お笑いコンビ「ティモンディ」の高岸宏行(33)は、自分なりの方法で誰かの背中を押し続けている。本業の芸人活動の他に、独立リーグ・栃木ゴールデンブレーブスの選手として5年目のシーズンに突入。

一度、大学時代にプロ野球選手の道を諦めたものの、自身の活躍で「少しでも誰かに勇気を与えられるのではないか」との思いから挑戦を続けている。「やればできる」を体現し続けているそのモチベーションなどに迫った。(古本 楓)

 188センチ、94キロ。鍛え抜かれた大きな体でも、威圧感を全く感じない。むしろ、テレビで見せる柔らかな雰囲気をまとい取材現場に現れた。「自分にまっすぐな人」。記者のイメージ通り、一つ一つの質問にも自分の気持ちにうそ偽りないと思える答えをくれた。

 2022年、トライアウトを経て、芸人としては異例となる球界入りを果たした。きっかけはYouTubeの企画。高岸の剛腕が関係者の目に留まったことが、再挑戦への一歩となった。「戦力になるかもしれないというふうに見てくださっていたみたいで、トライアウトを受けてみませんかと提案してくださった」

 多忙なため、週に1、2回程度しかチームの練習に参加できていない。それでも、毎朝の練習は欠かさない。

「大谷(翔平)選手が使っているプライオボール(投球動作の改善や球速アップを目指すトレーニング用品)やウェートトレーニング、ジャンプ系のトレーニングで瞬発力をキープして、いつでも投げられる状態にしています」とルーチンを明かした。

 5年目のシーズンに突入したが「いつか150キロをお客さんの目の前で必ず達成したい。不可能な数字ではないと思う」と力強く現在の目標を掲げる。

 挫折経験が今の高岸を形成している。小学3年生で始めた野球の技術はみるみる成長。済美高校時代は最速145キロをマークした。高校3年時の甲子園出場は逃すも、才能を見抜いた阪神とヤクルトからはドラフトでの指名の話が来ていたが、「親に契約金で恩返ししたい」との思いからドラフト1位でのプロ野球選手を目指し、東洋大学に進学した。

 だが、大学野球のレベルの高さに気持ちがはやった。「150キロを投げるピッチャーが7人いて、とんでもないところに入ってきたと思った」。自分を追い込み続けた結果、大学1年の夏にイップス(投球障害)に。そして、3年の時に肘を壊してしまい、夢を断念することとなった。「結構いけると思っていたけど、井の中の蛙(かわず)だった。

その経験があるから今があるけど、当時の自分にはもっと野球を楽しんでもいいんじゃない、って声をかけたくなる」と珍しく声のトーンが下がった。野球をやめてから約3年は野球を見ないように生活していたという。

 故障時の裏方作業の経験から「誰かを応援したい」との思いで仕事を探すなか、東日本大震災後に先輩コンビ・サンドウィッチマンが東北を盛り上げる姿に胸打たれた。「人に勇気を与えたり、鼓舞できる職業があるんだって思った」と高校の同級生・前田裕太(33)を誘い、ティモンディを結成した。

 事務所所属後、サンドウィッチマンの2人から済美高校出身に興味を持ってもらい、草野球チームに勧誘された。久しぶりにマウンドに立つと、以前ほどの肘の痛みがなくなり、イップスも軽減していた。「プレッシャーが自分にかからないようになっていた。『もしかして、もう一回野球を一生懸命やっていたら、何かしらの形で人に元気を与えることができるかもしれない』」と思うようになり、16年からトレーニングを再開した。

 一度挫折を経験した中での球界再挑戦。苦い思いをしたにもかかわらず、本気で野球と向き合うことができたのはなぜか。「30歳になる年で独立リーグという形かもしれないけど、プロ野球選手になれたとしたら少しでも勇気を与えるんじゃないかなって思った。僕が逆側(視聴者)だったら、(元気を)もらえるなって確信できたので」と迷わず飛び込んだ。

話題集めなどと揶揄(やゆ)される可能性もあったが、「マイナスな面を見て動けなくなるよりは、元気を与えられる人がいるって信じてやることに僕は意味があると思っている」と信念を貫いた。

 持ちギャグでもある「やればできる」を体現してきたが、この言葉には高岸なりのメッセージもある。「僕の中では、『やれば成長できる』っていう意味を込めて使わせてもらっている。『成功、失敗はあるけど、チャレンジして成長ができる』っていうことが僕のテーマ。どれだけ打たれても、一生懸命にチームに勝利をもたらそうと思って投げることに意味があるのかな、と思ってチャレンジしています」。挑戦する大切さを身をもって示してきた。

 異例の挑戦は、確実に多くの人の心を動かしている。「『元気になれたよ』とか『また栃木に投げに来てね』『この間テレビ見たけどなんか元気出たわ』っていう言葉があるから頑張れる」と応援の力の大きさを実感する日々。「僕がいていいのであれば、一生やっていたい。チームからクビですって言われるんだったらしょうがないですけど、需要があるのであればずっとやってたい」と“生涯現役”も目指している。

 常に心の中にあるのは、「誰かを応援したい」という気持ち。「テレビに出ることが専属とも思ってないし、野球をすることが専属とも思ってない。

だから『野球と芸人と俳優の三刀流だ』みたいに言ってくださる方もいるんですけど、僕の中では『応援の一刀流』。場所が違うだけでやってることはみんなを応援しようっていう気持ちでやっています」

 「自身のゴールはないから頑張れている」と語るが、次なる野望はあるのだろうか。「もしかしたら音楽や声優業、本を出すもあるかもしれない。どんどんチャレンジしていないものに挑戦するっていうことが『やればできる』をより僕自身も納得して伝えることができるのかな」。魔法の合言葉を胸に、高岸はまっすぐ突き進み続ける。

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