開幕から1カ月が過ぎた。今季も投打"二刀流"としてプレーしている大谷翔平ドジャース)だが、打者・大谷のバットからは、昨季のような豪快なアーチがやや影を潜めている。

それどころか、5試合連続無安打、24打席連続無安打など、"らしくない"バッティングが続いている。いったい、大谷に何が起きているのか。かつて名コーチとして多くの強打者を育てた伊勢孝夫氏が、大谷の現在の状態を鋭く読み解く。
※成績は現地時間5月4日現在

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【ホームランが出ない理由】

── 開幕から1カ月が経ちました。今年の大谷選手について、当初は連続出塁記録(53試合)などが注目されていましたが、打撃そのものの変化や、昨年との違いについてはどのように見ていますか。

伊勢 やはり、ホームランがまだ少ない(6本)点が気になります。開幕直後は連発することもありましたが、現在は止まっています。その要因としては、スライダーやシンカーといった変化球には対応できているものの、ストレート系の球に対してはファウルになるケースがほとんどです。

── ファウルになるのは、どういった理由からなのでしょうか。

伊勢 見ている限りでは、ボール1個分ほど差し込まれている印象です。昨年と比べて、始動がやや遅れているように感じますね。彼はほぼノーステップで、右足のヒール(かかと)が上がってからスイングに入りますが、そのヒールが下りた時には、すでにボールが来てしまっている。結果として詰まったファウルが増え、ホームランを量産できていない。

これが昨年との違いです。

── 4月27日のカブス戦、翌28日のマーリンズ戦は、2試合連続3安打を放ちましたが、ホームランは出ていません。

伊勢 そこから3試合ノーヒットと、再び停滞しています。4月30日のマーリンズ戦では、速球派のサンディ・アルカンタラに対して、タイミングが遅れていました。

── 6号は4月26日のカブス戦で、左腕のボビー・ミルナー投手[俊寺1]が投じたインコースの球をレフトスタンドへ運んだ一打でした。その際、大谷選手が「構えがピタッとはまってきている」と話していましたが、それは伊勢さんの指摘する"始動"とつながるのでしょうか。

伊勢 おそらく構えの部分、つまり最初の形でしょうね。バットの高さや位置、投手を見る際の頭の角度です。足元については、バットで測りながら軸足の位置をしっかり定めています。ここがうまくいくと、ボールの見え方が変わってきますし、スイングの軌道もよくなる。ただ、今の大谷は左投手が投げる真ん中から外のスライダーに対応しきれていません。さらに、右投手のインサイドの速い球に対しても、当たって前に飛んでも詰まるケースが多いですね。

【厳しいインコース攻めに苦戦】

── 内角攻めと外角の変化球を徹底されることで、フォームを崩されているということでしょうか。

伊勢 どちらに絞るかが難しくなっているのでしょうね。カウントの早い段階で、インサイドにカットボールや速い球を見せられますから。そこで詰まらされると、外のストレート系の球やシュート、シンカー系の球に対して、腰が引けたスイングになってしまう。

── 相手投手の攻め方が、今年はより正確で、かつ徹底していると。

伊勢 そうですね。開幕前からインサイド攻めへの対応がポイントと言われていましたが、日本よりもストライクを取られにくい際どいコース、つまり審判がボールと判定しやすい低めのインコースにも投げ込んできます。

── 厳密に言うと、フォームに「狂いが生じている」のかフォームを「崩されている」のか、どちらなのでしょうか。

伊勢 崩されているのだと思います。日米を問わず、早いカウントで速いインコースを見せておくのは、左のスラッガーに対する攻めの鉄則ですが、メジャーでは155キロ前後の速球を投げる投手がほとんどです。大谷といえども、インコースに速くて強いボールを投げ込まれると、対応は容易ではありません。

── 今年、大谷選手はバットの長さを変えた(1.3センチほど短くなった)という話を聞きましたが、その点についてはいかがですか?

伊勢 変えたというより、使い分けている印象です。先をくり抜いているものと、そうでないものの2パターンです。

バットの先端をくり抜くと軽くなる分、ヘッドが出やすくなります。

── バットの使い分けにはどのような意図があるのでしょうか。

伊勢 相手投手の得意球や攻め方によって使い分けていると思います。内角を攻めてくる右投手に対しては、バットの先が出やすい「くり抜き」のあるタイプが有効です。逆に、外角中心にスライダーを多投する左投手に対しては、「くり抜いていない」バットが適しています。

── バットを使い分けることで対応しようとしているのですね。

伊勢 かつてヤクルトに在籍していたジャック・ハウエルも、35インチの長いバットでインサイド攻めに苦しんでいましたが、34インチの短いバットに替えた途端、後半戦で30本塁打を放ってホームラン王を獲得しました。それほど、わずかに短くするだけでも、インサイドはさばきやすくなります。大谷の構えを見ると、34.5インチか35インチほどに見えますが、同じ長さでもくり抜いてあればヘッドが軽くなり、操作性は向上します。

WBCに出場した影響は?】

── バッティングの改善方法はどこにあるのでしょうか。

伊勢 まずは155~156キロのストレートをきちんと弾き返せるようにすること。やはり、"始動"に尽きます。

メジャーの投手はカットボールやツーシームなど、細かく動く球が多いですが、速い球を意識しつつ、そうした変化球にも対応できる形をつくることが重要です。現状は変化球を意識しすぎて、ストレートがファウルになっているようにも見えます。155キロ以上の球をしっかり打ち返せるようになれば、調子は戻ってくるでしょう。

── 現在の「打者・大谷翔平」の調子を10点満点で表すと。

伊勢 今は「6」くらいじゃないですかね。フォームを崩されている面もありますが、二刀流による疲労も影響していると見ています。今季は先発登板時に打席に立たないこともあり、デーブ・ロバーツ監督も投げるほうに専念させるなど、疲労を考慮しているように感じます。31歳という年齢も関係しているかもしれません。

── ピッチャーとしてのコンディションはどう見ていますか。

伊勢 ピッチャーとしては悪くないどころか、すばらしいです。今も161キロくらい出ていますし、ピンチになるとギアを上げる。投球に専念すれば、10勝以上は期待できるでしょう。

ただ、彼の場合は打席に立ってこそ価値がある選手ですから、登板日以外もDHで出場するスタイルは変えないはずです。そのなかで、どれだけ疲労を回復できるかがポイントになります。

 今季の大谷は、相手チームとの戦い以上に、自分自身の体力やコンディションとの戦い、いわばそれを克服していくシーズンになると感じます。調子が上がってくれば、昨年と同じように"リアル二刀流"をこなす姿が見られるでしょう。

── WBCの影響や、今年の成績予測についてはいかがですか。

伊勢 調整の難しさはあったと思いますが、目に見えて大きな影響が出ているという印象はありません。今年はどちらかといえば、打者よりも投手に比重を置いているように感じます。ホームランは50本には届かないかもしれませんが、40本には到達するでしょう。彼は固め打ちができるタイプですからね。ただ現状は打球が上がらず、ゴロのヒットが多いです。これは少し差し込まれている証拠で、本人としては叩いているつもりでも、実際には詰まっているのでしょう。

 もちろん、それは本人が一番理解しているはずですし、打席を重ねるなかで調整しながら結果もついてくると思います。

そう考えると、大谷のすごさは、パワーやスイングスピードだけでなく、「自己調整力」にあるのだと思います。


伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。63年に近鉄に投手として入団し、66年に野手に転向した。現役時代は勝負強い打撃で「伊勢大明神」と呼ばれ、近鉄、ヤクルトで活躍。現役引退後はヤクルトで野村克也監督の下、打撃コーチを務め、92、93、95年と3度の優勝に貢献。その後、近鉄や巨人でもリーグを制覇し優勝請負人の異名をとるなど、半世紀にわたりプロ野球に人生を捧げた伝説の名コーチ。現在はプロ野球解説者として活躍する傍ら、大阪観光大学の特別アドバイザーを務めるなど、指導者としても活躍している

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