「『投げる寿司職人』ってところやね」
ベテラン指導者の冨山悦敬(よしたか)コーチが笑う。
昴学園(三重)のエース右腕・石川大介は高卒でのプロ志望を掲げる一方、将来は寿司職人になるかどうか悩んでいる。
【実家は60年以上続く有名寿司店】
今春の三重大会では安定感抜群の投球を披露し、チームの初優勝に貢献。東海大会出場に導いた。一方、実家は三重県四日市市の有名寿司店『尚鮨(なおずし)』を営む。父・典民(のりたみ)さんは2代目として、60年以上も続く暖簾を守っている。
好きな寿司ネタは「赤貝」だという石川は、「幼稚園児の頃から寿司を握る練習をしていました」と振り返る。寿司職人への思いを聞くと、石川はこう答えた。
「初代のおじいちゃんは亡くなる前、『孫にはやらせんでいい』と言っていたそうなんです。飲食店は厳しい世界ですから。でも、寿司は大好きですし、自分の代で終わらせたくない思いもあります。今はめっちゃ迷っています」
石川大介。『ルパン三世』の主要登場人物、石川五ェ門と次元大介を混成させたような名前だが、その読みは「いしかわ・おおすけ」である。石川は「学校で出欠確認される時は100パーセント呼び間違えられてきました」と笑う。
中学時代に所属した三重北ボーイズでは、2番手投手だった。
「(昴学園の校舎がある)大台町は野球しかすることがないので、この環境のほうが集中できると思ったんです」
三重県最大の繁華街である四日市から、大自然に囲まれた大台町へ。都会が恋しくなることはなかったのかと聞くと、石川は意外なことを打ち明けた。
「虫が好きなので、嫌ではなかったです。寮の部屋で飼っているクワガタは、去年に卵から孵(かえ)したんです。カブトムシも幼虫から育てていますよ。寮生活も風呂、食事とずっとみんなと一緒で楽しいです。もう友達というか、家族みたいな感覚ですね」
【昨年夏に優勝候補の三重を完封】
中学野球引退後に運動量が減ったため、体重が88キロと大幅に増えた状態で入寮。体のキレを失い、当時の最高球速は118キロだった。しかし、昴学園での生活で一気に67キロまで減量。そして、2年以降に石川は急成長を遂げる。
「池田先生(泰一朗コーチ)が津西から異動してきて、トレーニングや考え方について教わったんです。
2年夏の三重大会では、東海大会王者の三重高と初戦で対戦。先発した石川は、優勝候補筆頭の名門を相手に5安打完封の番狂わせを演じる。それ以来、石川は県内の注目選手の仲間入りを果たした。
ただし、高卒でのプロ入りとなると、越えなければならないハードルも多い。一番の障壁は「出力」になるだろう。東拓司監督は言う。
「指先の感覚は持っている選手なので、変化球はいいし、コントロールもいいです。あとはスピードがもう少し出たら、もっと評価も高まると思うんやけど」
昨秋の最高球速は141キロ。身長178センチ、体重80キロとビルドアップした今春には、145キロをマークした。それでもプロ注目選手としては物足りない数字である。もっとも、石川のストレートはスピード表示以上の「強さ」を感じさせる。石川は対戦する打者や受ける捕手から「ボールが重い」とよく言われるそうだ。
さらに、変化球の精度にも自信がある。本人は「縦と横のスライダー」と表現するが、「縦のスライダー」は120キロ近い球速で鋭く落ち、パワーカーブのような軌道を見せる。「横のスライダー」はストレートの軌道から小さく横滑りし、カットボールに近い球筋。いずれにしても、高校生では攻略困難な球種を持っている。
また、プロ側のスカウティングも近年は変容しつつある。かつては粗削りでも球速の速い投手が珍重されていたが、今では「球速はトレーニングで後天的に伸ばせる」という考え方が浸透。むしろ「コントロールはあとから身につかない」と持論を語るスカウトもいる。その意味では、石川は時勢に合った人材と言えるかもしれない。
【高卒でプロを目指すワケ】
おそらく、大学進学を打ち出せば引く手あまただったはずだ。それでも高卒でプロ志望を表明するのはなぜか。石川に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「目標は高ければ高いほどいいと思うからです。
スケール感より、実績でアピールするタイプなのは間違いない。そのため、夏の結果が進路に大きな影響を及ぼすはずだ。今夏の三重大会では、昴学園は宇治山田商や津田学園など強豪校がひしめく激戦ブロックに組み込まれた。そんな逆境も石川にとっては、自身の価値を高める材料になる。
「先を見ずに目の前の一戦を戦えるので、むしろ厳しいブロックに入ってよかったです。どんな相手でも、自分のやることをしっかりやるだけ。初戦(7月18日の2回戦・宇治山田商)に勝てたら、みんな勢いに乗れると思います」
両親が営む寿司店には多くの野球ファンが集まり、昴学園の話題で持ちきりだという。公式戦になれば、多くの常連客が石川の応援に足を運ぶそうだ。そんな地元からの声援も、石川の背中を押す原動力になっている。
寿司の世界のプロとして働く両親をどう思うか。そう聞くと、石川は神妙な表情でこう答えた。
「毎日衛生面にめちゃくちゃ気を遣って、朝早くから夜遅くまで働いて疲れていても、一人ひとりのお客さんに笑顔で接している両親には尊敬しかありません。そのうえ、小さい頃から野球の送り迎えや弁当の用意をしてくれて、そのおかげで自分は野球ができています。中学まではそのありがたみをわかっていなかったんですけど、寮生活をするようになって感謝できるようになりました。この夏に恩返しをしていきたいですね」
投げる寿司職人・石川大介。この夏は繊細な指使いから放たれるボールで、三重県の強打者たちを料理するつもりだ。










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