◆時代の変化受け進化
図版は最小限、文章と表で構成された六百年の歴史と聞くと、無味乾燥な教科書が想像される。ところが、読んでいて、これまで腑(ふ)に落ちなかった伝播(でんぱ)の歴史が明らかになり、実に刺激的で面白い。
十五世紀イタリアで生まれた「前バレエ」は、フィレンツェの大富豪メディチ家出身、十四歳のカトリーヌが、フランス国王フランソワ一世の第二王子アンリ・ド・ヴァロアと結婚したところから新たな展開がはじまる。婚姻と結婚披露がバレエの肥沃(ひよく)な土壌となった。王侯貴族自らが踊る余興としてのダンスから、職業ダンサーが劇場で見せる観賞芸術へ。貴族からブルジョワジーへと支持層が変わり、その好尚がバレエの内実を変えていく。
自立した至高の芸術ではなく、時代の変化を受け止め、流転を経て進化していく経緯を描く、スリリングな読みものだ。バレエが持つ「自己変革の力」を強く信じる著者の愛情が伝わってきた。
【書き手】
長谷部 浩
1956 年生まれ。慶應義塾大学卒。演劇評論家、東京藝術大学名誉教授。 現代演劇から歌舞伎まで幅広く評論活動を展開。著書に『4 秒の革命 東京の演劇1982-1992』(河出書房新社)、『傷ついた性 デヴィッド・ルヴォー演出の技法』(紀伊國屋書店)、『野田秀樹論』(河出書房新社)、『権力と孤独 演出家 蜷川幸雄の時代』(岩波書店)、『天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎』、『菊五郎の色気』(いずれも、文春新書)、『菊之助の礼儀』(新潮社)など。
【初出メディア】
東京新聞 :2023年7月22日/中日新聞:2023年7月23日
【書誌情報】
バレエの世界史-美を追求する舞踊の600年著者:海野 敏
出版社:中央公論新社
装丁:新書(320ページ)
発売日:2023-03-22
ISBN-10:4121027450
ISBN-13:978-4121027450