アメコミはアシスタントを使わず外注する 仕事量と報酬が明確な米漫画事情

アメリカは日本と同じく大きな漫画市場を抱える国だが、漫画家の働き方に違いはあるのだろうか。日本で売れっ子の漫画家は、複数のアシスタントを雇うことが多い。
なぜなら漫画雑誌での連載や締め切りのタイトさから、漫画家一人で全ての作業をこなしていけないからだ。
一方でアメリカはどうだろうか。実際に現場の様子を聞いてみると、いろいろな面で異なっているようだ。

仕事量と報酬が明確なアメリカ


「連載物の漫画に関しては、漫画家が、ストーリー、草稿、ペン入れ、カラーなどすべての作業を一人でこなすことは非常にまれです。多くの場合において、分業できる部分は委託しています。ただし、日本のようにフルタイムでアシスタントが漫画家のオフィスに貼りつく構造ではありません」

こう話すのはアメリカのコミック・アーティスト、レズリー・ハングさんだ。ハングさんはカリフォルニア州を拠点に活動し、現在『SNOTGIRL(スノットガール)』をブライアン・リー・オマリーさんと共同で連載している。インスタグラムのフォロワー数も16万人を超える、アメリカの売れっ子クリエイターである。
アメコミはアシスタントを使わず外注する 仕事量と報酬が明確な米漫画事情
アメリカでコミック・アーティストとして活躍するレズリー・ハングさん

アメリカは地理的に広大だ。そのためリモートベースで行えるような、働き方の多様化が進んでいるという。

「分業は日本のような形でアシスタントを雇うことはせず、完全に外部に委託するケースが多いです。近年はコミックのデジタル化が進んでいるため、例えばカラーリングの部分であったら(筆者注:アメリカの漫画は日本の漫画と異なりフルカラーであることが多い)外部のフリーランスの人か、グラフィックを担当するカラーリングの下請け会社に委託します」(ハングさん、以下同)

外注する際、労働時間などは当然どんぶり勘定ではなく、きちんと定められる。ハングさんによれば、パートタイムでアシスタントを雇う場合、プロジェクト(コミック)ベースで雇う場合、いずれのパターンでも賃金は時給ないしはページ数で決められるため、外注先へ払う金額は明確になるという。



キャラクターは作者ではなく出版社に帰属する


日本で駆け出しの漫画家は、売れっ子漫画家のアシスタントとして、いわゆる丁稚奉公のような形で経験を積み、そこから一人前の漫画家に巣立っていくパターンが多くある。また、アシスタントを経験せずに出版社の新人賞に応募して機会を得る人もいるだろう。アメリカでは、どのように漫画家になる人が多いのか。

「アメリカでも、人によってデビューまでにはいろいろなケースがあります。ただアメリカのコミック業界で多いのが、個人で作画から編集までをこなして、自費出版から始める人でしょうか。その中で一部の人が世間の目に止まって、インディーズから大規模なマーケットに進出していきます」
アメコミはアシスタントを使わず外注する 仕事量と報酬が明確な米漫画事情

デビュー後はどれくらいの報酬がもらえるのだろうか。フリーランスの雇用情報を扱った米ウェブサイト・フリーランスライティングによれば、平均的な人で1ページ100〜300ドル(約1万700〜3万2000円)、売れっ子になると1ページ1000ドル(約10万7000円)に達することもある。

ただしアメリカの漫画家に悩みがないわけではない。そのひとつが、漫画家と出版社の関係およびキャラクターの著作権だ。

ヒーローもののアメコミに代表されるように、アメリカではキャラクターの著作権は漫画家ではなく出版社に帰属することが慣例だ。出版社はそのキャラクターを使用する権利を持っているため、そのキャラクターを生み出した漫画家を使わなくても、他の漫画家を用いてそのキャラクターを使ったストーリーを継続して連載させることもできるのだ。

「出版社側ではなく、もっと漫画家側が自発的に創作活動をリードしていけたら良いと思っています。ひいてはコミック業界を支えている読者に、業界全体がもっと近づいていくことが、アメリカのコミック業界の発展につながっていくと考えています」

アメリカは働き方が明確である一方で、日本にはない葛藤があるようだ。

(迷探偵ハナン)


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