※本稿は、上月正博『100歳まで元気な心臓の育て方100』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■「1日2食」は効率が悪すぎる
「最近、少し体重が増えてきたから、1食抜いて調整しよう」。そう考えて、朝食や昼食を抜いて1日2食にする人がいます。
しかし、心臓の健康を守るためのダイエットという観点から見れば、これは極めて効率が悪く、むしろ逆効果になりかねない「危険な選択」です。食事の回数を減らすことは、私たちの体が本来持っている代謝の仕組みを狂わせ、かえって太りやすく、血管に負担をかける体質をつくってしまうからです。
食事を抜くことが肥満に直結する最大の理由は、次の食事をとった際の「血糖値の跳ね上がり」にあります。食事の間隔が長く空きすぎると、体は飢餓状態に近いと判断し、次に入ってきた栄養をできるだけ蓄えようと準備します。その状態で食事をとれば、血糖値は通常よりも急激に上昇します。
■最悪なのは「食べていないのに痩せない」
血糖値が急騰すると、それを下げるためにインスリンが大量に分泌されます。インスリンには「余った糖分を脂肪として蓄える」という働きがあるため、同じ摂取カロリーであっても、回数を分けて食べるより一気に食べるほうが、脂肪として定着しやすくなるのです。1日2食にしたからといって、結果的に1回あたりのドカ食いを招いてしまえば、血管は血糖値スパイクの直撃を受け、心臓への負担は増すばかりです。
さらに、食事回数の減少は「筋肉量の低下」も引き起こします。体はエネルギーが不足すると、自らの筋肉を分解してエネルギーを補おうとします。筋肉が減れば基礎代謝が落ち、結果として「食べていないのに痩せない」「リバウンドしやすい」という、心臓にとっても避けたい肥満のスパイラルに陥ります。
さらには、筋肉量が低下すると、血液を心臓へ送り返す筋ポンプ作用もうまく働かなくなって、心臓の負担が増してしまいます。食事は「規則正しく1日3食」を守るようにしましょう。
■ひき肉を減らしてキノコ、豆腐を増やす
肥満を解消しようと決意したとき、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが「食事の量を減らすこと」でしょう。しかし、単に食べる量を減らして空腹を我慢するだけのダイエットは、長続きしないばかりか、精神的なストレスにつながり、心臓に余計な負担をかけてしまうことにもなりかねません。
そこでおすすめしたいのが、見た目のボリュームや満腹感を保ったまま、摂取カロリーだけを賢く抑えられる「かさましフード」の活用です。主食やメインのおかずの一部を、低カロリーで噛み応えのある食材に置き換えるのです。
たとえば、ハンバーグをつくるとき、ひき肉の量を少し減らし、その分、細かく刻んだキノコや水切りした豆腐、おからなどを混ぜ込むと、これだけでジューシーさを保ちながら脂質とカロリーを大幅にカットできます。キノコ類は食物繊維が豊富ですから、先述した血糖値の急上昇を抑える効果も期待できるでしょう。
■噛めば噛むほど満腹感がアップする
また、主食である白米のかさましも非常に効果的です。
かさましフードのもう1つの利点は、自然と「噛む回数」が増えることです。キノコや海藻、こんにゃくといった食材は弾力があるため咀嚼回数が増えます。よく噛むことは満腹中枢を刺激し、少量でも高い満足感を得ることにつながります。よく噛めば唾液の分泌も促進されるため、消化吸収がスムーズになり、内臓にかかる負担も軽くなります。
お皿の上が寂しくなるような食事制限ではなく、かさましフードを活用してボリューミーな食事で健康を目指しましょう。
近年、ダイエットや健康管理の代名詞として「糖質制限」が広く浸透しました。白米やパンなどの炭水化物を極端に減らすことで、手っ取り早く体重を落とそうとする人も多いでしょう。しかし、心臓の健康を長期的に守るための視点に立つと、この「過度な糖質制限」には見過ごせないリスクが潜んでいます。
■「糖質ダイエット」の落とし穴
まず理解しておくべきは、糖質(炭水化物)は心臓や脳を動かすための最も重要なエネルギー源であるということです。エネルギーが不足すると、私たちの体は自分の筋肉を分解してエネルギーを補おうとします。
さらには、心臓そのものも「心筋」という筋肉でできていますから、過度な栄養不足は、心臓のポンプ機能を低下させることにもつながりかねません。
また、主食を極端にカットすることで、本来そこから摂取できたはずのほかの栄養素まで失われることも問題です。
米やパンなどの炭水化物は、エネルギー源であるだけでなく、心臓を守るために欠かせない食物繊維やビタミン類、さらには血管の健康を支えるミネラルも含んでいます。これらを食卓から排除してしまうと、栄養バランスが崩れて血管のしなやかさを保つ力が弱まり、動脈硬化を進行させるリスク要因になるのです。
■「白米の代わり」は肉より玄米がいい
さらには、糖質を減らした分を「肉類」で補おうとするのも危険です。糖質を制限する代わりに、肉の脂身や加工肉などを過剰にとるようになると、今度は飽和脂肪酸の過剰摂取を招きます。これが悪玉(LDL)コレステロールを増やし、心筋梗塞のリスクを跳ね上げる原因となるのです。
大切なのは、糖質を「敵」として排除するのではなく、その「質」と「量」を適切にコントロールすることです。低GI食品をうまく活用しながら、白米を玄米に変える、食パンを全粒粉パンに変える、甘いお菓子を控えるといった賢い選択をベースにしつつ、体に必要なエネルギーは確保するようにしましょう。
■ダイエットのために運動しすぎると…
運動が習慣化して楽しくなってくると、ついついストイックに自分を追い込んでしまう方がいますが、これは大きな間違いです。息が切れるような高強度の運動は、心臓や血管にとっては老化を早める「毒」にさえなりえます。
強すぎる負荷が体に悪い理由は「炎症」と「エネルギー源の変化」にあります。低~中強度の適度な運動には、体内の炎症を抑える働きがありますが、高強度の運動はその真逆です。激しい運動の後は、筋肉にほてりや痛みが残りますが、これは体内で炎症が起きている証拠です。血管に強い圧力がかかり、微細な損傷が生じることで、血管の若返りを阻害してしまうのです。
また、運動の強度によって、体が消費するエネルギー源が変わる点にも注目すべきです。心臓病や糖尿病、肥満などの改善を目的とする場合、本来は「体脂肪」を効率よく燃焼させたいはずです。
脂肪を燃やすには大量の酸素が必要ですが、強度の高い運動では酸素供給が追いつかず、体は酸素を使わない「糖質(グリコーゲン)」を優先的に消費するモードに切り替わります。その際、副産物として乳酸がたまり、結果として脂肪の分解はむしろ抑制されてしまうのです。
■「30分でつらくない運動」がちょうどいい
さらに、血圧への影響も無視できません。低~中強度の運動は血管を広げ、血圧を下げる効果があるのに対し、高強度の運動では心臓が無理をして血液を送り出そうとするため、血圧が急上昇したまま下がりません。血管をしなやかに保つはずの運動が、かえって血管を酷使して硬くする結果となってしまうのです。
具体的な運動でいうと、ウォーキングやサイクリングのように、30分程度無理なく続けられる運動が最適です。
また、ジョギングやスイミングも、健康な人には有酸素運動でも、心臓に不安がある方には高強度な場合があるため、自分の体感を大切にしましょう。
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上月 正博(こうづき・まさひろ)
医学博士
医学博士。日本心臓リハビリテーション学会名誉会員、日本腎臓学会功労会員、総合内科専門医、腎臓専門医、高血圧専門医、リハビリテーション科専門医。1981年、東北大学医学部卒業。東北大学大学院内部障害学分野教授、東北大学病院リハビリ部長、東北大学大学院障害科学専攻長、同先進統合腎臓科学教授を歴任。2022年より現職。心臓や腎臓などの内部障害のリハビリを専門とする。2011~2021年日本腎臓リハビリテーション学会理事長。2020年より国際腎臓リハビリテーション学会理事長。2008~2022年日本心臓リハビリテーション学会理事(2013年学術集会長)。2018年には腎臓リハビリテーションの功績が認められ、心臓や腎臓の分野に貢献した科学者に贈られる世界的に名誉ある賞「ハンス・セリエメダル」、2022年には「日本腎臓財団功労賞」を受賞。
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(医学博士 上月 正博)

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