ハリルホジッチ監督は選手たちへの求心力に欠けていた(C)Getty Images

 ワールドカップの2か月前というのは、本大会に向けて選手の状態をチェックし、最終的なメンバーを決定するべき時期。そういう重要なタイミングに監督交代に踏み切ることには大きなリスクが伴う。

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 1998年フランスから過去7大会連続で大舞台に参戦している日本代表がその大ナタを振るったのはわずか1回。今から8年前の2018年ロシアW杯の時である。

「ハリル(ヴァイッド・ハリルホジッチ)監督の解任が発表されるのではないか」という情報が飛び交ったのは、4月8日のこと。9日午後には当時のJFAハウスに報道陣が殺到。物々しい雰囲気に包まれた。

「(3月の)マリ戦、ウクライナ戦(ともにリエージュ)の後、監督と選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきました。今までのさまざまなことを総合的に評価し、この結論に達しました。私は1%でも2%でもW杯で勝つ可能性を追い求めていきたい」と会見に出席したJFA田嶋幸三会長(現名誉会長)はまず解任理由を説明した。

 同時に技術委員長を務めていた西野朗監督を後任指揮官に据えることを説明。「最終的な意思決定は会長の専権事項だと私は認識しています」と最終的には田嶋会長自身が決断したことを明言したのだ。

 とはいえ、その決断は遅すぎたようにも映った。それまでにも火種はいくつもあったからだ。

ハリル監督は就任当初から体脂肪率12%以下を選手たちに押し付けたり、オフシーズンに突入したばかりに欧州組に猛烈な走りを課したりと、とにかく”自分流”が目立ったのだ。ホテルでのミーティングをコマ切れ状態で行うため、「休息の時間が取れない」と不満を抱く選手が続出。それをキャプテンだった長谷部誠(日本代表コーチ)が機嫌を損ねないように伝えて、改善をお願いしたこともあったという。

 一方で、自分に意見をぶつけてくる本田圭佑(FCジュロン)や香川真司(C大阪)のような選手を遠ざけるなど、数々の問題があったのは事実。ハリル監督を招聘した霜田正浩技術委員長も2016年にはJFAを離れていて、指揮官をコントロールできる人間がいなかったのも大きかったが、スタッフや選手たちが手を焼いていたのは間違いない。

2018年W杯直前のゴタゴタ劇…本番2か月前のハリル電撃解任はなぜ起きたのか──ロシア大会の舞台裏

ロシア大会はラウンド16でベルギーに敗れ、涙をのんだ(C)Getty Images

 それでも、JFA側は2017年8月末のロシアW杯アジア最終予選突破以降もハリル体制を維持。本番に突入すると見られていた。それだけにこの電撃解任には誰もが驚かされた。

 西野監督率いるチームが始動したのは5月21日。初戦・コロンビア戦は6月14日だったから、準備期間は約3週間しかなかった。もちろん監督が代われば選ばれる選手も変わる。3月遠征で呼ばれていた森重真人(FC東京)、森岡亮太、久保裕也、中島翔哉(浦和)らが外され、岡崎慎司(バサラ・マインツ監督)、乾貴士(神戸)、香川、武藤嘉紀(神戸)、柴崎岳(鹿島)らが選ばれたのだ。

そういった面々の抜擢は、西野監督の「ボールを保持して攻める時間を増やしたい」という意向の表れ。「デュエル」や「守備強度」「タテに速い攻め」を重視するハリル監督とは選手の好みが全く違うのだから、当然と言えば当然かもしれない。

 結果的にハリル監督が重用していた久保は落選。浅野拓磨(マジョルカ)や井手口陽介(神戸)も本大会直前までチームに帯同しながら、最終的に落選。割を食った格好となった。ハリル体制で最終ラインの要を位置づけられた槙野智章(藤枝監督)、ボランチの主軸となっていた山口蛍(長崎)も控えに回ることになり、悔しさを味わったことだろう。

 まさに悲喜こもごもの大会だったが、西野監督体制のチームは躍動感を取り戻し、コロンビア、セネガル、ポーランドという難敵揃いのグループを突破。ラウンド16まで勝ち進んだ。ハリル体制で重用されていなかった乾が2ゴール、本田も1ゴールを挙げるなど、2か月前とは全く別のチームに変貌したのは確か。本当にW杯は戦ってみなければ分からない体感だと痛感させられた。

「1人1人が自分の意見を言った方が代表はもっと世界でやれるんじゃないかって。その意見をぶつけ合うことを監督が許してくれて、監督がまとめて、こういうチームになっていったのかな」と岡崎はベルギーに逆転負けした”ロストフの惨劇”の後、しみじみとこう語っていたが、ハリル監督に抑圧されていたものを解き放つチャンスを得たことで、この時の代表は好結果を残せたのかもしれない。

 ただ、大会直前の監督交代がいい方向に転がるとは言い切れないし、そういうことはこの先も起きてほしくない。今の森保一監督には8年間の蓄積を最大限生かした戦いを2026年北中米W杯で示してほしいものである。

[取材·文:元川悦子]

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