腕利きのアンソロジストとして活躍中のジョナサン・ストラーンによる、現代スペース・オペラ傑作選。2010~20年代に発表されたなかから、十四篇を選りすぐっている。
たとえば、アーニャ・ジョアンナ・デニーロ「クイーンズスロートへの旅路」では、宇宙規模の背景のもと、排他的保守主義に駆られた狂信者「清浄軍」の横暴と、そこから逃れようとする主人公たちの逃避行を通じて、トランスジェンダー差別が前景化される。
また、セス・ディキンソン「モリガン、光へと落ちる」は、異星人の来襲をきっかけとして、ふたつの主張----異星人への徹底的な交戦を叫ぶ「コロニー同盟」と、多様性を尊ぶ穏健な「太陽系内連邦」----が対立。人類内部の戦争が勃発してしまう。
ラヴィ・ティドハー「背教者たち」は、ユダヤ教の概念や慣習を下敷きにしながら、異端者抹殺のためにある惑星へと派遣された「裁定人」の運命を綴る。
いずれも、素朴な現実逃避だったかつてのスペース・オペラとは正反対の、現実世界の複雑な問題を鋭く反映した作品といえる。
ただし、本書に収録されているのは深刻な物語ばかりではない。
チャーリー・ジェーン・アンダーズ「時空の一時的困惑」は、コミカル・タッチの一篇。戯画的なカルト集団に潜入し、依頼主から言われたブツを盗みだしたカンゴとシャロンの二人組。ホッとしたのもつかの間、別なトラブルが降りかかり......。テンポの良いアクション、軽妙なキャラクター、稚気溢れるSFガジェット、どれも楽しい。
アレステア・レナルズ「ベラドンナの夜」では、宇宙に進出した人類は各惑星・恒星系での定着文明のほか、銀河を周回しながら知識と経験を積み重ねる、いくつかの系統種族に分かれている。一回の銀河周回には二十万年を要し、その二十万年の区切りごとに催されるのが、大掛かりな再会イベントの千夜祭だ。その期間中に、オジギソウ系統のシャウラ(語り手のワタシ)は、リンドウ系統のマンテマと出逢う。マンテマはひそかにシャウラの部屋の戸口にベラドンナの花を置いていたのだが......。抑えた抒情が立ちのぼる一篇。銀河周回という長大なスケールを前提としながら、はかない夢のような感触がある。
T・キングフィッシャー「金属は暗闇の血のごとく」は、心温まるストレートな宇宙SF。「むかしむかし、あるところに男がいて、巨大な機械を二台造り、たいそうかわいがった」という出だしからはじまる。制作者の男は自分が年老いてしまうことを案じ、ブラザーとシスターと呼ばれるその二台が宇宙へと出ていけるよう計らう。そこから二台の冒険がはじまった。
カリン・ティドベック「スキーズブラズニルの最後の旅」も、読み心地の良い物語。スキーズブラズニルというのは生体宇宙船だ。
(牧眞司)