2011年7月24日に、地上波デジタル放送への完全移行が終了して早5年。このプロジェクトの意義は、美しく鮮明な映像と共に、双方向性が実現することにありました。
いわゆる、“視聴者参加型テレビ”というやつです。
リモコンのボタン一つで、テレビを見ている人が番組側の質問に答えたり、意見を発信したりすることが可能になるという、一方通行ではないコミュニケーションの成立を期待したわけです。それによって、テレビは私たちにとってグッと近い存在になるはずでした。

しかし、現状はどうでしょう。大して変わっていないのではないでしょうか? それどころか昨今放送されるテレビ番組の多くが、いささか世間のニーズと乖離している感さえあります。
実際に、かねてより続く視聴率の低下傾向に歯止めは掛かっていないようですし、単純なテクノロジーの進歩では解決できない深い溝が、今やテレビと視聴者の間にあるのかも知れません。


視聴者参加型の先駆け? ポケットビスケッツの署名運動企画


そう考えると、日本テレビでかつて放送されていたバラエティ『ウッチャンナンチャンのウリナリ!』で起きたポケットビスケッツのブームは、これぞ“視聴者参加型”と呼ぶに相応しいものでした。
何せ、新曲のリリースをかけた署名運動企画で、最終的に178万人分もの署名が集まったのです。締め切り後に届いたものを入れると、200万人分にまで達していたといいます。

企画が実施されたのは1998年。今のように、スマホや地デジ用リモコンで簡単に票を入れられる時代ではありません。メインは街頭での手渡し。しかも、ポケビファンの小学生が中心となって、商店街やスーパーの前で行っていました。
そんな草の根活動で200万人もの署名を集められた要因は、果たしてなんだったのでしょうか?

「歌手になりたい」千秋の夢に多くの人が共感


まずは、ポケットビスケッツの概略から説明していきたいと思います。ポケットビスケッツことポケビが誕生したのは、1995年。この時はまだ無名のタレントだった千秋の、「歌手になりたい」という夢を叶えるため、彼女と内村光良(TERU)、ウド鈴木(UDO)の3人で結成されました。

当時の『ウリナリ!』においては、女優の高山理衣をアジアへ売り出す目的で結成されたユニット『McKee』の添え物的扱いだった同グループ。しかし、シングル同時リリースでの順位対決にて、僅差で勝利を収めてからというもの、番組ではポケビメインの企画が推し進められていくようになります。
以降は、その活動を通して「前作の売り上げを超えられなかったら即解散」など、過酷な課題を突きつけられながらも、それをクリアすることでユニットとしての結束を強めていった3人。特に、千秋が自分の夢に向かってひたむきに努力する姿は、多くの視聴者から共感を呼びました。


街頭で署名用紙を配る子供たちが無関心な人の気持ちも動かした


こうした感情移入させる番組内容こそ、ポケビを人気グループにし、先述した企画で多くの署名が集まった要因なのですが、そもそもこの運動、一筆書いた200万人全員が熱心なファンかといえば、もちろんそんなことはありません。

では、無関心な人の心をどう動かしたのかというと、答えは簡単です。例えば、街頭で子供から「お願いしまぁす!」とまっすぐな眼差しで署名用紙を渡されたら、どうしょう。「まぁ、書いてやってもいいか」となるのではないでしょうか?
おそらくそうやって、一部のちびっ子たちの熱意が興味のない人の気持ちをほんの少しだけ動かし、中には「じゃあ、自分も近所で配ってみよう!」という人も現れたはず。そういった波が全国に伝播していき、ついには、大きな「POWER」になっていったのだと思われます。
そんな本当の意味で、視聴者が参加したくなってしまうような番組がまたつくられることは果たしてあるのでしょうか……。

(こじへい)

ポケットビスケッツ/スーパーベスト