明治安田百年構想リーグも最終盤。東西に分けてのリーグ戦が終了し、順位チーム同士のプレーオフラウンドに突入している。
W杯開幕が近づく中、5月30日にはJ1で首位通過したヴィッセル神戸と鹿島アントラーズがノエビアスタジアム神戸で激突した。
対照的な東西両雄
神戸はGKが権田修一、DFは左からジエゴ、カエターノ、トゥーレル、酒井高徳の4バック。中盤はアンカーに鍬先祐弥、インサイドハーフに井手口陽介、郷家友太、前線はウイングが左が永戸勝也で右が武藤嘉紀が配され、トップに大迫勇也だ。神戸在籍が6年目となり、キャリアでも最長となっている大迫だが、鹿島はプロ入りからドイツ移籍までを過ごした古巣。この日も、選手紹介の際に鹿島サポーターからブーイングを受ける。
対する鹿島は、GKがW杯日本代表に選ばれた早川友基に代わって梶川裕嗣、DFは左から安西幸輝、関川郁万、植田直通、濃野公人の4バック。中盤は三竿健斗、柴崎岳、荒木遼太郎、チャヴリッチ。FWがレオ・セアラ、鈴木優磨だ。
「首位決戦」といっても、そこに至るまでの過程はやや異なる両者。
福岡から静岡までの混戦を勝ち抜いたWEST王者ヴィッセル神戸(11勝7敗)と、関東圏に密集した中で圧倒的な強さを見せたEAST王者鹿島アントラーズ(15勝3敗)。東西含めた成績順にすれば、首位である鹿島に対し、神戸は4位にとどまる。さらに神戸は、ACLElite準決勝でアル・アハリに敗れて以降、2勝1敗1PK勝ち2PK負けと失速気味に対し、鹿島は2つのPK勝ちを含めて5連勝でフィニッシュ。これだけ見ると、“勢い”に少々違いがあるように受け取れる。
一方で2023年・24年のJリーグ王者と2025年Jリーグ王者による激突でもあり、妥当な面子が勝ち上がってきたと言える。まさに頂上決戦、例えるなら、野球の日本シリーズか。それを示すかのように、キックオフ後は一進一退の攻防を見せる。
しかしここでいきなりのアクシデント。鈴木優磨との交錯で倒れたトゥーレルがそのまま負傷交代。ンドカ・ボニフェイスとの交代を余儀なくされる。いきなり守備の大黒柱を失った状態で、神戸は戦いを余儀なくされる。
均衡を破った半端ない一撃
間隙を突いて攻勢に出る鹿島だが、ヴィッセルも冷静に対処し、前半15分にはボールを奪ったジエゴがそのままドリブルしクロス、中にいた井手口がこぼれ球をボレーシュートを放つがこれはキーパー正面。20分には右サイドからの大迫のクロスから鍬先がミドルシュート。流れを押し返す。
そして迎えた前半28分。ゴール手前左側でFKを獲得。絶好の位置のキッカーは大迫。
声援に後押しされ、選手たちも激しい寄せを見せる。一方の鹿島は時折柴崎からの好配球があるものの、今シーズンのストロングポイントである、後方からのビルドアップが早川不在で機能せず、失点してからは全体の重心がより低くなっていく。
前半終了間際には、やや離れた位置から鍬先がミドルシュート。これはGKの手をかすめてCKとなり、鹿島荒木がカットしカウンターに転じようとしたところで、酒井がすかさずスライディングでタクティカルファウルを犯しイエローカードを受ける。しかし攻勢は緩まず、アディショナルタイム4分過ぎには井手口もミドルを放ち枠をとらえるも、梶川が間一髪でファインセーブ。この日の神戸は、やや遠めからの位置でも積極的にシュートで終えることを意識しているようだ。
後半も半端ない!
エンドを変えて後半開始。鹿島は荒木遼太郎に変えて松村優太を投入する。反転攻勢をかけようとするが、神戸の勢いは止まらない。
50分、武藤からの素早いスローインに、抜け出していた大迫がそのままシュート。ボールパーソンの素早い“リスタート”で、ムトサコのコンビネーションアタックにより、この日二度目の半端ない一撃が炸裂する。
それでも負けじと、53分に柴崎からのロングパスに抜け出した鈴木がシュート。これは権田が好セーブを見せるも、右から持ち出したレオセアラが左足でさらにシュート。さらに56分にも安西のクロスを受けたチャヴリッチ、こぼれ球に濃野がシュートを放つなど
、鹿島が攻勢に転じる。
しかしいずれも、神戸守備陣が冷静にブロック。61分には鈴木優磨からの倒れながらのパスにレオ・セアラが抜け出しそうなところを、カエターノがスライディングでカット。エリア外に逃れたのを見た瞬間に思わず拳を突き上げる。プレーオフラウンドは、ホーム&アウェイで行われるため、2試合合計ゴール数で勝敗が決まるため、不用意な失点は避けたい。
65分、鹿島はチャヴリッチに代えて師岡柊生、柴崎岳に代わって知念慶を投入。67分、コーナーキックとペナルティエリアの中間地点で鹿島鈴木がFKを獲得するがここも不発。この日の鹿島は前線の迫力は申し分ないものの、そこに到達するまでの配球に苦戦している。
徐々に焦りを見せる鹿島に対し、神戸は69分、右サイドから丁寧につなぎ、井手口からのパスに左サイドをオーバーラップしていたジエゴが豪快に左足を振りぬく。
大きなリードを手にした神戸は74分、郷家友太に代わってジェアン・パトリッキ、永戸勝也に代わって今シーズン飛躍した日高光輝を投入。それぞれ自身のスタミナを、残り時間全てに費やすかごとく、ピッチを疾走する。鹿島も同じタイミングで安西幸輝に代わって小池龍太がピッチに。83分には、武藤嘉紀に代わって小松蓮、酒井高徳に代わって広瀬陸斗が投入。鹿島も鈴木優磨に代わって林晴己が入る。
85分には、ペナルティエリア内で鹿島三竿がハンドを犯したとしてPKの判定。微妙な角度だったが、VARの結果覆らず。時折リフティングをしながら判定を待っていた小松がキッカーをつとめ、ゴール左上に決めて4-0。戦前では想定しなかったワンサイドゲームに。
アディショナルタイム早々には、クリアボールを奪った大迫勇也がシュートを放つも、ボールはクロスバーを直撃。惜しくもハットトリックを逃す…かと思いきや、4分にパトリッキが左サイドを突破してのクロスボールに倒れこみながらヘディング。
戦前鹿島有利と思われた試合は、“夢のスコア”にて神戸が圧勝する結果となった。
難しいゲームになってしまった
試合後は監督会見。ファイナルセレモニー開催の関係で、まず鹿島・鬼木達監督から。
報道陣の質問に対し、「難しいゲームになってしまった」と語った指揮官。チームとして今まで蓄積した部分を、全て神戸側に上回られた結果のスコアといい、「雰囲気にのまれてしまった」と振り返る。
リーグ戦の総失点がわずか「9」だった鹿島は、この試合無得点かつ3失点以上。いずれも今シーズン初という結果には、攻撃については前進や、相手を剥がしてのアプローチがうまくいかなかったという。失点に関しては、ミスを繰り返した結果という。“初”ということもあってか、最後は集中力を切らしてしまったと指摘する。
位置づけとしては“決勝戦”ともいえる試合だったが、「この一戦にかける意気込みが自分も含めて足りなかった」と語りながらも、ホーム・メルカリスタジアムでの第2戦は、「最後まで諦めることなく戦おう」と、選手にも声をかけたという。
選手側もショックが大きかったようで、三失点目以降は「混乱してしまった」と語り、「自分たちのやりたいことができなかった」と柴崎岳は神妙な面持ちで語る。
This is Vissel
対する神戸のミヒャエル・スキッベ監督は、「『これがヴィッセル』というのを見せられた」と満足気に振り返るも、「これで気を緩めてほしくない」と早くも次戦に目を向けた。
試合前には、「このサッカーをしていたら未来がない」と語り物議をかもしていた中で、有言実行を果たした大迫。文句なしのMVPにも、「最善を尽くせば勝てる」「手ごたえを感じられる試合を、毎回していきたい」とあくまでも冷静に振り返り、難しい体勢で決めた3ゴール目も、「合わせるだけ」と語る。
4点目となるPKのキッカーを務めた小松は、「少ない時間でも数字を残せてよかった」と“結果”を残せたことに満足しつつも、ハットトリックを譲ってもらう形となった大迫が、その後一度はゴールポストにきらわれながらも、最終的に「達成」したことに対して、ただただ驚嘆するだけだったという。なおウイングでの出場は人生初だそう。
大迫と並ぶチームの主軸である武藤や酒井も、「やりたいことのすり合わせ」が結果に繋がったと満足気に振り返り、2点目のアシストを決めた武藤は、素早い対応で殊勲のボールパーソンに対し、「12番目の選手」と大絶賛。
トゥーレルの負傷退場で、難しいかじ取りを迫られた守備陣だが、代わって入ったンドカは、「最後美味しいところを持っていけた」と、チーム全体でとりわけ高いモチベーションをもって臨んだことがうかがえた。3点目を決め攻守にわたる活躍を見せたジエゴも、「自分たちに有利な展開だからこそ、DFラインを引き締めた」と語り、4バックに戻し効果的なラインアップも見せ、交代メンバーも含め、選手それぞれがひとりひとりの役割に徹したことが一番の勝因といえよう。
変則だろうと大会は大会
秋春制でのJリーグを迎えるにあたり、空白の半年を埋めることを目的としたのが百年構想リーグ。W杯を控え、ACLは例年通りのレギュレーションという難しい状況ではあったが、「変則だろうと大会は大会」と言い切ったのは酒井高徳。
この日負傷したトゥーレルの他にも、キャプテン山川哲史、扇原貴宏、佐々木大樹など、相次ぐ負傷者に悩まされてきた今シーズンの神戸。名古屋戦ではトゥーレルと前川黛也が“衝突”し、救急車で搬送するなどもしている。
それでもクラブスローガンである「一致団結」を合言葉に、様々な選手が台頭し、満田誠が途中加入するなど、この半年間で選手層の厚みを見せることとなった。
アウェイ・ガンバ大阪戦では、この日と同じ0-5で敗戦を喫するなど、道中決して平たんな道のりだったわけではない。先述の話し合いもあり、監督選手双方に思うところはあっただろう。そうしたチームビルディングの甲斐もあり、大一番で結実した。
もっとも、ホームで第2戦を控えている鹿島も、これで終わるとは到底考えられない。死力を尽くして向かってくる常勝軍団との最終決戦が、今から待ち遠しい。
(取材・執筆:向山純平)

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