INORAN TOUR 2019「COWBOY PUNI-SHIT」、8月31日の石川県・金沢AZ公演の様子をライターのジョー横溝がお届けする。

東京から新幹線で3時間。
金沢駅に到着。フェス以外にライブを観るために地方に来ることは、正直あまりない。北陸新幹線が開通したとは言え、2時間ほどのライブを観るために片道3時間以上の時間とそれなりの交通費をかけて行くのは、瞬時に閲覧無料が当たり前のネット時代の今、非効率としか言いようがない。それでも、行きの新幹線から、学生の頃の遠足や修学旅行のようにワクワクしている自分もいた。

16時少し過ぎ、金沢駅からタクシーで10分ほどで会場の「金沢AZ」に着く。会場のスタッフの方に名前を告げると、楽屋に案内してくれた。
正直、開演前の楽屋にお邪魔するのは気を遣う。本番前のアーティストは、極端にナーバスになっていたり、集中するために話しかけられるのを嫌がる人もいる。そんな風に開演前の楽屋は独特の緊張感に満ちている場合がほとんどだからだ。

しかも今回のツアーは、毎年の過密スケジュール以上の”超過密スケジュール”を縫っての全国ツアー。8月にリリースしたニューアルバム『2019』をひっさげての全国ツアーなのだが、その『2019』のリリース時のインタビューでINORANは「流石にちょっと疲れているね」と珍しく表情を曇らせた。それもそのはずで、今年はLUNA SEAが結成30周年で、大きな記念ライブの他にもシングルのリリースが続いたし、12月には待望のニューアルバムのリリースが決まっている。
そんなハードスケジュールの中で、ソロアルバムを制作・リリースし、そしてこの全国ツアーが始まった。”超過密スケジュール”と先ほど書いた理由がわかっていただけると思う。

そうしたスケジュール下での全国ツアー。開演前の楽屋がピリピリしていても何の不思議もない。だが、ノックをして楽屋の扉を開けた瞬間に、思わず笑顔になった。ニルヴァーナが爆音で流れ、INORANもメンバーもご機嫌に歌っている。
そして、テーブルにはテキーラのボトルにショットグラス。大学の部室、否、海外バンドの楽屋という感じだ。

入室に気が付くと、INORANがハグで出迎えてくれた。そして、早速楽屋にいた全員でテキーラのショットの乾杯。まるで、海外アーティストのドキュメンタリー映画のようだ。聴けば、ツアーでは当たり前の光景だそうだ。
INORANに飲んでも演奏は大丈夫?と聞くと「テキーラなら全然大丈夫!」と余裕の表情。過密スケジュールの疲れなど全く感じさせない。

とはいえ、ノンストップのスケジュールは続いているはずだ。「スケジュール? もちろん忙しくはしているよ。でも、今日は大好きなみんなと一緒にロック出来るライブだよ。こんなに幸せな時間はないからね。
楽しみたいし、楽しませたいんだ。もちろん、楽しんでいってね!」と嘘のない笑顔で話してくれた。

楽屋では、変わらずニルヴァーナが流れ、INORANもメンバーもリラックスしながら時を過ごしている。本番30分ほど前になった時、INORANが語りかけてきた。「そうだ! せっかく東京から来たんだから、前説やってくださいよ。前説で盛り上げてください!」と。
えっ!?と驚いていると、INORANはメンバーとスタッフに「急遽ですが、僕らがステージに登場する前にMCが出て前説しまーす。よろしくお願いしまーす。今日のライブの出来はMC次第だなぁ」とおどけながら話し、本番に向けて全員のテンションを上げていった。

いろんなものを巻き込むINORANのライブ空間

ふと、アルバム『2019』でのインタビューを思い出した。このアルバムの曲にはレコード会社のスタッフがコーラスで参加している曲が何曲かある。そうした発想に対して「そのほうがこのアルバムに愛着が湧くと思うんですよ。皆に自分のものって思ってほしいし、自分と思ってほしい。それが理想だと思うんですよね。だからみんなに参加してほしい」とINORANは語っていた。ライブも同じなんだと思う。そこにいる全員が自分のライブだと思い、全力で楽しむ。その時初めて二度と訪れない奇跡のような瞬間が訪れる。スタッフも関係者も巻き込んで、否、参加させて、この日のライブも始まりの時を迎えようとしていた。

定刻少し過ぎ。メンバーとINORANが円陣を組み、気合を入れる。メンバーの登場前に、筆者と東京から旅を共にしたラジオDJのDAVE FROMM氏と二人でMCとしてステージに上がり前説をさせてもらった。前説の締めはDAVE氏のツアータイトルのコール。DAVE氏の「INORAN TOUR 2019 COWBOY PUNI-SHIT !!」のコールでメンバーがステージに登場した。

ライブはニューアルバムの1曲でもある「Gonna bteak it」からスタート。ハードな演奏にオーディエンスも身体を揺らし、ライブハウスも揺れた。続いて「COWBOY PUNI-SHIT」「Youll see」とアルバムの曲順通りに最初の3曲を演奏し、ニューアルバムをひっさげてのツアーを堪能するINORAN、メンバー、そしてオーディエンス。

3曲目の演奏後にMCを挟み、金沢に来ることができたことへの感謝を告げ、4曲目に突入。このパートでは過去の曲も披露し、会場に一体感を生んだ。そして、M7の「One Big Blue」の後、長いMCを挟んだ。最近観たという映画の話をするINORAN。詳細は割愛するが、その映画を観て、INORANはこう感じたそうだ。”今が全霊だ”と。「大切なのは今。過去じゃない。右でも左でもない。上でも下でもない。今。今を楽しもう。今を大切にしよう。そして、後ろではなく前を見て行きよう」とMCを締め、INORANソロの名曲「Beautiful Now」を演奏し、音でメッセージを届けた。

INORANライブレポ「今が全霊」を見せつけたステージ

Photo by ヤマダマサヒロ

INORANライブレポ「今が全霊」を見せつけたステージ

Photo by ヤマダマサヒロ

その後はニューアルバムからミドルテンポで少し切ないナンバー「Dont you worry」を演奏。更にアコギを持ちニューアルバムに収録されているアコースティックナンバー「Starlight」を披露し、オーディエンスの心を掴んだ。

セッションタイムを挟み怒涛の後半戦へ

が、その後に急展開が待っていた。ドラムのRyo Yamagata、ギターの村田有希生、ベースのu:zoによる怒涛のセッションタイム。オルタナロックを敬愛する3人によるとてつもない激しいセッションは、見ごたえ充分だった。特に最年長の村田の狂ったギタープレイは圧巻だった。そんなメンバーによるセッションタイムを挟みライブは後半戦へ。

INORANライブレポ「今が全霊」を見せつけたステージ

Photo by ヤマダマサヒロ

INORANライブレポ「今が全霊」を見せつけたステージ

Photo by ヤマダマサヒロ

INORANライブレポ「今が全霊」を見せつけたステージ

Photo by ヤマダマサヒロ

後半戦はハードな新旧の曲を織り交ぜての展開で、オーディエンスは汗だくになりながら踊り叫び狂っている。INORANも演奏を、ライブ全体を全身全霊で楽しんでいる。確かにこれがライブだ。今を楽しむこと。この日のMCの言葉を借りれば”今が全霊だ”。

ライブの最後、19曲目に演奏されたのは、ニューアルバムに収録された7分超えの壮大なバラッド「Long Time Comin」。INORANもメンバーも汗をぬぐいながらこのバラッドを演奏し、オーディエンスに届けている。オーディエンスも全員汗をぬぐいながらサビの”long time”を合唱している。それは、まるで映画のエンディングロールを観ているような演奏だったし、景色だった。

この日のライブはまるで映画のようだった。激しい曲で煽ったかと思えば、バラッドで会場を包みこむ……ジェットコースターのような展開も映画みたいだ。ただ、映画は何度でも観られる。だが、ライブは一度だけの生ものだ。そう、”今が全霊だ”。ツアーはまだ続いている。是非、今しかない時を体験してみて欲しい。

「B-DAY LIVE CODE929/2019」
9月29日(日)TSUTAYA O-EAST SOLD OUT!!
[OPEN/START] 17:15/18:00
http://inoran.org/