月の中間選挙では、有権者がインフレやイラン戦争への不満からトランプ大統領の公約違反を罰し、民主党は下院を奪還する可能性が高い。
だが、下院で過半数による訴追が成功しても、大統領の免職には上院で3分の2以上の賛成が必要だ。今のところ、共和党は53名の上院議員を擁している。対する民主党は現在、無所属2名を含む47名の上院議員がいる。ところが定員100名の上院は下院と違い、選挙ごとの改選数が3分の1の33~34議席に制限されている。上院でも弾劾を成立させるには、民主党は中間選挙で最大22議席を獲得するか、共和党の造反者を大量に確保しなければならない。それは、ほぼ不可能に近い。
民主党によるトランプ弾劾や解任まで進む可能性はあまり高くないのではないか。
過去10年間のパターンから見ても、世論調査は「民主党寄り」になりすぎて外れることが多い。実際の選挙結果はむしろ有権者の民主党離れと整合する傾向がある。
こうした中、民主党を離党した人の多くは、共和党支持にもなれず、無党派が激増している。
そうなると、困るのはイランだ。イラン革命防衛隊は民主党の中間選挙圧勝で「トランプ大統領の弾劾・解任」に期待しているが、それが起きないとなると、イランが戦争で粘る意味が薄れることになる。
イラン経済の4割を掌握する革命防衛隊の最重要目的は、その国内権力基盤および利権の維持である。米軍によるホルムズ海峡の逆封鎖でイラン国内のインフレや失業が悪化していることを考えると、イランはトランプ大統領と「ディール」すべき時期に来ているとも考えられる。その場合、米軍による攻撃再開など紆余曲折があったとしても、この戦争はあと数週間で終結すると見るのが妥当ではないだろうか。
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岩田 太郎(いわた・たろう)
在米ジャーナリスト
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。米国の経済を広く深く分析した記事を『現代ビジネス』『新潮社フォーサイト』『JBpress』『ビジネス+IT』『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などさまざまなメディアに寄稿している。noteでも記事を執筆中。
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(在米ジャーナリスト 岩田 太郎)

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