脳科学者の茂木健一郎先生が子どもの「創造力・芸術センス」を育む方法について教えます。
■2次元の知識を3次元の体験で上書き
 幼稚園に入る時期になると、「差分(ギャップ)」から受ける刺激に変化が見られます。
乳幼児期の「はじめて」という単純な驚きから、「知っていたことと違う」などのより複雑で深い驚きによっても刺激を受けるのです。
 たとえば、図鑑で見た動物や昆虫と実物との違い。スマホやタブレットで見た動画と現実との違い。2次元の知識が3次元の現実で上書きされる体験は大きな刺激です。もっと知りたい、体験したいと脳が〝本気モード〞になるチャンスです。幼稚園に通うようになった子には、ぜひホンモノに触れさせてください。
 集団に入ると、目立ってくるのが個性です。友だちの輪にすぐ入る子もいれば、1人でじっと虫を観察している子もいます。脳科学的にいえば、4~6歳は「コミュニケーション型」「数理オタク型」などにタイプが分かれ、才能が開花しはじめる時期です。個性が強いと「偏り」に見えることもあります。友だちの輪から離れて、何かに没頭する姿を見て不安になるかもしれません。
 しかし、成長のペースも、才能の形も、一人ひとり違って当然。
「うちの子、天才かな」と楽観的に受けとめましょう。
 大切なのは、親がいつも上機嫌でいること。子どもの脳では神経細胞「ミラーニューロン」が親の不安や焦りをすぐさま映し出します。「うちの子は大丈夫」と笑顔でいれば、子どもは安心して個性を発揮できるのです。
■ホンモノが脳を本気にさせる「生演奏・スポーツ観戦」
 コンサートホールで聴く生の音楽は、録音とは別ものです。音が空間を満たし、床が振動する――五感が刺激されると、脳は「ホンモノ」を認識します。立体的な体験が子どもの創造力を高めるのです。 
 スポーツも同じ。スタジアムで見る選手の動きや歓声、芝生の匂いなど、画面からは伝わらない空気感は記憶に深く刻まれます。プロの試合でなくても構いません。高校野球の予選でも、一生懸命プレーする姿は感動を与えてくれるものです。
 ホンモノ体験から「自分もやってみたい」と言い出したらしめたもの。
「まだ早い」と意欲の芽を摘まずにそっと背中を押してください。
 親が一緒に楽しむことも大切です。親が感動している姿から、子どもは「これは特別な体験なんだ」と感じとり、記憶に残る体験へと昇華します。
■多様性との出合い「昆虫観察」
 昆虫ほど、多様性が豊かなものはありません。チョウだけでも数万種あり、色も形も飛び方も違います。「こんなに種類がある」と驚くだけで、子どもの想像力は刺激されます。
 親子で昆虫採集ができなければ、公園でアリの行列を追いかけるだけでも十分。「アリさんはなんでここで曲がったのかな」と一緒に考えたり、目の前を飛ぶチョウが図鑑で見た色と違うと気づいたりするだけで、子どもの脳は動きはじめます。
 昆虫博物館などの標本を見れば、実物の大きさや質感に目を見張るでしょう。子どもが「気持ちわるい」と言っても否定せず、「よく見るときれいな色をしてるね」と別の視点を提示してやってください。
 僕もチョウに夢中になって、小学生で日本鱗翅(りんし)学会に入りました。何に夢中になるかは本人にもわかりません。
親はさまざまな世界への扉を開けてやるしかないのです。
■上手下手ではなく、表現すること自体が大事「お絵描き」
 お絵描きは上手に絵を描くための訓練ではありません。頭にある何かを、外に出す練習です。ぐちゃぐちゃの線でも、おかしな色の組み合わせでも、立派な「表現」です。
 世界的に活躍する建築家の多くは、幼い頃からデッサンやスケッチに親しんでいます。美術の教科書にあるような「正確な絵」ではありません。自分が見たものを思うままに表現する――この訓練が創造力を高めるのです。
 親がやりがちな失敗は「もっとこうしたほうがいいよ」と批評したり手を加えたりすること。そうではなく、「ここはこんな色にしたんだね」と事実を言葉にしてみてください。子どもは自分の選択を肯定されたと感じます。
 必要なのは、上手に描くための指導や高価な画材ではなく、じっくり描く時間と作品を受けとめる親の存在なのです。
■認知の発達を促す遊び「隠しっこ」
 4~6歳の子どもがいると、僕は「隠しっこ」をよくやります。
公園でペットボトルのキャップなどを草の陰やベンチの下に隠し、互いに当てっこするシンプルな遊びですが、脳の認知発達に効果的です。
「このあたりかな」と予想して捜しまわり、「あった!」と見つけた瞬間に子どもの脳内ではドーパミンが放出されます。この達成感が「もう一度やりたい」という意欲を生み、探究心を高めることにもつながります。
 より高度な脳の訓練は、実は隠す側になったとき。すぐ見つかる場所はつまらないし、見つからなければ遊びにならない。ちょうどいい難易度に調整するには知性やセンスが必要です。
 相手がキャップに近づいたら「あ、見つかっちゃう」とヒントを出すなど、親が「相手に合わせた調整」を実演することで、子どもは他者への配慮も学びます。
※本稿は、『プレジデントFamily2026春号』の一部を再編集したものです。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)

脳科学者

1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。
東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎 構成=伊田欣司 撮影=鈴木啓介)
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