世界で最も大規模な航空戦訓練のひとつ「レッドフラッグ・アラスカ」が、空自など同盟国も参加して実施されました。何を目的に、どのようなことが行われているのでしょうか。
去る2015年8月6日より米国アラスカ州において、アメリカ空軍の演習「レッドフラッグ・アラスカ」が実施されました。
「レッドフラッグ・アラスカ」は世界で最も大規模な航空戦訓練のひとつとして知られており、アラスカ州のアイルソン空軍基地およびエレメンドルフ・リチャードソン統合基地において行われます。その演習空域はおよそ17万3500平方キロメートル。これは本州の4分の3に匹敵します。
「レッドフラッグ」の名称は、かつて敵国であったソビエト共産党の「赤旗」を意味します。演習の目的は「リアルな航空戦」をシミュレートすることにあり、実弾を射撃しない以外は実戦に限りなく近い状況を想定し、実施されます。
演習には主宰のアメリカ空軍のみならず、海軍や同盟国も参加。自衛隊は今回、7月29日より310名の人員をアラスカに派遣しました。演習は8月21日に終了し、帰国は8月28日の予定です。
空自は「青軍」に参加 「赤軍」と対決航空自衛隊は「青軍」として「レッドフラッグ・アラスカ」に参加。各国と共同で航空作戦を行いました。青軍の戦力は以下の通りです。
●航空自衛隊
F-15「イーグル」戦闘機×6
E-767空中警戒管制機×1
C-130「ハーキュリーズ」輸送機×3
KC-767空中給油機×2、
●アメリカ空軍
F-16「ファイティングファルコン」戦闘機×12
A-10「サンダーボルトII」攻撃機×8
F-22「ラプター」戦闘機×12
E-3「セントリー」空中警戒管制機×2
KC-135空中給油機×6
HH-60救難ヘリコプター×2
C-130輸送機×3
C-17「グローブマスターIII」輸送機×2
●アメリカ海軍
EA-18G「グラウラー」電子戦機×4、
●韓国空軍
KF-16戦闘機×6
●オーストラリア空軍
E-7「ウェッジテイル」空中警戒管制機×1
C-130輸送機×2
●タイ空軍
C-130輸送機×1
●ニュージーランド空軍
C-130輸送機×1
この青軍と交戦する、演習の要となる存在が対抗部隊の「赤軍」です。赤軍はアメリカ空軍「第18アグレッサー(仮想敵)飛行隊」に所属する12機のF-16C/Dがつとめ、ロシア製のスホーイSu-27やミグMiG-29戦闘機の戦術を模擬することによって、現実さながらの空戦を再現します。またその塗装もロシア製戦闘機を模したものとなっています。
アグレッサー飛行隊は非常に優れたパイロットばかりで構成されており、青軍にとっては大変手強い存在です。
「最初の10回」を越えて、生き延びるために「レッドフラッグ・アラスカ」では空中戦に限らず、「撃墜」されたパイロットの捜索救難作戦も実施され、地上の整備員たちにも実戦と同じ環境で航空機を稼動状態に保つ任務が課せられます。特に今回は過去最多の600名にも達する空挺降下作戦が実施され、航空自衛隊のC-130輸送機にも各国混成の空挺隊員らが搭乗し、降下を行いました。
古今東西の航空戦において、戦死したパイロットのほとんどは初陣から10回目の出撃を迎えることなく撃墜されました。そして10回の出撃を生き延びた者はその後、格段に死亡率が下がることが統計上明らかになっています。その「最も危険な最初の10回の出撃」を実戦ではなく、限りなく実戦に近い演習でパイロットに体験させるという目的も、この「レッドフラッグ・アラスカ」にはあります。
なお航空自衛隊のF-15Jは、千歳基地(北海道)に駐留する第203飛行隊が派遣されました。しかしこれにはカラクリがあって、本来、第203飛行隊に配備されているF-15Jは全機「F-15SJ」と呼ばれる古いタイプの機体です。しかし今回は、より新しい電子機器を搭載する「F-15MJ」をほかの飛行隊から選り抜き、臨時に第203飛行隊の機体として派遣しています。
F-15SJとF-15MJは「ほとんど別の戦闘機」と言って良いほど性能に開きがあり、有効な作戦を実施するにはF-15MJが必須だったのではないかと推測されます。
また、航空自衛隊の「レッドフラッグ・アラスカ」への参加は今回が初めてではなく、昨今の安保法制を巡る審議とは一切関係がありません。