東京23区内でもタワマンでもないのに資産価値が上昇しているマンションがある。なぜなのか。
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の研究室による調査・分析で共通点がわかった――。
※本稿は、井崎義治『流山市はなぜ選ばれ続けるのか 共働き子育て世代が移住し、住民の93%が「住み続けたい」まち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■「ここに住みたい」と思うまちの価値
アメリカで暮らしていた12年の間と市長に就任するまでのコンサルタント時代に、仕事で北米を中心に五大陸100都市を訪れました。この経験から、強く実感したことがあります。
それは、世界の多くの人が住みたいと望むまち、つまり住み続けたいと思う人気のまち、住宅地には、共通する条件があるということです。
その1つ目が「緑の多い良質な住環境」でした。
緑があることで景観価値が大きく向上し、環境価値も高める。私はこのことを実際に体験し、それがまちの価値を大きく左右することを理解することができました。
2つ目は、「快適で楽しい都市環境」です。この「快適で楽しい都市環境」というのは、市民が住むまちの中で憩い楽しみ、交流し、市外からも人が集まる賑わい空間もあるまちのことです。この2つの条件について、流山市が行ったことを紹介します。
■緑の多い良質な住環境をつくる
かつての流山市の高台には森が広がっていました。

区画整理が進み、宅地が造成されると同時に緑がどんどん失われていきます。私が流山市に移り住んだときには、すでにTX(つくばエクスプレス)の開通に伴う沿線の区画整理によって、多くの森が伐採される計画になっていました。20世紀末には計画に従い、伐採が始まりました。市長に就任(2004年)してからも、この状況を止めることはできません。
■開発で失う緑を取り戻す
この状況下で何かできることはないかと考えて、取り組み始めたのが「グリーンチェーン(緑の連鎖)認定制度」です。
区画整理事業エリアの森や林を、そのまま残すことはできません。けれども、開発によって失う緑を少しでも取り戻すことは可能だと考えたのです。区画整理地に建物を建設する事業者に対して、建築・建設を行う際に沿道などの接道面に中・高木の植樹を中心とした緑地帯を設け、緑視率と緑被率を高めるようお願いすることにしました。
たとえば、それまでマンションの1階部分に目隠し程度の木々が植えられていたような場所に対し、グリーンチェーン認定を受ける場合は、建物の5~6階まで届くような高木を植えたり、開発面積の一定割合を緑地にしたりするようにお願いする。
■18年間で60万本を超える木を植えた
そうすることで、まちの景観に立体感と質感が生まれます。そして敷地内の植栽について、基準を満たした物件に対しては、「流山市グリーンチェーン認定書」が交付され、物件購入者は市内の金融機関から優遇金利を受けることができる制度です。
もちろん、グリーンチェーン認定制度は、他の条例同様に、行政が民間に強制できるものではありません。
しかし、個々の事業者の判断にすべてを任せてしまえば、まちは方向性のない景観で埋め尽くされてしまいます。
共通の指標に基づいて、それぞれの開発が展開されることによって、まちに緑の連鎖(グリーンチェーン)が生まれ、まちの緑が周辺の森の緑とつながりあう豊かな環境が創造される。そうした都市のグリーンインフラの骨格をつくっていくことが、グリーンチェーン認定制度の狙いです。
この制度が導入される以前は、一戸建て住宅やマンションの開発でも、木が一本も植えられていない事例が少なくありませんでした。それが今では、協力してくださる企業が増え、18年間で官民あわせて60万本を超える木が植えられました。
夏の東京都心では、コンクリートに囲まれた歩道を歩いていると、暑さのあまり息苦しさを感じることもあります。そして気温は年々上昇しています。まちに緑が増えることは、ヒートアイランド現象の抑制にもつながるのです。
■「余計なお金かかる」「維持管理が大変」
とはいえ、当初は市役所の職員や市民から、木々を植樹することに、「なぜ緑を増やすのか」「余計なお金がかかる」「維持管理が大変」といった反対の声もありました。
そこで、まずは職員たちに、緑を取り入れた都市開発の実例を実際に見てもらうことから始めました。
たとえば、緑視率の高い景観を特徴とするマンションを建設しているデベロッパー、大阪市のリバー産業の開発事例を視察し、緑が生い茂り、夏は涼しさを感じる緑陰空間を体感してもらいました。
緑豊かな景観がどれだけ人の暮らしを癒やしてくれるか。
緑を取り入れることでまちの価値は上がる。実際に見て感じてもらうことで、職員たちにもその意義が伝わっていきました。
■実際に資産価値が向上した
「グリーンチェーン認定制度」は2006年から本格的に始動しました。制度開始から最初の5年間は、普及のためにお願いにまわるところから始めましたが、今では多くの事業者が自主的にこの認定を取得してくださるようになり、市内のあちこちで緑豊かな景観が広がっています。
建物は年月とともに劣化していきますが、木々は時を重ねることで緑量が大きく成長していきます。現在では、グリーンチェーン認定制度を取得した戸建・集合住宅は1万戸を超え、流山の景観と環境価値を高めています。さらに、グリーンチェーン認定を取得した住宅地やマンションは、資産価値が上がる傾向にあることも分かりました。
2015年(平成27年)、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻浅見研究室が行った調査・分析では、流山市内の中古分譲マンションにおいて、グリーンチェーン認定を受けた物件は、そうでない物件に比べて、一戸あたり約494万円も高く取引されているという結果が出ました。
一方、グリーンチェーン認定に必要な整備費用は、一戸あたり約39万円。大きな投資効果が認められました。これらの数字は、グリーンチェーン認定制度が景観価値や環境価値を高めるだけでなく、確実に資産価値にも貢献していることを示しています。

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井崎 義治(いざき・よしはる)

千葉県流山市長

1954年東京都杉並区生まれ。
立正大学地理学科卒、サンフランシスコ州立大学大学院修士課程修了(地理学専攻)。米国で地域計画、交通計画、環境アセスメントコンサルティングに従事。89年に帰国後、流山市民に。都市計画コンサルタントを経て、2003年から流山市長。現在6期目。全国市長会副会長、千葉県市長会長、健康都市連合日本支部支部長などを歴任。著書に、『ニッポンが流山になる日』(2010年・ぎょうせい)、『これから発展する街、衰退する街』(1998年・朝日ソノラマ)、『ラスベガスの挑戦』(1997年・朝日ソノラマ)、『大都市問題改善に向けた5つの挑戦』(1995年・ぎょうせい)、『東京白書 東京に住むということ』(1995年・第一書林)、『快適都市の創造』(1991年・ぎょうせい)。

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(千葉県流山市長 井崎 義治)
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