欧州連合(EU)は過剰規制の“権化”とも言える存在だ。そのEUが域内企業に新たな規制を設けようとしていると、英フィナンシャルタイムズ紙が5月13日付の記事で報じている。
一社当たりからの調達比率を30~40%程度に抑制することで、単一のサプライヤーに対する依存リスクを減らすことが目的とされる。その念頭にはもちろん、中国の存在がある。この計画を主導しているマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員(通商・経済安保担当)は、中国による希土類元素(レアアース)などの輸出管理を警戒している。
世界のレアアースの供給を一手に担う中国は、その独占力をテコに、各国に対して揺さぶりをかける。例えば2025年4月、中国はサマリウムやイットリウムなど7種のレアアースの輸出管理を強化した。米国が一方的に課してきた“トランプ関税”への対抗策だったが、EUでもこの措置で域内企業の一部の生産が停止する事態となった。
こうした事態を繰り返さないためにも、シェフチョビッチ欧州委員らは域内企業に対して、レアアースに代表される重要な製品に関しては、3社以上のサプライヤーから納入を受けるように義務付けようと画策しているようだ。とはいえ、サプライヤーの分散を域内企業に義務付けることは、企業活動そのものを大いに制約するものである。
中国製品の費用対効果など、各産業・各企業で異なる。それに見合うと考えるなら中国製品を使い続けるし、見合わないとするなら非中国製品を使えばいいだけの話だ。そうしたスイッチングを円滑化させるための規制緩和に取り組むのではなく、予め調達の分散を義務付けるという、真逆の規制強化を志向するのが、いかにもEUである。
■石油危機を乗り越えた日本車メーカーの教訓
レアアースのみならず、一部ハイテク製品に対する中国依存の問題は、以前から各国で議論されている。供給をほぼ独占する中国による輸出管理を警戒しているためだが、この議論で見逃されがちなことは、価格効果を通じた効率の改善だ。つまり品薄となり価格が高騰するほど、無駄を省くことで資源の利用効率が改善することである。
1970年代に生じた二度のオイルショックがその端的な例である。1960年代まで、国際原油価格はバレル当たり2ドル台で安定していたが、1973年の第一次オイルショックで10ドル台を突破、1979年の第二次オイルショックでは30ドル台を超える上昇となった。この原油価格の高騰を活かし体質改善を図ったのが日本企業である。
代表的な例が自動車だ。二度のオイルショックを受けて、日本車のガソリン1リットル当たりの走行距離は飛躍的に改善し、同時に日本車の国際競争力が向上したことは有名な話である。国際原油価格は1980年代中頃に急落し、いわゆる逆オイルショックが生じたが、これは需要家の効率が改善し供給が過剰となったために起きたことだ。
要するに、供給家と需要家の立場は、基本的にはイーブンだ。ただし供給家側発のショックに対して需要家側が対応するまでには時間がかかるため、その間のズレには相応の痛みが需要側に生じる。それを政府が補助金なり減税で支援するならまだしも、予め調達の多様化を義務付けるというEUの政策対応方針は市場経済の原理に反する。
米国や英国に比べると、大陸欧州の経済運営観は管理志向が強いことで知られる。その代表例がフランスだが、同国をはじめとする欧州各国が国際競争力を低下させた主因はその過剰規制志向にあると、内外から批判が寄せられて久しい。EUも規制緩和の必要性を認めるところだが、規制を強化する傾向が修正されることは望みにくい。
■「メイドインEU」に固執するほど地盤沈下
そもそもEUは、中国依存の低下を産業政策の一大目標に掲げていた。いわゆる対中デリスキングだが、それは同時に、実質的なEU製品の生産と消費の奨励を意味している。つまりEUは、古典的な国内(域内)市場保護を目指しているわけだ。今年3月に発表された産業加速化法(IAA)案は、そうしたEUの志向を良く物語っている。
EUはIAAの中で、鉄鋼やアルミニウム、セメントといった基礎的な素材に加えて、風力タービンや電解装置、電気自動車(EV)といった脱炭素関連を戦略分野と定める。そしてこの分野では、モノごとに一定の域内製品の調達比率を定めようとする。また域外からの直接投資(FDI)にも、技術移転や雇用創出の義務を課そうとする。
一連の措置を通じて、EUはGDP(国内総生産)に占める製造業の割合を、現在の16%程度から、2035年までに20%に引き上げることを目標に掲げようとする。要するに“メイドインEU”を目指そうとしているわけだが、その手段も、基本的には規制強化である。
IAAに関しては、ドイツを中心に経済界の批判が根強い。また同国のフリードリヒ・メルツ首相をはじめ、EUの過剰規制に対して批判的なリーダーも数多い。一方、EUを率いるウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は、過剰規制を緩める姿勢を示しつつ、結局は規制強化を通じて物事を成し遂げようとする。これでは話にならない。
過剰規制の結果、コストがかさむのだから、EU製品の国際競争力は自ずと低下する。これでは立ち行かないから規制緩和に踏み切るべきだと内外から批判が寄せられるのに、EUは安全保障の名の下に、結局は規制強化を断行する。それがさらなるコスト高につながり、EU製品の国際競争力の低下をもたらすという負のループである。
■安全保障という名の産業介入
冒頭で述べたサプライヤー多様化の義務付けを通じた中国製品の実質的な排除と、IAAによる域内製品優遇は、実際は裏と表の関係にある。EUは米国や中国を閉鎖的であり自由貿易に反すると批判するが、一方で規制強化を通じてメイドインEUの実現を目指そうとしている。これは大いに矛盾した姿勢だが、EUは意に介さないようだ。
コロナショックとロシアショックを経て、グローバル経済は、いわゆるスタグフレーション(景気停滞と物価高騰の併存)の局面に入っている。
EUは中国が自国企業に手厚い支援を行っており、競争を歪めていると批判するが、そのEUが行おうとしている新たな規制緩和は、域内企業に対する支援ではなく、むしろ介入とも言えるものだ。そうした統制的な性格が強い産業政策が経済の底上げにつながらないことは、それこそ1970年代に欧州が嫌というほど経験した事実である。
それを忘れてしまったかのように、EUは規制強化で、競争力の改善を実現しようとし続けている。過剰規制に対する内外からの批判も、経済安全保障の名の下に、それを退けている。とはいえ、繰り返しとなるが、EUが志向するそれは産業支援というよりも産業介入であり、企業の活力を弱らせる産業統制としての性格を持つものだ。
一連のことは、日本にとっても他山の石となる。日本では規制強化よりも需要刺激に目が向きがちだが、スタグフレーションの時代に必要なことは、規制緩和を通じた企業活動の活性化だ。レアアースの自給自足を目指すことよりも、外部環境の変化に企業がしなやかに対応できるよう、不必要な規制を取り払うことこそが肝要である。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)

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