日本代表・史上最強の検証(1)

 過去、日本はワールドカップ7大会に出場している。先人たちの苦労は必ず現在の糧になるはずだ。

そこで日本代表が過去に味わった"印象的な敗戦"をあらためて検証する。当時は何が足りなくて、そこに何が加わったのか。北中米ワールドカップを間近に控えた日本代表の戦いのヒントを探しながら......。

 1998年フランスワールドカップ、アルゼンチン戦。

 それはサッカー日本代表にとって、史上初のワールドカップの舞台だった。"ドーハの悲劇"から"ジョホールバルの歓喜"を経て、ようやくつかみ取った出場権。大会代表メンバーは全員がJリーガーの時代だった。記念すべき第一戦は、当時、世界屈指のストライカーだったガブリエル・バティストゥータの技ありゴールにより、0-1とあえなく敗れた。

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 点差が示しているように、試合自体、日本は健闘したと言える。急造3バックながら、相手アタッカーをほとんどマンマークで封じている。バティストゥータには秋田豊、クラウディオ・ロペスには中西永輔、そしてアリエル・オルテガのドリブルには井原正巳が対応。3人とも乾坤一擲の覚悟を持って、殺気立ったマーキングで、ほぼ一方的に攻め込まれながらも、ダメージを最小限に抑えていた。
クラシックなマンマークだからこそ、雪崩を打って大量失点をすることがなかったのかもしれない。

 現代ではゾーンディフェンスが全盛だけに、映像を見返すと無骨で愚直なマンマークは逆に新鮮である。ゾーンディフェンスは、スペースを守り、スペースに入ってくる相手を潰すことが眼目にあり、そこでのトランジションにより攻守を有利に動かす。それぞれの連係は不可欠だが、ゾーンでポジションが取れることで、守りから攻め、攻めから守りでポジション的優位を生むモダンな戦い方だ。

 ただ、昨今はゾーンの意識が強くなりすぎている傾向や弊害も指摘される。自分のゾーンを守るだけで、ゾーンの境目に位置する相手には無頓着になりがちだ。守り自体が淡泊になった側面もある。

【薄かったスペースを守る感覚】

 その点で、当時の3バックもしくは5バックの最終ラインの選手たちには、必死さと強固さがあった。責任の所在がはっきりとしていたこともあるだろうが、やるべきことが単純化されていたことによって、最大限の力をぶつけられていた。要所で体を張る姿勢も模範的だった。現代でも、見習うべきところがある。

 もっとも、それはベストな戦いをしたというわけでもない。

 フランスワールドカップの日本は、マンマークがある程度は功を奏していた。

しかしながら、守備陣は相手のひらめきのあるプレーに対しては、致命的な後れを取るところがあった。象徴的だったのは、決勝点を叩き込まれたシーンだ。

 日本は失点に至る数分前から、相手の動きに応じて人が引き出されることで、MFとバックラインの間のスペースが空くようになっていた。そこにボールを通され、アタッカーが前を向いた場合、すでに失点したに等しい。激しい動きのなか、ずれが起きるのは必定だった。結果、そこに入ったボールへの対応を誤り(名波浩の足に当たったボールがバティストゥータにつながった)、一瞬の隙を突かれることになった。

 人を厳しくマークするだけでなく、スペースを同時に守る感覚も必要だったのである。

 そして、初めてのワールドカップを戦った日本の選手たちは、マンマークで相手に動かされる時間が長すぎた。中西、井原、秋田の3人は効果的なビルドアップをすることができなかった。守ってもクリアで蹴り出すことが多く、常に攻撃に晒されていた。消耗戦には持ち込むことができたが、遅かれ早かれ、失点を覚悟する戦いだったのである。

 これは3バックだけの問題ではない。

 日本は全員が粘り強く戦って、アルゼンチンに好きなようにさせなかったが、自分たちがボールを持って、主体的にプレーする時間が極端に少なかった。相手を嫌がらせるだけでは、失点する可能性は低くなっても、得点する可能性は高くならなかったのである。言い換えれば、善戦するのが精一杯だった。

【技術的、戦術的に上達したディフェンダー】

 当時のアルゼンチンは、ワールドクラスの選手を揃えた前線だけでなく、DFにはロベルト・アジャラ、ハビエル・サネッティ、MFにはファン・セバスティアン・ベロン、ディエゴ・シメオネなどを擁し、とにかく戦い慣れていた。スコア上は接戦だったが、力量には果てしない差があった。彼らは単純にキック&コントロールの技術で優れていたし、勝負どころもわかっていた。

 日本の選手でアルゼンチンに対抗できたのは、中田英寿だけだった。中田だけは激しく寄せられてもボールを収め、思考を実行に移して時間を作ることができたし、受け手がアドバンテージを得る形でパスを出せた。あるいは自ら切り込んで、ゴールに迫ることもできていたが......。

 森保ジャパンの選手たちは、初めてのワールドカップを戦った選手たちとは違う。マンマークとゾーンのバランス感覚もあるし、ボールをつなぐ技術も持っており、欧州で戦いの術も身につけた。「史上最強軍団」と言われる。

 3バックだけを当時と比較しても、たとえば鈴木淳之介はチャンピオンズリーグの舞台にも立つなど、ここ1年で最も頭角を現したディフェンダーと言える。

 鈴木は昨年10月のブラジル戦で左センターバックに入り、堂々と渡り合っている。鋭い出足でボールを奪い取るたび、歓声が上がった。プレッシャーのなか、味方にボールをつける技術もしっかりしていた。また、今年3月のスコットランド戦では、後半、右からのパス交換が左の三笘薫に渡った瞬間、鈴木が一気に内側を駆け上がってパスを受け、左足で折り返したこぼれ球を伊東純也が叩き込んで決勝点が生まれた。

 他にも、谷口彰悟、板倉滉、渡辺剛、冨安健洋、伊藤洋輝、瀬古歩夢などは欧州の有力クラブで経験を重ねており、ユーティリティな力を示している。端的に言って、いずれも"サッカーがうまい"。技術的、戦術的に上達しており、時代が大きく変わった証左だ。

 ただし、28年前のアルゼンチン戦で日本人選手たちが殺気立って挑んだ「1試合を戦いきる」という初心も忘れるべきではないだろう。

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