作者が自分のおじさんの生前にしたあんな話やこんな話を綴った4コマエッセイ『身内にヤがおりましてん。』
そう、「ヤ」とはつまり「ヤクザ」。


家出少女をかくまってシンナー中毒にして奥の部屋に転がしたり。
ショバ代集めて払えないなんて言う店があれば店主を殴ってぶん回して店を潰す。
トラックに怪しいドラム缶を乗せて夜の海へ……
いくら亡くなった人の話とはいえ身内のそんな事描いていいの!?
と、読んでてハラハラ。

中でも印象に残ったのはおじさんの弟分が鉄砲玉をやることになった話。
その弟分が主人公(子供の頃の作者)に「今度遊園地連れてったる言うたけど行かれへんようになってもうた」と告げて主人公は遊園地に行けないと号泣。
周りの大人もそれを見て号泣。

が、しかし。
なんと標的だった組の幹部がその当日の朝に脳梗塞で死亡してしまい計画は取り消し。
翌日から何もなかったようにおじさんの家にいる弟分……。
なんて気まずいんだ……。
思わず脱力して笑ってしまった。
ヤクザじゃないと有り得ないマヌケエピソードだなぁ。


作者のカツピロさんにメールインタビューをお願いしたところ「ありがとうございます!ぜひやらせてください!」と、快くOKをしてくれた!


ーーカツピロさんが『身内にヤがおりましてん。』を書くまでのことを教えてください。

カツピロ 某青年誌でデビューしたものの、そっから15年ぐらいまったくもって世間に受け入れられることなくて(笑)。

ーー15年も!?

カツピロ 当時からライター業もやってたので「このままそっちにシフトしてくんだろな」と思ってるところに増刊の依頼があり、ネタないから身内の話でも描いてお茶濁そうと(ヤ)話を描いたら、担当から「アンケート2位です」って連絡があって、いまに至るという状況です。

ーー結構過激な話もありますよね。ご家族や親戚から反対はなかったんですか?

カツピロ いえ、身内には一切いってません(特に現在も(ヤ)活動中の親戚関係には)(笑)。
なのでネタがなくなったときは何気に電話して昔話にもっていき、情報を引き出してます。

ーーおじさんに影響を受けているなーという部分はありますか?

カツピロ 《仁義》ってことに関しては影響受けてると思います。もちろん生死や法に触れること以外ですけど(笑)。仕事にしろプライベートにしろ、微々たることでも良くしていただいた方々は極度につくします…でも微々たることでも裏切った人間には極度に手厳しい(笑)。この辺はホントにおじさんっぽいなと思います。

ーー作中ではおじさんと居るのがとても楽しそうでした。
当時は恐くはなかったんですか?

カツピロ 身内なのでまったく。(ヤ)さんってやっぱりファミリー愛みたいなのが半端ないんで、おじさんはもちろん、仲間の(ヤ)の皆さんにも可愛がられた思い出しかありません。

ーー本作で1番気に入っているエピソードはどれですか?

カツピロ 運動会やプールの話あたりです。(ヤ)も載っていっても任侠の世界が舞台でなく、我々の日常が舞台でそこに(ヤ)さんが入ってくるとこーなる…ってところが入りやすいし新しいかと。

ーー小学校の借り物競争でおじさんが普通に「白い粉」を出した時は吹き出しました(笑)。おじさんと遊んだなかで、今でも役に立っている知恵や出来事ってあるんでしょうか。


カツピロ 漫画にも描いたことあるんですが、刺青の色が所々抜けてるのは大体は彫ってる間に服役してたからとか、龍の刺青入れてるのは関東の(ヤ)さんが多いから(いまは微妙にちがうみたいです)、大阪にいらっしゃるのはたいがい流れ者とか…
友人とサウナなんかに行くと(ヤ)うんちくが語れます(笑)。

ーー大きくなってからカタギとの常識の違い等に気づいたりは?

カツピロ 普通のお宅にはチャカもないし、いけないお薬もないし、賭場も開いてない…というのをだいぶ経ってから知りました(笑)。

ーーそんなの普通の家庭にはありません(笑)。他に執筆中にあった面白エピソードがあれば是非。

カツピロ 数年前、とある組の継承式に取材でおじゃました時、そこにいらしてた某組の組長さんが自分の真横の席で「カツピロって知ってるか?」ってお話しされ始めて…。「いつもやばいことしか描いてないから、もしやウチの漫画読まれて逆鱗に触れたかも!?」と怖々、「あ…あの本人ですけど」っていったら、「いや~ウチの女がファンでさぁ」っておっしゃっていただいて。
後日、その組長さんからお食事ごちそうになりました(笑)。

ーーうおぉ、それは……。僕なら恐くて黙りますね(笑)。では、よく聞かれて困る質問とかはありますか?

カツピロ 聞かれて困るというか、こういう漫画描いてると「あいつのバックには(ヤ)がついてる」的に思われるみたいで(笑)。身内に(ヤ)がいただけで本人はカタギ!バックなんてなんにもないです~。

ーー自分はヤの道に進もうとは思わなかったのですか?

カツピロ モノ作る方向に進みたかったんでまったく頭になかったですが、いまにして思えば身内に(ヤ)がいるより本人が(ヤ)だった方が漫画家として有利だったと思います(笑)。


ちなみに……
1番気になるのは作中の担当さんが最初はSさんという人だったのに途中からHさんという人に替わっている事。
漫画家の担当が替わる事はよくある事だけど単行本1冊出す間に替わるものなの?
もしかしたら、もしかして……。(渡りに船)