朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第2週「1939-1941」

第9回〈11月11日(木)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第9回「安子さんとともに生きたい」幼い安子と真面目な稔が健気すぎる
写真提供/NHK
※本文にネタバレを含みます

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「安子さんとともに生きたい」

『カムカムエヴリバディ』はゆったりかと思えば駆け足に、おもしろいテンポになっている。半年で100年間、三代のヒロイン(上白石萌音、深津絵里、川栄李奈)を描くということは半年でひとりの半生ないし人生を描く通常の朝ドラより進行が早くなる。実際、第1週・第2回で早くも子役から本役に変わり、主人公・安子(上白)の14歳の初恋の物語がはじまった。


【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜9回掲載中)

第1週・第5回でまず安子と稔(松村北斗)の関係が深まり、第2週・第6回で岡山と大阪、遠距離の往復書簡のやりとり、第8回で安子には父・金太(甲本雅裕)に政略結婚を命じられ、お別れするつもりで大阪に稔に会いに行く。映画、食堂、夕日の河原をふたりで堪能し、帰りの列車で安子が泣いていると、稔も乗っていた。

安子の様子がおかしいことを心配した稔は急行に乗って追いかけてきたのだという。同じ列車にずっと乗っていたのかなと11月10日放送の『あさイチ』で博多華丸大吉、鈴木アナが語っていたが、たしかにずっと同じ電車に潜んでいたらと思うと微妙な感じもするが、そこはちゃんと急行に乗って来たというセリフがあってナットク。懸命に急行に乗って追いつこうとする稔の表情が浮かんでくるようだ。そして急行に乗ることのできる財力があることも改めてわかる。さすが雉真繊維の御曹司。

岡山に着いた稔は安子と一緒に橘家に挨拶に来る。「甘うて美味しいお菓子を怖え顔して食べる人はおらんでしょう。怒りおってもくたびれとっても悩みょうおっても自然と明るい顔になる。それが嬉しいんです」と安子の言葉(第5回より)を引用し、自分にとって安子はそういう存在だと言う稔。

ここはとてもオーソドックスなお茶の間芝居(居間の引きと各々のアップ)なのだが、このかっちりした画角が登場人物の真面目さを引き立てる。
正々堂々とやると逆に新鮮に映る。この時代、正式にお付き合いしたいと挨拶することは結婚を前提ということのようで、それはもうふたりは真剣だ。

「安子さんとともに生きたい」と凛々しい挨拶に橘家一同は圧倒される。こんな立派な申し分ない人はいないだろう。だが金太は砂糖のために安子を雉真家に嫁がせるわけにはいかなかった。砂糖のため家業のためと聞いて、稔は今後戦況が悪化したら砂糖どころか菓子自体を作ることができなくなるだろうと予想する。そんなにも戦争はひたひたと安子たちの生活に影を落としはじめていた。

ああもうこんな時に、なぜ算太(濱田岳)がいない。いたずらに一瞬戻ってきて、家族にぬか喜びさせて……。

金太はいい返事をしなかったが、安子はもはや走り出した汽車が止まらない勢いで、帰る稔を追いかけて、「あなたと日向の道を歩いていきたい」と強く言うのだ。「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」にすっかり影響されている。あとさき考えず恋する気持ちに正直な幼い安子と真面目な稔があまりにも健気で、応援するしかない気持ちで見てしまう。


お見合いがなくなった

その後、きぬちゃん(小野花梨)と安子が話す場面で、お見合いがなくなったことがわかる。めちゃくちゃ深刻だったのにあっけない。ここはいつもの朝ドラっぽい。『カムカム』はゆるやかと駆け足が交互にくる。14歳の初恋から結婚? そこに戦争と足早にお話は進んでいく。

第2週は1939〜1941年と2年間経過している。でも安子と稔のやりとりはものすごく丁寧に描いている。喫茶店でコーヒーに砂糖を入れて飲むとか、自転車の練習とか、夕日を見ながら語らうとか、じっくりと。

第8回の大阪から岡山まで安子が帰るところは、その距離感を出すためにタイトルバックを流した。大阪から岡山までの時間を主題歌「アルデバラン」の70秒バージョンで表した。この歌がスケールの大きな宇宙規模のような雰囲気のある楽曲だから、列車の長い時間を表すにはぴったりであった。朝ドラは土地から土地への移動時間がワープのように一瞬に思える時はよくあるが、『カムカム』はそれを見事に払拭した。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第9回「安子さんとともに生きたい」幼い安子と真面目な稔が健気すぎる
写真提供/NHK

こんなふうに時間の観念を大事に、ゆったりじっくり安子と稔の関係性を描いていると思えば、第9回ではお見合いがなくなったかと思えば、稔の弟・勇(村上虹郎)がいきなり兄に宣戦布告。
もともと勇は安子が気になっていたとはいえ、ふたりの間に割って入ることなどできそうにもない雰囲気にもかかわらず、稔に勇は「わし、あんこのことが好きなんじゃ」とまるで角から飛び出してきた猫のような不意な発言。

ゆったりしているようで時々急カーブ。でもこれ、作家が翻弄されているのではなく、計算してやっているように感じる。人間の時間の体感は時々、時間通りではない。ゆっくりに感じることとあっという間に感じること。人間の感情が作用していることがある。『カムカム』では動かしようのない時の流れのなかで、人それぞれの記憶の時間を刻みつけていくようなそんな感覚を受ける。

勇の気持ちを理解して「勇ちゃんだったら丸うおさまったのになあ」と言うきぬに、安子はぴんと来てない。そんなふうに勇はまったく勝てる要素がない気がするが……。

「わたしの日向はどこじゃ」。『あさイチ』の黒沢かずこの発言が効いていた。徹底的に真面目に隙なく作ったドラマだから黒沢さんのとぼけた一言がハマる。
よくできたドラマはあとの受けも面白くする。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪



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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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