中国で注目を集める「エンターテインメントのグループライブ配信」は現在、業界全体で淘汰が進んでいるが、そんな中、プロの劇団が徐々にその存在感を高めるようになっている。中国の国営芸術団体数十団体は、専門的な水準と規範的な運営に基づいて、アカウントを運営し、舞踊詩劇「只此青緑」や舞踊劇「醒・獅」といった名作をライブ配信することで、舞台芸術をスマホで楽しむ新たなスタイルを生み出している。

これにより急成長する「グループライブ配信」分野に良質なコンテンツという新たな要素が加わるようになった。新華網が伝えた。

では何がきっかけとなってプロの劇団が台頭するようになっているのだろうか?また、プロの劇団がグループライブ配信へ参入するようになって、業界にはどんな変化が起きているのだろうか?

2025年11月のある日、広州歌舞劇院に所属するプロのダンサー何沐さんは、スマホで初めてライブ配信を行った。

そこからさかのぼること3カ月ほど前、何さんは膝蓋骨脱臼に靭帯断裂という大けがに見舞われていた。ダンス歴22年のプロダンサーだったが、踊ることができなくなり、どうしていいか分からず落胆していた。そんな時、劇院が「グループライブ配信」を始め、何さんにも参加要請がきた。ライブ配信の経験はなく、フォロワーとやり取りするテクニックもなかったものの、甘粛省敦煌市にある「莫高窟」に残る壁画の踊りを再現した「敦煌舞」の幾つかのパートを披露したところ、視聴者は想像以上の盛り上がりを見せた。そこで何さんはランダムに流れる音楽に合わせて、即興で踊りを披露するようになり、スポットライトが止まるタイミングに合わせて花びらを空中に舞わせたところ、これまで心の奥に秘めていた創作への思いが余すところなく解き放たれたという。

何さんはかつて「醒・獅」や「英歌」といった一流の舞踊劇で群舞を踊っていたダンサーの一人だった。ステージでは、他のダンサーと息を合わせて動きをそろえなければならないため、個人の個性は埋没してしまう。何さんも主役を演じることを夢見ていた時期があったものの、スポットライトが当たるセンターに立つことは結局できなかった。しかし、ライブ配信では初めて「センター」に立つことができた。

一度はけがで踊れなくなってしまったが、グループライブ配信が再出発のきっかけを与えてくれたという。

何さんのようなエピソードは決して珍しくない。中国全土にある数十団体の歌舞劇院に所属するパフォーマーに目を向けると、何さんのように、ライブ配信を通して、全く新しいスタイルで「ステージ」に立つようになったパフォーマーが増えている。質のばらつきが大きいエンターテインメントのグループライブ配信と異なり、プロのパフォーマーが行うライブ配信は低俗な演出や視聴者の感情をもてあそぶような行為、過剰な投げ銭への誘導などがなく、純粋に舞踊、音楽、舞台芸術を楽しむことができる。

グループライブ配信とは、グループでアカウントを運営し、ライブ配信を行うスタイルを指す。プロの劇団が行うグループライブ配信のスタイルは、スマホを「縮小版ステージ」として、アレンジし直した演劇を披露することで、視聴者は自宅にいながら劇場さながらの演出を楽しむことができる。

グループライブ配信は当初、一部の実際の劇場で公演を行っている団体による小規模な試みに過ぎなかったが、今ではコンテンツの多彩さと商業的な可能性を併せ持つ重要な「競争の場」に成長した。中国演出業界協会によると、2025年におけるグループライブ配信市場の売上高は150億元(約3500億円)を上回り、ライブ配信を行っているアカウントは1日当たり8000アカウント以上に達している。

ショート動画共有アプリ「抖音(中国版TikTok)」のライブ配信院(団)の運営責任者・陶侃(タオ・カン)氏は、「プロの芸術団体がグループライブ配信に参入するようになり、ライブ配信のコンテンツエコシステムのクオリティーを引き上げ、プラットフォームのプロのパフォーマンスの供給が充実された。古典舞踊、中国伝統音楽、オペラ、伝統演劇を含む各種プロの舞台芸術のライブ配信が次々と始まり、グループライブ配信の『競争の場』が、『コンテンツ主導』へとシフトされた」とした。

これまで劇場に行っていた人がオンラインのライブ配信へと流れていくということはないのだろうか?中国演出業界協会の潘燕(パン・イエン)副会長兼秘書長は、「グループライブ配信と伝統的な劇場での上演は相互補完と共生の関係にあり、代替関係にはない。オンラインのグループライブ配信の人気が高まることは、観客が劇場に実際に行く意欲を削ぐどころか、むしろ実際に劇場に行く観客のすそ野を広げることになる。

ライブ配信は名作の演目の『予告動画』のようなもので、これまで劇場に行く機会がなかった人も興味を持つようになり、そのうちのかなり多くの人が実際に劇場に足を運ぶようになるだろう」との見方を示した。

江蘇省歌劇舞劇院の実践はその見方が正しいことを裏付けている。今年のメーデー5連休中、グループライブ配信の人気が追い風となり、実際の劇場での公演のチケットが完売となった。ある観客はフォロワーグループで、購入したチケットの画像をアップし、「『抖音』のライブ配信を通して劇院について知り、劇場に行ってみることにした」と書き込んだ。潘氏は「オンラインと実際の劇場が互いに連動する新たなシーンが作り出されている」と感慨深げに語った。(提供/人民網日本語版・編集/KN)

編集部おすすめ