亜細亜大・山里宝インタビュー(後編)

 そして、山里宝(亜細亜大)にはもうひとり、尊敬する指導者がいる。中学時代しのぎを削ったライバル校の監督で、その人物は今や高校球界で知らぬ者はいないほどの有名人になっている。

仙台育英の須江航監督である。

【ドラフト2026】「牽制がくる時は必ず違和感が出る」 亜細...の画像はこちら >>
 山里が松陽中に在籍していた頃、須江監督は仙台育英学園系列の秀光中等教育学校で野球部を指導していた。須江監督と松陽中の井上雄介監督が密接な関係だったため、山里は須江監督の野球を目の当たりにすることが多かった。

「須江先生は、野球への愛がものすごく強いんです。負けた時の苦しみを知っているから、先にケアしたいという思いが伝わってきます。僕も須江先生の隣で、つきっきりで野球をしてみたかったですね」

 中学時点で高度な野球を体得したことで、山里は高校以降も持ち前の「野球IQ」を発揮していく。

【足が遅くても盗塁できる理由】

 なぜ足が速くなくても、盗塁ができるのか。その問いに対する答えに、山里の真髄が詰まっていた。

「まず、キャッチャーが牽制のサインを出していないか見ます。秒数を数えたり、ワンアクションでサインを出したら、牽制だろうなと判断したり。あとはサインを出したあとの構え。キャッチャーによっては、牽制のサインを出したあとに構えない人や、構えるのが遅くなる人もいるんです。いつもはランナーを見るのに、牽制の時はランナーを見ない人もいます。

 あと、普段はロジンを触るのに、牽制を入れる時はロジンを触らないキャッチャーも。逆に、牽制ではなく勝負球のサインを出した時は、『低く』とか『外へ』というジェスチャーを入れるキャッチャーもいます。その時はスタートが切れますよね。まだまだいっぱいあるんですけど」

 こんな生々しい話をしてもいいのか。そう確認すると、山里はあっけらかんと「大丈夫です」と即答した。

「絶対にマネできないですし、ケアもできないですから。クセが出るのは無意識で、それが一番怖いところですよね。だから(対策するのは)無理だと思います」

【わずかな違和感を見逃さない】

 続いて山里は、盗塁時の投手を分析するポイントを語ってくれた。

「ピッチャーは、まず背中越しにくる目線。首振り。肩で始動するか、(右投手の場合)右足が先に動くか、左足が動くのか。頭が先に動くか、グラブ主導なのか。

セットポジションの上体が高いか、低いか。動作からの秒数。そういうパターンがすべて、自分のなかにインプットされています。だから1~2球も見れば、どんなピッチャーなのかわかるし、違和感に気づきます。牽制がくる時って、必ず違和感が出ますから」

 山里が「マネできない」と断言するのは、これだけの要素を情報として持っていても、行動に移すのは極めて難しいからだ。むしろ塁上で頭がパンクし、体が反応できなくなってしまうに違いない。山里が言う「違和感」とは、これまで見てきた膨大なサンプルから抽出された、ほんのわずかな不調和でしかない。

 つまり、山里本人だから察知できることなのだろう。山里は「今まで自分が犯したミスのすべてが、財産になっています」と語る。

 走塁だけでなく、打撃も守備も山里は細部にわたって野球IQを働かせている。話を聞けば聞くほど、山里宝という選手が最高峰のプロの世界でも生き残れるような気がしてくる。ましてやNPBでは交流戦を除けば、対戦相手は同一リーグの5球団に限られる。

山里が重視する情報は、必然的に積み上がりやすくなる。

 山里は「ドラフト順位は何位でもいいので、プロに行きたい」と口にした。

「(プロに)入ってしまったあとのことは、自信があるので。あとは足をもっと速くするとか、能力を伸ばせるかがカギになってくるのかなと。自分のなかでは伸びしろだと思っていますし、足はもっと速くできると思っています」

 プロ野球の世界に足を踏み入れた時、稀代の野球IQの持ち主は、どのような進化を見せるのだろうか。この選手を指名した球団は、文字どおり「宝」を手にするように思えてならない。

菊地高弘●文 text by Takahiro Kikuchi

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