林譲治が得意とするファースト・コンタクトSFの新作長篇。作品ごとに独創的な異星人の生態・文化をハードSF(自然科学のみならず人文科学的にも)の強度で創造し、有機的にプロットへ絡めてきた作者だが、この作品ではいかなる趣向を見せてくれるだろうか。

 物語が開幕するのは2034年。日本の無人木星探査衛星「さいせい」は、直径100メートル、長さ500メートルの葉巻型の物体と遭遇する。地球外文明に由来すると思われるその物体は電波を出しており、信号を解読したところ、なんとホモ・サピエンスのゲノムパターンそのものだった。これにちなんで、異星人はゲノムトーカー、巨大物体はGTB(Genome Talker Body)と呼ばれることになる。ちなみに作品名は『ゲノム・トーカー』でナカグロが入るが、種族名はゲノムトーカーだ。

 GTBからはその後、大量の画像データが送られ、それを解析した結果、ゲノムトーカーは1万6000年前に放たれた人類の全遺伝情報を受信し、発信源をたどって太陽系までやってきたことが判明する。しかし、1万6000年前といえば旧石器時代末期、人類の主流は狩猟採集生活だった。もちろん、宇宙への送信技術を持っているはずはない。この謎が物語前半を牽引していく。

 人類がGTBにどのようなメッセージを送るべきか逡巡しているあいだに、宇宙では「さいせい」搭載のAIとGTBとのあいだで、物理法則を基盤とした共通言語づくりが進んでいた。これがのちの意思疎通において、大きな足がかりとなる。

 いっぽう地上では、1万6000年前の謎をめぐり、無責任な古代文明ブームが発生していた。

とくに高度文明がかつて存在し、それが水没されたとの説が喧しい、インドネシアの海域での探査がおこなわれる。調査する側は、古代文明などいかにも根拠が薄弱で、痕跡など見つからないだろうと考えていたのだが、あに図らんや、海底で全長100メートル、幅70メートルほどの金属製物体が発見されてしまう。あきらかに人工物だ。NUMA(ナトゥーナの未確認金属遺物)と名づけられたこの物体は、調べれば調べるほど、驚異的な物性を有していることがわかる。古代文明というよりも、地球外の超科学技術ではないか。

 NUMAとゲノムトーカーとのあいだに、どのようなつながりがあるか? ゲノムトーカーは驚異的な通信傍受技術によって、事前に地球文明についてかなりの調査をしていたが、NUMAの存在は感知の外だった。しかし、NUMAに似た構造体はゲノムトーカーの惑星にもある。それは現在のゲノムトーカー文明がつくったものではなく、由来が不明だという。

 さて、ゲノムトーカーと人類とのコンタクト----通信を介してではなく物理的な接触という意味で----のために、月周回軌道に多国籍宇宙ステーション(MSS)が建造される。ゲノムトーカーは、いよいよ人類との対面というときに、次のようなことを言いだす。「我々が貴殿らがMSSと呼ぶ施設を月周回軌道に置くように提案したのは、この場所に送られる人員であるならば、我々の姿を見たとしても、理性的な対処が期待できるためである」。

 彼らはそれほどショッキングな姿をしているということか? この言葉を聞いて、コアなSF読者がまっさきに想起するのはアーサー・C・クラークの名作『幼年期の終り』だろう。

その予感は裏切られない。

 このほかにも、クラーク作品を彷彿とさせる要素がある。たとえば、海底で発見された謎の金属物体NUMAは『2001年宇宙の旅』のモノリスと似たイメージで、物語内の役割も共通するところがある。それ以上の詳細は作品の核心にかかわるため、ここでは伏せておこう。

 そして、ゲノムトーカーと人類とのコンタクトの行く先だが、これが凄まじい。『幼年期の終り』のような神秘主義的なニュアンスこそないものの、汎銀河的次元における知性・文明についての驚愕の真相が、クライマックスで明かされる。パースペクティヴのオーダーが飛躍的に繰りあがっていく急展開は、林譲治作品のなかでも屈指だ。

(牧眞司)

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